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『神々の宴』

乾石いぬいし智子/創元推理文庫(小説)

オーリエラントの魔道師シリーズの短編集。

セリアス
運命女神リトンの指
ジャッカル
ただ一滴の鮮緑
神々の宴

の、五篇収録。


いぬいっさんが長編より短編の方が向いてるのか、私の頭が短編向きなのか、このシリーズは長編より短編が分かりやすく、説明もしやすく、面白い。
特に『ただ一滴の鮮緑』がすごかった。


死にかけた人をこの世に連れ戻すことのできる女性、チャファ。
おのれの命を分け与えている為、人を助けるたび彼女自身が老いていく。
三十路前にして肉体的には80代ぐらいの老婆になってしまった彼女は、老いているというだけで見知らぬ人々から冷たく扱われる。酒も売ってもらえない。
それでも目の前に助けられる人がいれば、文字通り命を惜しまず助ける。
相手が助かるかどうかは実はチャファの魔法の成否ではなく、神々が決めることだと言う。
チャファが助けたくないと思っても、神がそう決めればチャファと巡り合い、助かる人は助かってしまう。
助かる人が「いい人」とは限らないので、助けたことをチャファが周りから恨まれたりもするし、その時助かっても後日あっさり命を落とす事もある。


物語の後半、周りから助けなくてもいいんじゃないかと思われ、チャファ自身も気がすすまず、私も助けなくていいと思った人をチャファは助ける。
なぜ助けたのか、いつも彼女を支えてくれるモールモーにたずねられる。
その場面。「**」は助けた相手。私が伏せました。

「あたし、**の心の深いところに引きずりこまれたの。(中略)でね、**にはいい思い出しかなかったわ」
「……それは……」
「人の心って、不思議だね、モールモー。闇にのまれると、あんなふうになっちゃうんだ」
「いい思い出だけって……幸せ、ではないのかい?」
「幸せそうではなかったよ。おかしなことに。それが当然って感じ?いいくらしをしていい思い出を守って、でも幸せを意識できない」
 そうなるのが当然、と傲然と胸をはって、感謝がない。それは幸福感とはほど遠い寒々とした景色だろう。

『ただ一滴の鮮緑』


それが闇に喰われた者と魔道師の違いで、自分はそうはなりたくないとチャファは思う。
私もそう思う。

その後チャファにはいいことがふたつ起こるのでいい話だ。

登場した神々の中では戦神ガイフィフスが好きです。戦神とか軍神とか、いい…。次点は風伯アイトラン。

チャファとモールモーの
イマージュ

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