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#11 書店員/出版者【北田博充】④

【H…Hiromi / K…北田さん】

▪️H. それに、「二子玉川 本屋博」という本のフェスを開催されていたじゃないですか。
本屋博の「唯一無二の書店」っていうのは
すごいパワーワードとして残っていて。

本屋さんって、来てもらわないと始まらないじゃないですか。こちらから出向いて、アピールをしていく本屋さんってすごく新しいなと思いました。それに、本はどこでも売ってるし、内容も一緒だし、唯一無二って作りづらいのではないかと。よければ、「二子玉川 本屋博」をやろうと思った経緯を伺いたいです!

▪️K. 普段本を読まないような人って
書店にそもそも足を運ばないので、
書店の中で何かを頑張ってもその人たちを
本に引きつけるのは難しいわけですよ。

だったら、オープンスペースの屋外で魅力的な本屋が一堂に会するフェスを開催すれば、通行人が立ち寄って本に興味を示してくれるのではないかと思い企画しました。

音楽ライブもあり、キッチンカーにも出店してもらったので、足を止めてくれるお客さんがとても多かったです。音楽と食っていうのは、
みんな共通で興味を持ってくれるみたいです。

音楽が流れていたら足を止めるし、
美味しい匂いが漂っていたら足を止める。

そこに本があったら、本に興味を持ってくれるかなっていう考えがあったのが1つ。

もう1つは、読者にとって1番幸せなことを
提供したいっていうのがありました。

それは普段本を読まない人というよりは、
もうすでに本屋が好きで、
本が好きな人たちが1番喜ぶことをしたいなと。

やっぱり、各地の名店というか、ユニークな本屋さんが1か所に集まればそれが1番面白いだろうという、そういう感覚ですよね。

▪️H. たしかに、行きたい本屋さんはたくさん
あるけど、距離が離れて行きづらい場所も
ありますねもんね。様々な本屋さんが勢ぞろいしている空間をイメージすると行きたくなります。

▪️K. すごい熱気でしたよ!

▪️H. 本が好きになる人も増えますもんね。

▪️K. いるでしょうし、やっぱりいくら本屋好きでも、全ての本屋を知ってる人はいないので。
そこで初めて知った本屋さんに、フェスが終わった後に行ってみようとかっていうきっかけ作りができましたね。

▪️H. 本屋さんのある地域を活性化させることにも繋がっているんですね!そういうきっかけ作りを書店員さんが考えてるのがすごいです。
「狭義の本屋」でも「広義の本屋」でもあるんですね。

▪️K. たしかにそうですね。

▪️H. 北田さんは出版業界のことを広く見られていますよね。本屋さんのことだけを考えていればいいっていう部分もあるじゃないですか。

でも、本の魅力を伝えるってなると、
きっかけ作りもそうですし、どうやって深く深く本のことを知ってもらうのかもそうですし。

▪️K. なんでそういう考えに至ったのかはわからないんですよ、正直。でも、強いて言うなら、 自分が子どもの頃から本好きだったわけではない、というところが大きいと思うんです。

『本屋のミライとカタチ』の中で、TikTokerのけんごさんにインタビューをしましたが、けんごさんも大学生になってから本を読み始めたそうです。この業界で働いてる人たちって、子供の頃から根っからの本好きでっていう人たちがいっぱいいるわけですよ。私もけんごさんもそういうタイプじゃないし、本との出会いが遅かったわけです。だからこそ、本が苦手な人とか、本を読まない人たちの気持ちがなんとなくわかるんですよね。

▪️K. だから、そういう人たちを
“本の世界に導きたい”って言ったら
偉そうなんですけど、そういう風に思うし、
それが天職だと思うんですよね。

天職って「巡り合う」っていうのと
少し違うんですよね。不思議な感じですけど、
私が職業を選ぶのではなく、職業から私が選ばれたと思っているんです。

選ばれたからには、ちゃんと自分の果たすべき役割をまっとうしたいし、そのためにできることは全部やりたい。

そういう職業と巡り合えるというのは、
とても幸せなことだと思います。


▪️H. ほんとに楽しんでますね。

▪️K. そうだと思います。

▪️H. 本屋さんの売上だけじゃなくて、全体を考えられた取り組みは、出版業界や読者の人生を変えるきっかけに繋がっていくと思います。

▪️K. 1人の力で世の中を大きく変えることは難しいです。ただ自分にできる小さなことはたくさんあるし、やってるうちに仲間が増えてくるかもしれません。

▪️H. その視野で見られてる本屋さんには
人が集まりますね。

▪️K. 出来ていないこともあるんですよ、いっぱい。 理想と現実は違うんでね。思うことの半分もできていないと思います。
でも、現実ってそういうもんじゃないですか。
その中でも、社内でできないことを社外でやるとか。自分なりに工夫しながらやっています。

▪️H. そうなんですね。でも、その想いを持たれているのが本当に素敵だなと。では、最後に今後どうしていきたいってありますか?

▪️K.それはまさにこの本で書いた通り、
新たな読者を作るためにできることを書店の外側でやるというのが次の10年の目標ですね。


▪️H. 書店員さんでありながら、
新たな読者を作ることもされているのが、
凄いですね。

▪️K. 結局は書店に絶対返ってくるので。
なかなか数字として効果は見えにくいかもしれないけど、そういう地道な取り組みがこの業界を元気にしていくはずなので。この本で問題提起をするところまではできたので、具体的に何をするかということを次の10年でしっかり実践して、それをまた本にまとめられたらと思っています。

▪️H. 次の10年の本も読んでみたいですね!

『本屋のミライとカタチ』の中には今のことを書かれているなって思いました。SNSのこともそうですし、本に対するモヤモヤと思っていたことを言語化してくれています。本屋さんや著者さんだけの話ではなくて、読者一人一人が当事者意識を持てる本だなと思いました。

▪️K. そう言っていただけると、そのために書いたようなものなので、本当に嬉しいです。

ただ、そう感じない人もいるんです。
実際に、何人かに言われましたけど、
やっぱりファンの人たちからすると、本が大好きで、この業界にたくさんお金を落としていると自負している人たちだから、「こんなに頑張ってお金を落としてるのに、ファンが業界を悪くするみたいなの書かないでくれよ」という人も中にはいらっしゃるみたいです。

でも、よく読んでいただいたらわかると思うんですけど、私はファンを否定しているわけではないんです。ファンはファンで大事ですよ、もちろん。でも、その人たちはその領域まで行くと自分たちで本を選んで買ってくれるので。もうそこまでたどり着くと、もう書店員ができることは少ないんです。

逆にそういう人たちに望むのは、
新たな読者にもそういう気持ちを伝えて、
仲間に巻き込んでほしい。


中にはライトユーザーを否定しちゃう人たちもいるので。業界の維持・発展のためには、ライトユーザーを増やしていくことがとにかく大事です。

▪️H.ライトユーザーの人が本の魅力がわかり
ヘビーユーザーに変わることもありますし。

それに、本を読むことも波もあると思います。
買う時は沢山本を買うけど、忙しくなったら離れるみたいな。それってライトユーザーでもあり、ヘビーユーザーでもあると思うんです。

▪️K. その通りです。

▪️H. 確かに。でも、本の魅力を伝えるのは、
誰でもできるじゃないですか。

別に本を書いてなくても、
本屋さんに勤めてなくても。

もし、自分がこの本いいなって思ったものを
”ちょっと聞いてよ、最近この本を読んでさ〜”って語ることがもう本屋さんなんですよね。

▪️K. そうです。それが「広義の本屋」なんです。

▪️H. その考え方を持つと、
自分にもできるって思える人は
たくさんいると思うんです。

▪️K. しかも、そこがすごく
重要な役割を担っているんです。

▪️H. 知らない人に言われるより、
親友や家族、恋人に言われた方が、
「あなたが言うなら読んでみたい」となって
熱量が伝わります。

▪️K.それが大事です。

先日、神戸市外国語大学で講演会をして、
その講演後に学生の方たちと
お茶しながらお話ししたんです。

一人の学生が、「最近、東野圭吾の『黒笑小説』を読んで、すごく面白かった」って言うので、「その本をなぜ読もうと思ったの?」と聞くと、「好きな推しのアイドルがSNSで面白いって紹介してたから読んでみようと思った」と言っていて。

ライトユーザーの場合、
「書店」とか「本」が入り口になるのではなく、好きな「人」が入口になったりするわけです。


この本では「広義の本屋」と「狭義の本屋」を定義はしたんですけど、実際、広義の本屋の仕事から狭義の本屋への導線作りはほとんどできていないので、これから取り組んでいければと思っています。

例えば、高校の教員は「広義の本屋」だと書きましたが、高校の先生がいくら本の魅力を伝えてくれても、書店という「狭義の本屋」で刈り取る場に導線を引けていないわけです。

▪️H.本屋さんとの繋がりができてないんですね。

▪️K.そういう意味では、高校の先生が書店という場で授業をするのもよさそうです。

▪️H. 「本屋のミライとカタチ」に出てくる国語の授業の話。演技する授業があるじゃないですか!面白いですよね。

▪️K. もっと書店の場でやったらいいんじゃないかと思うんですよ。

▪️H. もっと自由でいいなと。ただ本を買うだけの場所じゃなくて、書店を活用していけたらと思いました。

それに、本を読んで薦めた時点であなたは本屋さんだよっていうのも新しい考えでした。気持ちを軽くしてくれました。出版とか本屋さんってかっちりしたイメージがありますよね。

▪️K.そういうイメージはできるだけなくした方がよいと思います。本屋にライセンスなんかないんですから。読書自体のイメージも少し変えていかないとダメだと思っていて。

▪️H.黙々と、静かなイメージありますよね。

▪️K. 読書って地味とか難しいとか、内向的とか、知的とかってイメージがありますよね?

これからは、カッコイイとか、
お洒落とか、面白いとか、モテるとか、

今までの読書と違うイメージみたいなのを
戦略的に植え付けていかないと、
若い人は世の中に娯楽があふれてるので
本に手を伸ばさないですよね。


▪️H.確かに、面白い娯楽はたくさんありますね。ただ先ほどのキーワードがあれば
本に興味を持つ人もいそうです。

▪️K. 読書がそれぐらいカジュアルなものになればいいと思います。

▪️H. そうですよね。私も言語化してくれた
「広義の本屋」と思って頑張ります!

▪️K. はい、是非とも!頑張ってください。

▪️H.はい!今日はありがとうございました!

【第11回目ゲスト】
北田博充さん

梅田 蔦屋書店 店長・文学コンシェルジュ。
大学卒業後、出版取次会社に入社し、2013年に本・雑貨・カフェの複合店「マルノウチリーディングスタイル」を立ち上げ、その後リーディングスタイル各店で店長を務める。2016年にひとり出版社「書肆汽水域」(https://kisuiiki.com/)を立ち上げ、長く読み継がれるべき文学作品を刊行している。2016年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。現在、梅田 蔦屋書店で店長を務める傍ら、出版社としての活動を続けている。2020年には本・音楽・食が一体となった本屋フェス「二子玉川 本屋博」を企画・開催し、2日間で3万3,000人が来場。著書に『これからの本屋』(書肆汽水域)、共編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、共著書に『本屋の仕事をつくる』(世界思想社)がある。

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