小説【博物少女 ヒロメリエ!】#1-06
第1話 SCENE 3-①
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「久しぶりね? 時間にしたら一時間も経ってないけれど。」
先ほど道端で私の帰宅を妨げた黒コートの人物が二階部分の
階段の手すりに軽く手を掛け、こちらに声をかけた。
「それに、ここにくる前にもちゃんと伝えた気がするのだけど」
「“博物館の館長になった!”………とね」」
再び大声を出され、耳がキーンとなった。
しかもここは大理石で囲われた広く閉鎖的な空間。
音は尋常ではない反響の仕方で
落ち着くまでかなりの時間が掛かったように思われる。
「ッ……、ですから、その理由を教えてください。
そもそも、あなた一体何者なんですか?」
「ボク? そういえば名前を言ってなかったかしら。そうね……」
「えーとそれじゃあ、とりあえず“X“でいいかしら?」
黒コートの人物はベタベタなコードネームを提示してきた。
しかしこの世で“X“と言えば、ライブでドラムセットを破壊することを
ドラムメーカーに依頼されてるアーティストのいる『X』か、
はたまた参加者に無理難題を課すゲームの支配人がよく名乗る、
『ジョーカー』に並ぶ通称───
まさか、私はあの巷で有名な
デスゲームに参加させられているとでもいうのか。
謎の黒コートの人物、堅牢で逃げ場のなさそうな密室、
一見イカサマや借金とは無縁そうな不思議な少女……。
なるほど、今すべての点が線で繋がった。
この状況でデスゲームが始まらなくてなんだというのだ。
私はこのすずりという少女と命を賭けて
巨額のマネーを奪い合うことになるのか、
もしくはこれからさらに挑戦者が現れるというわけか。
さっき受け取ったこのペッドボトルにも毒が仕込んであるに違いない。
なんということだ。すでにデスゲームは始まっていたのだ。
「あ、デスゲームとかやらないから。ボクああいうの考えるの苦手なの」
まるで私の脳内を見透かしたようにXはデスゲームの開催を否定した。
「すずりちゃん」
「は、はい!」
「いらっしゃい」
Xは正面の踊り場まで降りてきたところですずりを呼びつけた。
<②に続く>
<前回>
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