【税務】山口県阿武町誤送金事件その1(請求の根拠)
これまで国税徴収法、地方税法、地方自治法、国民健康保険法と、裁判なくして差押えができること、国民健康保険税、回収する場合の優先順位などについて取り上げてきました。
さてこれらの理解を前提に、山口県阿武町誤送金事件について取り上げたいと思います。
以下の記事も参照して、仮定や推測を交えて取り上げたいと思います。
まず今回は、誤送金したものを取り戻すのはどんな理屈なのかということです。
誤送金した金額分の請求権の発生の根拠は何かということです。
人が人に対して何かを求める権利を債権、求められることを債務と言います。
債権と債務の発生は、民法上、4つの根拠しかありません。
①契約したのか、
②不法行為があったのか、
③不当利得したのか、
④事務管理したのか、
の4つです。
まず検討するのは①契約があったのかです。
契約という約束があればそれに拘束されるのが筋だということです。
本件では契約はないですね。間違って振り込んだのですから。
次に②不法行為があったのかです。
不法行為というのは何ら契約関係にない者同士で債権債務が発生する場合のうち、他人の利益を侵害した場合にその侵害により発生した損害額を賠償せよというものです。
典型例は交通事故です。
本件では、ご送金先の相手は何もしていません。ただ役場が誤って振り込んだだけです。何の利益も侵害していません。
いやいやいや、住民が受け取るはずだった給付金をご送金されたことを知って費消したんだから、住民の利益を侵害しているでしょ、と言いたい人もいるかもしれません。
これはこの場合との区別がつくでしょうか。
例えば、車を売って買主が代金を支払った場合で、その後にその車がエンジン不良であったことがわかり、契約を瑕疵担保責任で解除するとか、錯誤により取り消すとかで、支払った代金を請求することがあったとします。
しかし、車の売主はその代金を請求があってから費消したとします。
これは車の買主の利益を侵害しているでしょうか。
返金する余裕があれば構わないが、余裕ないならダメだ、と思うでしょうか。
費消したのは売主のお金です。
もちろん買主に返還しなければならない債務は負っているとしますが、そうであるとしても、何かを支払わなければならない立場にある者がお金を費消したら他人の利益の侵害となり不法行為なのでしょうか。
本件の場合も、誤送金されたお金を返還すべき義務を負う立場にある者がお金を費消したら、他人の利益の侵害となり、不法行為となるのでしょうか。
極めて難しいでしょう。
仮に不法行為となりうるとしても、何らかの理屈をこねくり回して理論武装しなければ太刀打ちできないでしょう。
ここでは不法行為ではないとします。
次に、③不当利得となるでしょうか。
これは契約関係にない者が法律上の原因がないのに利得を得た場合を言います。
本件はまさにこれでしょう。
念のため④事務管理となるかですが、これは義務もないのに他人のために仕事した場合にいくらか実費とか支払ってねというものです。
本件はこれにはなりません。
以上、誤送金のお金を取り戻すには不当利得返還請求を役場がすることになるということをまず理解いただければと思います。
この事件は法的問題の宝庫ですので、今回はここまでにしないと理解しきれないと思いますので、今回はここまでとします。