『モスクワの伯爵』が見ていたもの

今年読んだ本についてはおいおい書いていくとして、今日は2019年に読んだ本で一番印象に残ったものを。

『モスクワの伯爵』エイモア・トールズ 早川書房

ロシア革命時、銃殺刑は免れたものの当時滞在していたホテルメトロポールに一生軟禁(ホテルから外に出たら銃殺)されることとなった伯爵のお話。
それまではスイートルームに住んでいたのに、軟禁後はホテルに持ち込んでいた家具や蒐集品の大部分を取り上げられ、屋根裏部屋にわずかな家具とともに住むことに。
ホテルメトロポールは上流階級の人たちが利用するホテルだったけれど、そちらも革命後は様変わりしてしまう。
そんな状態で彼が選んだのは、紳士の流儀を貫くこと。
いつも朗らかに、しっかり世界を見据え、身の回りを整え、人をもてなし、人生を投げ出さない。
伯爵の名付け親の言葉として紹介される「自らの境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる」を実践した伯爵の人生を、けれど決して悲壮ではなくいつもどこかユーモアのある文章で書かれたお話。

去年、入院直前、そして入院中に読んだこともあり、少々感傷的な気持ちだったことは否めないですが、伯爵がいつも前を向いて世界を、物事をまっすぐに見つめている姿が大好きでした。そして誰のことをも恨まずにすごしている伯爵は、そんな状況でも好奇心を失わず、ホテルメトロポールを訪れるいろんな人と出会い、話し、観察し、考え、行動する。
そう。軟禁されているはずなのに、伯爵は行動の人なんですよね。
そして重ねて書くけれど、伯爵はとてもまっすぐに世界を、物事を見ている。
悲観して自棄になったり卑屈になったり諦念にとらわれることなく、あるがままに物事を見据えている伯爵はとても気持ちの良い人で、軟禁されてからでさえ友人や彼の信望者が生まれるほど。

この本は図書館で借りて読んだんですが、いつも本棚の手の届くところに置いておきたい本だと思いました。なので、ちゃんと買おうと思ってる。

2019年で一番印象に残った本と最初に書きましたが、これまで読んだ本の中で、そしてきっとこれから読む本をふくめた中でも、私のベストテンに入る本だと思っています。

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