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面倒くさい仕事の注文もありがたい「富山曼荼羅彩」のガラス

私が住む富山市は「ガラスの街とやま」をつくることに40年近く前から取り組んでおり、富山県でも「とやまブランド」の一つとして富山ガラスを推奨しているくらい、ガラス推しの地域だ。
でも「富山ガラス」って何? 富山ならではの特徴は? と問われると困ったことになる。焼物であればその地域独自の土があり、その土を使うから生まれる特徴や伝統がある。それに比べるとガラスは全国どこでも同じ素材を使う。しかも色を付ける材料は世界共通で、吹きガラスならクグラーやライヘンバッハ、ランプワーク用ならモレッティやブルズアイ。欧米のガラスメーカーに頼らざるを得ない現状。

富山でガラスの製作拠点となる「富山ガラス工房」で、富山のガラスの独自性を高める目的で「富山曼荼羅彩」が開発された。今のところ「①越翡翠」「②越碧」「③越琥珀」がそれに該当する。

「①越翡翠」は日本の翡翠産地である富山ならではの色、炎の当て方で発色が変わるのが面白いし難しい。原材料にも翡翠を使用しているそうだ。
「②越碧」は、富山湾の海の色を思わせる緑がかったブルーで、これは私もとても好きな色。発色も良く安定していて素材としては問題なく使用できる。
「③越琥珀」・・・一番新しい「曼荼羅彩」の色だが、大変に面倒な色。なにしろ炎に入れると弾ける割れる。出来上がった作品が割れてしまうこともしばしばで、材料としては欠陥品ではないの?と思うような難しいガラスだ。吹きガラスの素材には無くても私が使うバーナーワーク用の国産佐竹ガラスには似た色はあるし、特にこの難しいガラスを使う意味ってあるの??? と疑問に思ったりもしている。

「富山曼荼羅彩」帯留。付属品のステンレスワイヤーでネックレスにも使用可

そもそも吹きガラス用に開発されたこのガラス、ランプワークには向いていない。高温でないと溶けないガラスなのに、酸素バーナーの高温域で作業すると泡だって変質してしまう。ランプワークに使うためには材料を温めて周囲を無着色のガラスでコーティングして細く引き直す必要がある。
他の色同士を合わせると割れる確率が上がるので、今のところは無色の透明ガラスと色ガラスをマーブル状に混色して成形し、金箔・銀箔で表情を加える帯留とネックレス、イヤリング用のビーズを製作している。
透明感を生かすために、穴の部分に残った離型材を削り落として磨くのも、硬いガラスなので余計に手間がかかる。

というように使う私が不満たらたらにならざるを得ない、難しいガラスではあるが、「他の人がまだしていない仕事」につい魅かれてこの「富山曼荼羅彩」のシリーズを作ってしまった。

「富山曼荼羅彩」3色のワイヤーネックレス富山市ガラス美術館ミュージアムショップで販売中


今のところは富山ガラス工房、富山市ガラス美術館ミュージアムショップの2店舗のみでお取り扱いを頂いている。

自分の名前で開催する展示会は、今の自分が作りたいものを優先させるので、面倒くさいものは避ける傾向にある作家歴28年の私。 でも常設店舗の注文とあらば、もちろん優先で製作させて頂くのでありまして。
割れないように配合を変えたり、手順を変えたりサイズを変えたり・・・試行錯誤で割れる確率が下がると、それはそれで嬉しく手ごたえを感じる。
昨日作って電気炉の中で徐冷していた玉たち、どうやら全て割れずに磨き上げることができた。またひとつガラスと仲良くなれるコツをつかんだのだろうかと思ったり。

表題の「面倒くさい注文もありがたい」となった本日の私で御座います。

ガラス工芸作家 林 裕子

〒930-0151
富山県富山市古沢237-3 富山ガラス個人工房4号棟A
蜻蛉玉丙午/KOGURE Glass Works

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