カスタマーサクセス担当VPが語る(1)

シリコンバレーのスタートアップ、パンティオン社の副社長として、創業期からカスタマー・サクセス・チームの立ち上げ・統括をしてきたスコット・マッセイさん。その貴重な経験をお話しくださったインタビューをご紹介します。

注:本人の許可を頂き原文の和訳を紹介します。

1.スコットさんの経歴を教えてください
私は、ITマネージド・サービスを利用する人に向けて、サーバーに生じた問題を解決するサポートチームを運営してきました。約5年前に、私はマイクロソフトのロゴが付いたカーキ色のシャツを着てサンフランシスコに到着し、それ以来、カスタマー・サクセスに取り組んでいます。

私はパンティオン社でカスタマー・サクセス・チームを立ち上げました。同チームの主な役割は、同社のPaaSを利用する開発者(ユーザー)が、サービスを上手く利用できるよう支援することでした。その仕事を通じて私は、カスタマー・サクセスの基本的な考え方や、それがパンティオン社の業績に大きく貢献する点にとても興味を持ちました。それで私は、カスタマー・サクセスのミート・アップ(自主的な勉強交流会)に参加したり、自分が主催者になることを、昨年日本に来る直前まで数年続けていました。日本は、私がある縁で恋に落ちた国で、実は2007年まで住んでいました。その後、一旦米国に戻りましたが、昨年再び戻ってきて、コンサルティング会社 (アストロコラッサル)を立ち上げました。

2.パンティオン社でカスタマー・サクセス・チームをどう構築しましたか?
私が入社した当時のパンティオン社は、まだとても小さく、カスタマー・サクセス・チームの役割も、基本的にはサポート機能の役割とイコールでした。当時を振り返ると、カスタマー・サクセス自体がまだかなり新しい概念で、さまざまな考え方があり、差別性ある明快な機能として確立していませんでした。従って、我々がまず最初にすべきだったことは、サポート機能を構造化したり、サポート・サービス品質を強化することでした。

そして、それらに目処がついた後、ようやく、顧客やユーザーが我々のプラットフォームをよりスムーズに利用開始するにはどうしたらいいか、を検討し始めました。そう、典型的なシナリオ構築です。つまり、オンボーディングを出発点とするカスタマー・ジャーニーをしっかり描くということです。具体的には、我々がターゲットとるするユーザーのペルソナを詳細に定義し、各ペルソナごとに、オンボーディングに無事成功してもらうにはどうしたらいいかを、彼らがつまずきそうなポイントを洗い出して、よくよく考えました。誰だって、自社のユーザーがサービス利用直後に問題と格闘する経験をして欲しくはないですよね。

そうして、まずオンボーディング・チームを作りました。最初は私自身もオンボーディング・チームの一人として、オンボーディング支援を繰り返し何度もなんども行いました。やがて、今では私よりもずっとオンボーディング支援が上手いメンバーを何人も雇い、私は裏方に回って管理業務を引き受けるようになりました。

そうするうちに、割と早い段階で、オンボーディングについて誰もが参照できる統一されたマニュアルが必要だということに気づきました。というのは、我々のプロダクトは割と複雑なうえ、プロダクトのユーザーも、API等を駆使した仕事をしていて最先端テクノロジーを要求する開発者が多くいたからです。そこで、私の配下に、社内ドキュメンテーション(マニュアル作成)・チームを作りました。彼らは、プラットフォームを利用するカスタマー向けのトレーニングを担当するトレーニング・チームとも連携しました。

まずサポート・チーム、次にオンボーディング・チーム、そしてドキュメンテーション・チームを作り、実は最後に、カスタマー・サクセス・マネジャーを配置しました。彼らは、オンボーディング直後からハンズオン支援を必要としている、レベルも収益もトップクラスのカスタマーに付きそい、彼らが我々のサービスを上手く使えるように全体俯瞰する役割を担いました。


3.カスタマー・サクセス・チームをスケールさせには?

最も重要なのは、あらゆる部門にカスタマー・サクセスを哲学として徹底的に浸透させることです。

サポート・チームの名前を単にカスタマー・サクセス・チームに変えただけで、良い仕事をするのに必要なツールを与えないでいれば、決して上手くいきません。カスタマー・サクセス・チームこそが、社内の誰よりもプロダクトを使う人とのやり取りを最も頻繁にするわけですから、彼らにフィードバックする手段を与えなければ意味がありません。

カスタマー・サクセス・チームの中でも、その点を明確にする必要があります。もし、カスタマー・サクセス・チームが、プロダクトをどう改善したらいいのかのフィードバックや、プロダクトがどう販売された結果、実際どう利用されたのかのフィードバックを、フィードバック・プロセスが無いがために出来ないならば、カスタマー・サクセスという仕事は非常にフラストレーションが高い仕事になってしまうでしょう。

従って、カスタマー・サクセスとは何なのか、それは単なるサポート業務ではない、ということを社員全員が正しく理解するまで徹底的に伝えて浸透させることが何よりも重要です。カスタマー・サクセス・チームは、ユーザーとのやり取りを経てプロダクトのエキスパートになるかもしれませんが、それだけでは会社全体の競争力としては片手落ちです。プロダクト・チームが、彼らからのフィードバックを適切に得て、理想的にはサポートやカスタマー・サクセス・チームの負荷が減るように、プロダクトをより良いものへと改善できる必要があります。なぜなら、より高度な要求をしてくるレベルの高いカスタマーがどんどん増え、そういうカスタマーがますます収益の大部分を占めるようになるからです。そして、常に新しい問題も発生し続けます。従って、問題が生じる都度、カスタマー・サクセス・チームからのフィードバックを得ながら、会社全体で問題解決に当たることのできる組織になることが超重要なのです。


4.カスタマー・インサイトを組織全体へどう共有するのですか?

カスタマー・サクセスにおいて「期待値」が共通テーマなのと似ています。つまり、カスタマー・サクセス・チームでは、カスタマーといかに良い期待値を設定・合意するか、というのは永遠の議論テーマです。そういう共通テーマとして、カスタマー・インサイトに関する情報が会社のマネジメント層レベルに広く知れ渡り、実際にマネジメントが耳にしたり関心を払うようになることが必要です。

外から来たばかりのカスタマー・サクセス・マネジャーがより良い仕事をでき、そして会社もより競争力を高めていけるために、明快なフィードバック・ループを持つことが非常に大切です。同様に、カスタマー・サクセス・チームが、プロダクト・チームやエンジニアリング・チームと対等な立場でテーブルについて議論できることが超重要です。

また、これは私の個人的な見解ですが、カスタマー・サクセスがリテンションにどう影響し、そしてそのリテンション率が会社の業績上どういう意味を持つのか、に関する明快な数値事例を持つことも非常に重要です。なぜなら、会社が成長するにつれ、日々の膨大なルーティン業務の中で、プロダクトに新たな機能を追加するとか、会社が何かを新たに提供するとか、そういった潜在的な成長余地を議論する際、「売上」が常に論点になるからです。そういう時に、カスタマー・サクセスとして、すべきだと思う変更を売上数値と関係付けて説明できる手段がなければ、議論が平行線になってしまいます。従って私は、カスタマー・サクセス・チームの人々は、自分が大切だと思うことを、ある程度実際のデータの裏付けと共に説明できる必要があると思っています。


5.カスタマー・サクセスをどう測定しますか?

私は、バランス・スコア・カードが大好きです。異なる視点に基づく幾つかの重要なメトリクスを設定することが非常に重要だと思います。皆さんは、カスタマー・サーベイだけでは不十分だと思うでしょうし、具体的な利用状況に関する正確なデータを把握したいと思う一方、全体像が見えなくなるデータだけに依存するのも不十分だと思うでしょう。ですので、異なる視点に基づいて分類された情報をバランスよく把握したいと思うのが自然です。プロダクトに応じてユーザーのタイプも異なるので、一概にどの情報が優れているとは言えません。単に簡単なクリックで入手できる情報だから使うというのではなく、ユーザーが我々のプロダクトをどれほど好んで利用しているのかに関するリアルな本音が把握できると信じられる情報を利用すべきです。

加えて、実際のプロダクトの利用データを入手し、それがどのプロダクト特性をどう利用しているのかと紐付けて入手できることも非常に重要です。なぜなら、プロダクト特性の追加リクエストは常にたくさん集まるからです。

通常、プロダクトのローンチ直後は次に何をすべきかが非常に明快ですが、時の経過と共に、徐々に次にすべきことが分かりにくくなるものです。そして、使われない特性がテンコ盛りになるのを回避するには、どの特性がどう利用されているかを把握したいと思うでしょう。従って、そのようなデータが全てきちんと議論テーブルの俎上に載ることが重要で、それこそ正にカスタマー・サクセス・チームの重要な役割なのです。なぜなら、彼らこそが、あらゆる視点や見解を見渡し、取りまとめ、解釈を与えることで、単なる思いつきや根拠不在の希望的観測ではない、真のボイス・オブ・カスタマーを提供できるからです。


6.カスタマー・サクセス・チームはどのような技術を武装しますか?
カスタマー・サクセスは人間同士のやり取りです。従って私は、カスタマー・サクセスが100%データ主導である必要はないと思っています。

一方、私はパンティオン社で、マーケティング・チームと一緒に、データに基づいてカスタマーを理解し初期ペルソナを実験的に作ったことがありますが、それはとても有意義な経験でしたが。なぜなら、マーケティング・チームはペルソナ構築の経験が豊富ですが、彼らは常にファナルの入口にいるペルソナを考えていて、でもそのペルソナがファナルを通過して反対側、つまり出口に至るまでにはどんどん変わっていくからです。

データに基づいて、自社プロダクトを利用する人たちの特徴を示すペルソナを定義することは、出発点として非常に役に立ちます。ペルソナ定義の次は、ペルソナごとにカスタマー・ジャーニーを定義します。通常、先に述べたオンボーディングがジャーニーの出発点になるでしょう。そこから先は様々です。無料サービスから有料サービスへの移行とか、AプランからBプランへの乗り換えとか、あるプロダクトの初回の利用、2回目の利用、3回目の利用という変遷だとか、API統合だとか、本当に様々なジャーニーがありえます。そういう様々なジャーニーを横軸に、そしてペルソナを縦軸において、マトリクス表を作成し、各格子の中身について、誰がどう上手くプロダクトを使っているとか、誰が何に困っているとかの詳細を書き出します。そして、その中で気になる特定グループに対し、プロセスやドキュメンテーションやツールをどう改善したら良くなるか、ということを明らかにしていきます。

会社が成長するにつれ、最初は想定していなかった新しいペルソナが重要なカスタマーとして現れるのを発見したり、逆に存在感が薄くなりやがて消えていくペルソナもあるでしょう。こうしてペルソナの動きをデータで正しく把握できていれば、あるペルソナを今後は自社プロダクトのターゲットにしない、という辛い意思決定を下すことも出来るようになるのです。


7.注目すべきカスタマー・サクセスのテクノロジー動向は?

現在は、様々なデータを取得したり、カスタマー・サクセスの総合スコアを構築するのに役立つ、優れたプロダクトが沢山あります。それらは、マーケティング・オートメーションや、セールス・オートメーションとも統合され、販売のビフォー&アフターやカスタマーのライフタイム全体など、様々な局面を統合して理解するのに大変役立ちます。私は、そういうプロダクトを作る会社が機械学習を用いて何をしているのかをじっくり観察していますが、それらは本当に素晴らしいです。

重ねて、私が超重要だと信じて何度も強調したいのは、カスタマー・ジャーニーです。カスタマー・ジャーニーは、ますます多くの企業によって広く適用されていくでしょう。その結果、ジャーニー上のマイルストーンや、目ウロコな瞬間などが次々と明解になり、人びとはジャーニーに沿ってより先へ進みたいと考えるようになるでしょう。そして、カスタマー・サクセスが望むもの、プロダクトが望むもの、最終的には組織全体が望むもの、というような感じに、やがてそれは統一されたものになっていくと思います。私は、ジャーニーの活用が時と共にどう発展しているかをずっと観察していますが、それはますます良くなってきています。


8.カスタマージャーニーをどう活用しますか?

営業活動を1つのモデルと捉えたり、マーケティングを1つのモデルとして捉え、人びとがそのプロダクトをどう発見し、使用し始め、有料サービスを利用するカスタマーになっていくのかを理解することが出来ます。なぜなら、それはある意味でジャーニーの一種だからです。

売上は、ある人にとってその価格なら欲しいと判断した任意のマークのようなものですから、その価格なら要らないと思う人もいますし、もしそれがフリーミアル・サービスだったなら何ヶ月も何年も前から使いたかったと思う人もいるでしょう。従って、それは非常に有機的なプロセスであり、ご承知の通り、本当に様々な計測方法があります。なので通常、オンボーディングがジャーニーの出発点になるのです。オンボーディング後、あなたのカスタマーがどこで最も困り、何に対して苦情を言っているのか、使えないよ!とか、こうしたいのに出来ないよ!とか、その機能がプロダクトに本当に必要と思っているかの本音とか、ある特定のペルソナが実はもっと良いドキュメンテーションを必要としてるとか、何をどう使えば良いかをリマインドするキャンペーンが必要そうだとか、そういったこと全てを知ることができるのです。

従って、プロダクトを良く観察し、そのプロダクトを利用するカスタマーを良く観察する必要があり、そうすることでパターンを見出すことが出来るようになります。そして、パターンを見出す上で、カスタマー・ジャーニーは非常に優れた出発点になるのです。


9.カスタマー・サクセスの最新情報をどう入手していますか?

私は、皆さんの最新動向に関する情報を得るのに、ツイッターを唯一の情報源としています。リンクトインも、読者が多く、また常に思考し続けるのに有用な非常に充実したコンテンツが多いので、大変便利だと思います。

私は数年前、コミュニティに参加しました。サンフランシスコは何かを学ぶには最適の場所です。なぜなら、人が話していることを「知らない」と言ういうことに対して寛容で、知らないなら知ってる人の元へ行き質問をすれば良い、という土地柄だからです。

私がミートアップに関わったのは、当時私が着任したばかりの新しい仕事(スタートアップのカスタマー・サクセス部を統括する副社長)で何をどうすればいいのか知りたいという、完全に自分の利益のためでした。ミートアップに関わって、とても多くの人と話をし、ヘルプをお願いすることは、決して斬新なアプローチではないですし、中にはヘルプをお願いするのが苦手という人もいると思いますが、少なくとも私にはとても有益なアプローチでした。

そして今は、ニュースレターを始めました。昨年立ち上げた会社、アストロコラッサルの活動です。それは自分にとって、思考を重ねて消化しなおす良い機会になっています。東京でも近々、カスタマー・サクセスのミートアップを主催したいと思っています。とても楽しみです。

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