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一房の果実

オレンジの匂いが辺りに漂った。裏山に実る果実は、冬籠りの野鳥の為に残しておくようにとあれ程言っていたのに…。街へと続く道は寸断され物資ももう届かない。起き上がることさえ叶わなくなった僕の命を、この世に繋ぎ止めようとする妻は、固く結ばれていた口に傷だらけの指先で一房の果実を含ませた。


【御礼】ありがとうございます♥