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起業家の「宿敵」と闘った2020年を振り返る

2020年も残すところ2日となりました。去年は振り返る余裕もなく、何も書くことができなかったので、今年は書こうと思ったのですが、今年はコロナを始めとして色々なことがありすぎた一年なので、何を振り返るべきか悩んでしまいました。ただこれだけ色々なことがあった中でも最も心に残っているのはあの起業家の「宿敵」との戦いでした。10年も起業家をやれば必ず出会うであろう宿敵と僕は8年目で対峙しました。2020年は言うなればこの宿敵と戦い、なんとか乗り越えようとした1年でした。

「宿敵」=「脱起業家プレー」

起業家というのは会社が一定の軌道に乗るまで、異常なまでの仕事をしなければ成立しません。働く量も、仕事の幅も、全てのことを自分で考え、自分で責任を持ち、会社が継続的に存続可能になるような状況にまで持っていく。これは明らかに特殊な仕事であり、その他のあらゆる仕事とは異なる性質を持っています。そして、多くの起業家が陥るのはこの仕事の仕方が染み付いて、抜け出せなくなるということです。起業家として求めらたプレーから抜け出すことができず、次のフェーズに会社が移った時に起業家本人がボトルネックになるという事象は世の中の多くのスタートアップで起きています。仕事とは役割分担なので、起業家プレーが得意な人は本来、起業家プレーに徹するという選択肢もあります。米国では会社のフェーズ毎に経営チームを入れ替えていくことも当たり前になっておりますが、日本ではまだそのエコシステムは発展途上であり起業家本人もそのような選択肢を取ろうと思う人はまだ少ないでしょう。となると、起業家は自らの会社のステージに合わせて自らの役割・立ち振る舞いを変化させていく必要があります。この最初の変化を山田は「起業家の宿敵」と呼んでいます。これと近いことを現在hey社代表の佐藤氏はクソジーコ問題と命名しています。山田は仕事に関してはサッカーよりもキングダムで例えたくなる達なのでキングタムで例えるなら、起業した直後は安定した国も自らの王位もない嬴政のような状況です。そんな嬴政がやることは自ら先頭に立って王位を奪還するため咸陽に攻め込むことでした。ただしそれが成功し、王位の立場を手に入れた後、嬴政が戦場に自ら乗り込むことは極めて少ないわけです。将軍として戦場に乗り込むのではなく、王として意思決定をする役割に徹する。これと似たような変化が起業家にも訪れる訳であり、ROXXという会社にも同じ変化を2020年は求められ、戦い続けた一年間でした。

脱起業家のトリガー

では、なぜこの脱起業家の変化が求められたのが2020年だったのか。起業して8年目となりますが、逆を言えば7年間はずっと戦場で自ら戦うことを求めらた7年間でした。おそらく時間軸は各社それぞれ異なると思います。ただトリガーとなる事象は共通項になりうる可能性が高いので、なるべく抽象化した上でトリガーを振り返っていきます。

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①back check立ち上げによる二つの事業ポートフォリオを抱える

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2019年の10月に「back check」を正式リリースしました。当初は当然ながらどれだけ上手くいくか未知数でしたし、このback checkを軌道に乗せることが極めて重要な局面だったので以下のインタビューでも語った通り自分が事業責任者として戦場に乗り込んでいった訳ですが、今考えるとこれが自分にとって最後の戦場でした。

リリースして数ヶ月して最低限の手応えを感じ始め、コロナが落ち着いてきた6~7月にイケると確信をし、このタイミングでROXXは二つの事業を経営する会社となりました。これはROXXにとってあまりにも大きな変化であり、起業家が起業家のままいれなくなった最大のポイントだと振り返っております。単一事業と複数事業の運営はあまりにも性質が異なり、その複雑性は一気に上がります。正直自分自身もそのことについて舐めていました。SaaSプロダクトが一つ増えるだけ。それぞれ今まで通り運営していれば大丈夫と考えてた自分は大いに浅はかだった訳です。複数の事業を抱えた瞬間に「適切なリソース配分とは何か」「異なる組織文化をどう統合するのか」「事業部間で発生する感情的な歪みをどう解消するか」「会社として課題の優先順位をどうつけるか」「統合したROXXという会社をどう世の中に理解してもらうか」等のとんでもなく難易度の高い命題がボコボコと出てくる訳です。正直、なんじゃこりゃ状態で、この命題を自分がプレイングしながら正しく思考することは自分は不可能だなと思いました。そして何よりもこの命題の意思決定を間違えると、どれだけ足元でプレイングを頑張ったところで成果の最大化には繋がらないことを理解しました。

②10億円を超える資金調達の実施

二つ目は今年の5月に実施した資金調達です。グローバルブレインをリードとし10億を超える資金調達を実施することができました。緊急事態宣言真っ只中の先行きが見通せない中で出資していただいた投資家の皆様には感謝しても仕切れないです。そして「10億」という金額はこれまでの資金調達とは意味が全く異なる金額でした。これまでROXXはシードの1,500万円の資金調達から複数回資金調達を実施してきました。しかし、そのどれとも今回の資金調達は意味合いが違いました。これまでの資金調達は事業が上手くいく可能性があり、その可能性を証明するための生存時間をいただくための資金調達でした。つまり、「可能性があるから死なないようにさせてくれ。絶対この事業上手くいかせるから」という資金調達だった訳です。従って資金調達すると生存期間が12~24ヶ月伸びる。その期間に事業を次のステージに持っていけるかが全てであり、そのために起業家は死ぬほど努力をし、事業と向き合う訳です。ただ10億を超える資金調達は意味合いが全く異なります。10億を超えると事業として成立することはわかった上で、その事業をどれだけ早く、どれだけ大きくすることができるか、その成長時間を圧縮するための資金調達になります。つまり、「この事業が上手くいくことはわかった。xx億の資金があれば、yy年でzzの規模まで事業が大きくから」という資金調達になる訳です。しかもROXXは二つの事業を抱えてる。この瞬間に何にいくら投資をすることがROXXの成長を最も加速させる投資になるのか、その複雑性が大幅に上昇します。正直、数億円の資金調達だとその大半は採用による人件費で終わります。しかし、10億円を超えると人件費だけで投資できる規模ではなくなりますし、人件費だけで成長させるビジネスは当然ながら評価されません。どこに投資をするのが、ビジネスの生産性を上げることに寄与するのか、ビジネスの付加価値を向上することに寄与するのか、ビジネスの競争優位性を向上することに寄与するのか。これらを長い時間軸で考えた上で、立体的にビジネスを捉えながら投資の意思決定をすることが求められるのだと理解しました。そして、この投資の意思決定を間違えれば当然ながらROIは悪く、成果の最大化には繋がりません

③組織が100人を迎える

そして最後の極め付けはこれですね。組織100人の壁。戦場に出ながら100人の組織を機能させることは僕には不可能に思えるほど100人という組織の複雑性は想像以上に高いものでした。そして何よりもこの組織の問題の大半の元凶は経営者に存在するんです。あらゆる問題の根っこは経営者の意思決定や振る舞いに還元されるものなんですが、戦場で闘ってるとそれに気づくことや修正する余裕がないんです。これが最大の問題で、「俺はこんなに闘ってるんだから、お前らも戦えよ」と空回るんです。本当に2020年は自分自身も大いに空回ってました。空回りは回転数が高くなるほど悲惨ですからね。どんどん悪い方向に向かっていきます。100人もいるとそりゃ、自分一人の成果よりも他の99人の成果を合わせる方が圧倒的に高い結果になるわけです。なので自分一人のプレイヤーとしての成果の影響力は限りなく小さくなっていく訳で、レバレッジが全然掛からなくなってしまいます。従って必然的にこの100人の組織をどう機能させるかという命題に向き合わざるを得ないですし、100人集まればそりゃ多様性が存在する訳で単純化された前提で組織を動かすことはできない訳です。創業時は「死ぬほど働くのが当たり前」という謎の共通認識が勝手に生まれ、それに依存しながら組織運営が行われます。創業時のメンバーの献身的な精神と活動によって支えられる訳ですが、当然ながら100人の組織になってそんな前提を持つことは異常です。自分自身も子どもが生まれ、育児休暇を取得したことで改めて学びことがたくさんありましたが、お子さんを持っている方、結婚したばかりの方、身体的に弱い方、ご両親の介護をされてる方等、世の中には様々な事情を抱えた方が存在します。そして100人の規模の組織というのはそういう多様性と個々の課題を吸収しながら、支え合うことが社会的要請として求められる規模なんだと思います。ここに創業者のエゴを入れ込むのは誤りです。社会は創業者を中心に回っているのではなく、多種多様な前提が入り混じった複雑だがお互いが支え合うことによってギリギリ成立するそんな弱さを中心に回っています。その弱さを受け止めることができる組織が優れた組織であり、その中で全員の価値を最大化することが成果の最大化に繋がるわけで、事業作りよりも組織作りにコミットしないと会社の成果は最大化されません

起業家から経営者へ

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ROXX社は上記の三つのトリガーによって会社のステージが変化したと理解しました。そしてその変化は、自分が起業家プレーを続けていたら会社を完全に停滞させることに繋がることを意味しました。実際に2020年は停滞の瞬間が何度もあり、その全ては創業経営者である自分と中嶋が原因だったと振り返っています。2020年ほど自らを振り返り、反省した1年はありませんでした。自分も中嶋も何度も反省をし、でも起業家プレーがでてしまい、それを自分の中でコントロールする。この癖と戦い、なんとか折り合いをつけることができるようになってきたのが、最後の3ヶ月でした。この変化は一言で言うならば「起業家から経営者へ」とよく言われる転換期であることを意味します。自分の理解では起業家の命題は「世の中に求められる事業を創ること」です。一つの事業で世の中の課題を解決し、社会を前進させることが起業家の仕事です。それに対し経営者の命題は「持続可能性高く、長期で繁栄する経営基盤を構築することで、長期の視点で社会の課題を解消する組織を創ること」です。単一の事業ではなく、事業そのものを連続的に生成する組織を創ることで継続的に社会を前進させることが経営者の仕事です。この二つにどちらが良い悪いもありません。社会にはどちらの役割も必要であり、ただROXX社は三つのトリガーにより起業家から経営者へと変化することを求められた気がしているという話です。そしてこの起業家プレーという「宿敵」は自分の想像以上に手強い相手であり、この癖を解消するには長い時間と自省のプロセスが必要でした(この移行プロセスについてまで書き始めると、非常に長くなってしまうので、別の機会でまとめようと思います)。今の日本のスタートアップシーンでは多くの起業家がどこかのタイミングでこの脱起業家プレーが求められることになると思います。それは抽象化すれば「自らが手を動かすことよりも、意思決定と組織の精度が重要になる」その瞬間に求められます。ROXX社はそこまで7年の歳月を要しましたが、もしかしたら1年かもしれないですし、10年かもしれないです。それは各社の状況次第ですが、自分の起業家プレーが会社のボトルネックになっていないか、それだけは確認した方が良いと感じた2020年でした。この一年間まさか自分が一番変化を求められることになるとは思ってもみませんでしたが、その変化を経たこの年末は何か非常に不思議な感覚と共に今までにない希望に満ち溢れております。そういう意味でも2020年は創業から今までで一番変化を感じた一年であり、これからのROXXの10年間を語っていく上で、欠かせない一年になるのではないかと感じております。

最後に

振り返るとつらつらとそれっぽいことを書けますが、自分自身もまさか自分が会社のボトルネックになっているなんてことには気づいてしませんでした。それに気づけたのは自分たちの周りにいた様々な人の「言葉」でした。いつも客観的で率直な意見をもらえる投資家のみなさま、いつも優しいお父さんのように不安を包み込み適切なアドバイスをくれる社外取締役のみなさま、新鮮でかつ新しい視点で意見を言ってもらえる新入社員のみんな、そしてなかなか言いづらい本音を勇気を出して言ってくれた社員のみんな。それぞれの一つの一つの言葉が気づきを与えてくれ、自らの誤ちに気づかせてくれます。本当にあらゆる方々に感謝しかありません。人間は自分一人で自分を最適化することはできません。他人の言葉によって自分に気づき、他人との関係性の中で自らを最適化します。そのプロセスは確かにめんどくさいものです。もっと自由に、もっと好きにしたい。そう思うことはあります。ただ、そんなめんどくさいプロセスそのものが社会の中で、人間同士が群れながら生きるということであり、その想定不可能な偶然の連続こそが自分の人生を思いもよらぬ面白い展開へと導いていくのでしょう。それはエネルギーのいるプロセスです。ある人にとっては自然なことであっても、エネルギーの小さい自分にとってはこのプロセスを楽しめる時間も有限な気がします。だからこそ、今はあえてめんどくさいことをしたいなと思ってます。そして、そのめんどくさいことは、ROXXという会社が「持続可能性高く、長期で繁栄する経営基盤を構築することで、長期の視点で社会の課題を解消する組織」になることに繋がります。めんどくさいことの対価としてそれが実現するのであれば、それは自分にとって意味のあることだと思うし、ROXXという組織の中で多くのメンバーが助け合いながら前を向いて生きていくことができるのであれば、この組織が存在する意味があるのだと思ってます。

ということで、2021年は脱起業家プレーをしっかりと完了させ、これまでと全く異なるアプローチでROXX社を成長させていければと思っています。その変化はとても大きいものですが、自分自身がそれを楽しみながら、ROXXが飛躍するための大切な一年にできればと思います。みなさん、これからも暖かく見守っていただけますと幸いです。来年は久しぶりにブログをちゃんと書く一年にもしていければと思っております。これからもよろしくお願いいたします。それではみなさん、良いお年を。

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