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すみれの花の砂糖漬け

子供のころの憧れのひとつに、すみれの花の砂糖漬けがありました。いや、過去形じゃないな。いまも憧れ。もう今は、はじめにどこで見つけたのかさえ忘れてしまったけれど。
実物は、いまもまだ手にとってみたことは……ないような気がする。

初めて「すみれの花の砂糖漬け」という文字を見たときは、なんだかよくわからないけれどきらきらとして見えました。
浮かんだのは、しゃりしゃりとした砂糖の歯触りと舌触り。濃い紫の小さなすみれの花。風にそよぐレースのカーテン。白地に小さな花の模様の浮かぶ薄い磁器のカップ。たっぷりの濃い色味の紅茶。ほのかなポプリの香り。

子供の頃は紅茶の味もろくにわからず、砂糖とミルクをたっぷり入れないと飲めなかったくせに、そんな光景を思い浮かべていました。
好きだった少女漫画や少女小説の世界、つまり、自分が住んでいる家や世界とはまるで違う世界。
子供のころに夢見ていたそんな世界を、大人になって少しずつ、手にとってみたり体験したりしましたが、未だ触れていないのがすみれの花の砂糖漬けです。

夢見ていたようなものではないんだろうな、とは思ってる。
たとえば大好きだったフェアリーテイルの世界のような、ふわふわとしてきらきらとしてつかめないような夢の世界の何か。
そんなふうな子供のころの憧れのひとつだけど、たぶんその憧れが、私のなかで肥大してるんだろうなと思う。
最初に憧れを抱いたときから流れた時の長さも、それを助長していると思うんですよね。

割と最近になってから、デメルがすみれの花の砂糖漬けを出していることを知りました。毎年、バレンタインの時期になると、猫の舌と言われるデメルのソリッドチョコを買っているのですが、その大好きなデメルがすみれの花の砂糖漬けを出しているらしい。

でも私の住んでいる地域には出店してないんですよね。バレンタインのごく短い時期、催事コーナーにチョコレートが並びますが、それくらい。
うちの地域にはないけれど、東京だったか、大阪だったか、そのあたりで通年で出店しているところがあり、そこにはすみれの花の砂糖漬けがあるらしいと聞いて、すごく気になっています。

だけど、そこまで話を聞いたのに、買うか買わないか、悩んでます。
心の中にあるすみれの花の砂糖漬けと、実際に売られているすみれの花の砂糖漬けは、果たして同じものか違うものか。
違ったらどうしよう。思っていたよりも小さいな、とか、思っていたよりも色が薄いな、という程度だったらいいけれど、これがすみれの花の砂糖漬けなの?って思ってしまうくらい違っていたらどうしよう。
そんなふうに考えてしまって、なかなか実際に買う勇気が湧いてこないんです。

いまの状況がおさまって実店舗に出かけられるようになったなら。そのとき私はどちらを選ぶんだろう。

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