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Moon Sick Ep.16


夢を見ていた。
高校生の俺と姉が歩いている。

俺たちは、夜の散歩をしているようだった。

市街地から離れているせいか
この辺りは、この時間になると
めっきり人通りが少なくなる。

だが、今日に限って
さっきから
何人もの人とすれ違っていた。

姉は、すれ違う人たち全員に
まるで顔見知りのように挨拶をしている。

確かに、すれ違った人の中には
何人か、顔見知りの人もいたのだが…。

『知らない人にまで声を掛けるのは
能天気過ぎるだろう。もう真夜中だぞ…』

半ば呆れて、そんなことを思いながら
姉の後ろを歩いていた。

姉は、俺の前を歩きながら
いつからか
小さな声で鼻歌を口ずさんでいた。
機嫌がいい時だけ
口ずさむあのメロディだ。
 
音楽アプリをあまり開くことのない俺には
聞き慣れないメロディだったが
俺は、基本的に
姉の声を好ましく思っていたので
こんな静かな夜に
散歩をしながら聴くのは嫌いじゃなかった。

姉の声は、歌うと、ふんわりとした音に変わる。
空気の中に溶け込んでいくような
癒やし系の声になるのだ。

「それ、なんの曲?」
聞かれて、姉は、俺を振り返った。
そして、微笑むように笑うと
また、歌いながら歩き始めた。

俺は、ふいに後ろが気になった。
なぜそう思ったのか、理由はわからない。
だが、気になり始めたら止まらなかった。
ついには、嫌な予感すらし始めた。

俺は立ち止まると、ゆっくりと後ろを振り返った。

その瞬間、ゾッとした。

さっき、すれ違った人たちが
俺達が、今歩いてきた道の向こうから
立ち止まって、皆、こちらの方を見ていたのだ。



飛び起きると、もう朝になっていた。
部屋の窓から、差し込む光が明るい。

頭に手をやり、しばらく考える。

さっきのは夢か?
それとも、現実?

起き抜けは、いつも頭がうまく回らない。

メガネを探し、視界をはっきりさせると
まず、自分の手を眺める。

手の形、大きさ
両手をひっくり返しながら
何度も眺める。

それから、自分の顔に手をやる。

自分の骨格、肌の感覚を
手で触って確認する。

そして、ようやく、今、自分がいる場所は
いくつの時の自分なのかを、認識し始める。

ここで、ようやく起き上がると
隣では、彼女が、まだ眠っていた。

起こさないようにべットを抜け出すと
洗面台に行き、顔を洗う。

そこで、鏡に映る自分の顔を見て
正解を確認するのだ。

その時、携帯の鳴る音がした。
ラインの通知だ。

ベットの傍で充電していた携帯を手に取ると
懐かしい友人の名前が、そこにあった。





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