全てのバンドマンがVRになる時代 〜これからの音楽ビジネスの話をしよう〜

「全て」とか大きな主語つかっちゃダメだよね。タイトルに釣り感あるよね。わかるー。。。

最近の音楽業界は好調らしい

らしいです。「CDが売れない時代」と言われるようになって久しく、音楽業界は不況だというイメージが強かったのですが、「盛り返してきてるよ!ストリーミング配信好調だよ!フェスの動員もいい感じだよ!」といった景気の良い話が、少し前から言われるようになりました。肌感覚ではなく、実際にデータでも出ているそう。(ただ、アーティストへの還元額は不明ですが。)

と、この辺の話を下敷きにしながら、今後の音楽業界がどうなっていくのか?をぼーっと考えてみました。ゆるく読んでいただけるとこれ幸い。

これからは「体験の複製」にシフトする

上のリンク先の記事では「(日本のライブ市場の売上推移は)大規模会場が不足しているという問題にぶち当たりここ数年は伸びが鈍っています」というコメントがあります。

売上をバァーンと稼ぐには動員数の稼げる広い会場でライブやフェスをやるのが良いのは当たり前なのですが、その場所が限定されている。となると、場所の制約で売上が伸び悩む。

「それじゃ、あんまり先の見通しは明るくないよね…?」

と思うのですが、それでは大手レーベルやイベント会社の人たちのお給料も上がらないので、業界の偉い人たちは泣き言を言わずに次の一手を考えなくてはなりません。

で、ここからは私の個人的な予想(妄想)ですが、音楽業界は「体験の複製」にシフトする事で売上を伸ばすのではないかと考えます。

生演奏から音源の複製へ、ライブから体験の複製へ

時代を遡ってみると、CDやらレコードやらがない時代には、生演奏をして稼いでいたわけです。売り物は「生の音楽」だった。それが、だんだんと録音された音源、つまり「音源の複製」を売る商売へシフトしていった。

そういう時代の流れを踏まえると、現在は「音源の複製」から「生の音楽」を売る商売への揺り戻しが起きている、といえる。

ということは、この先「生の音楽」で売上が伸び悩んできたら、再び「複製」を売る方向への揺り戻しが起きるのでは?と思うのです。

ただ、それを具体的に考えてみると、そのビジネスは「音源の複製」を売るものではないだろうな、とも思うのです。CDが売れなくなったのにわざわざ再びCDを売る、ってのは考えにくいよね。企画書を出しても「阿呆」って言われて差し戻されそう。

とはいえ、少なくとも日本国内では「生の音楽を売る」形でのビジネスは既に限界が見えつつある。それは「会場がない」という要因で頭打ちになっているから、物理的制約を飛び越えた何かを商品にする必要がある。

で、足りない頭で「何かないかなぁ…?」と考えてみたら、ありました。

それは、VRです。

VRとは、バーチャル・リアリティの略語。Wikipediaによる説明は以下。

バーチャル・リアリティは、コンピュータによって作り出された世界である人工環境・サイバースペースを現実として知覚させる技術である。時空を超える環境技術であり、人類の認知を拡張する。

コンピュータグラフィックスなどを利用してユーザに提示するものと、現実の世界を取得し、これをオフラインで記録するか、オンラインでユーザに提示するものとに大別される。後者は、ユーザが遠隔地にいる場合、空間共有が必要となり、テレイグジスタンス (en:Telexistence) 、テレプレゼンス (en:Telepresence)、テレイマージョン (en:Teleimmersion) と呼ばれる。

(Wikipediaより引用。太字による強調は筆者。)

VRによる「体験の複製」

VRの具体的な例を挙げると、3Dカメラで撮った映像をVRゴーグルで見る、みたいなやつですね。で、音声も臨場感が出るように専用の機材で撮ったりすると、ライブ会場で観ているのと同じ感覚を得られるようになる。

「ライブの複製」としてはDVDやBlu-rayもあるけれど、それら既存のコンテンツよりもずっと没入感が高いVRは「体験そのものを複製する」ものとしてとても優秀だと思われる。

自分のすぐ目の前、ほんの数メートル先にアーティストがいて歌っている。そう錯覚するような、臨場感のある映像が観られるのがVRだとすると、これを使ってライブ・コンサートをオンライン配信するのは一考に値するだろう。わざわざ大きな会場を押さえて、たくさんのスタッフを動員してコンサートを作り上げるより、専用のスタジオで小規模のチームが音と映像を作り込んで配信するほうがコストも小さくなる。その上で、観客の体験が遜色ないとするならば、音楽ビジネスとして「VRコンサート配信」にシフトしていく事は十分に考えられる。


──などと書くと、ライブを大切にしているアーティストやファンから怒られそうである。こんなふうに。


「『体験の複製』なんて、絶対にできない。同じ空間にいるわけじゃないから、それはライブの体験とは絶対に違う。ライブじゃなきゃ伝わらないものがある。ライブなめんな、ミュージシャンなめんな。(怒)」


だよねー……わかるー……。

実を言うと、私自身も「『体験の複製』なんかできるわけないよね?」と思いながら、この記事を書いていたりする。同じ空間で直接アーティストを目の前にして音楽を聞くのと、仮想現実に再現された音声・映像を見るのとが、完全に等価だとは思わない。

ただ、逆にVR化される事によるメリットも大きい、と思っている。だから、少なくとも私は、それが「体験の複製」として完全ではないと理解した上で、それでもVRライブにお金を払うことはあるだろうなぁ、と想像している。

「VRライブ・コンサート」をリアルに想像すると……

VRライブについて話す前に、まずは現実世界のライブの話をしよう。

オール・スタンディングのライブを観に行ったときに「前の人の頭が邪魔でステージが見えない……」とか「ステージから遠すぎてアーティストがよく見えない…」という経験をしたことはないだろうか。

私はある。特に前者。某渋谷C-Qとか、某下北沢GRGとか、広めのバンド箱だとけっこうある。そして「最前列の人たちと自分、払った料金が同じなのに『体験の価値』が違うのはなんか納得いかねぇな…」と思った事も少なくない。

厳密にいえば、最前列にいる人は先行予約でチケット買ったり、早めに行って並んだりしているわけだから、チケット代以外のコストを余計に支払っている。そう考えると、一応フェアだと納得もできる。ただ、個人的には、その辺のコストはチケット代に反映させるほうが、仕組みとしてフェアだよなぁ…という気持ちの方が強い。

閑話休題。

さて。これがVRライブ・コンサートになると、どうだろうか。

クレジットカードやコンビニ払込で料金を支払ったあと、自宅でVRゴーグルを装着する。眼前には、ライブ会場の最前列と同じ景色が広がる。より性格にいえば、カメラが設置されているのはステージ上。あなたの視界は、会場の誰よりもアーティストを近くに捉える。誰かの頭が邪魔になる事は絶対にない。

手元のボタンを押すと、アングルが切り替わる。正面ではなく斜め前や背中側、様々な角度から見ることができる。また、音声はAI技術によって”あなた好み”に調整されている。例えばベース・ラインが鮮やかに聞き取れるように。あるいは、ヴォーカルが映えるようにドラムをやや控えめにしたり。視界だけでなく音響も含めて”特等席”でライブが楽しめるとしたら、どうだろうか。

VRゴーグルで観るライブの体験は、会場でアーティストと同じ空気の振動を感じながら観るそれの「複製」とは言えないだろう。ただ、VRでライブを観せる事により、現実のライブの不満がいくつか解消される事も確かなはずだ。

そう考えると、VR配信形式のライブは、ビジネスとして成立しそうである。本当にそれが「体験の複製」といえるかどうかは別として、「特別な体験」のひとつであることは間違いないのだから。

VRシフトにより起こる事

さて。VRコンサートがビジネスとして成立するならば、レーベルやイベント会社はそちらへシフトしていくだろう。理由は「利益率が良いから」。大きな会場を確保し、たくさんのスタッフを必要とするリアル・コンサートは、コストがかさむ。一方、VRコンサートについては、ネットワークの利用料とVR配信用の撮影・録音機材は徐々に安くなっていくことが期待されるから、どこかでVRのほうが利益率が高くなるタイミングが訪れる。さらに、仮想現実のなかで展開されるVRコンサートなら席をほぼ無制限に用意できるため、いくらでもチケットを売ることができる。

時代が進んでいけば、VRコンサートは利益率が良くて売上も伸ばしやすい”オイシイ商売”になっていくはずである。そうすると、音楽業界全体として「VRシフト」が訪れるタイミングがどこかで来る、と考えられる。

一方、VRが広がれば広がるほど、仮想現実ではないリアルなライブの価値も上昇していくといえる。VRが「体験の複製」として完全ではないならば、生の体験は一定のニーズが見込めるからだ。つまり、「現実のライブに敵うものはない!」と信じる人たちに向けて、リアル・コンサートを提供すればよい。こちらは、多少コストがかさむとしても、価格設定を高めにすれば回収できるはずである。チケットを欲しがる彼ら/彼女らの価値観からすれば、リアル・コンサートはそれだけ価値のあるものなのだから。

こうして、将来的には「全体的にはVRコンサートにシフト」しつつも「生の体験ができる現実空間のライブ」の価値も高まり、両者をバランスさせながら音楽ビジネスが成長していくのではないか、というのが個人的な予想(というか妄想)である。

VR時代にミュージシャンがやるべきこと

VRだなんだかんだと話してきましたが、じゃぁ今日からミュージシャンは何をやるべきなのか?何をすればこの時代に備えられるのか?

──と考えてみましたが、別にやるべきことは変わらないなぁ、という結論です。

【VR時代に備えてミュージシャンがやるべきこと】
1. 歌唱・演奏技術の向上
2. 時代の変化に柔軟に対応する事
(今やるべき事とほぼ変わんない……)

今回述べたようなVRコンテンツに対して「対価をいただく」ためには、やっぱ音楽が良いことは必須だし、それ以外のライブ・パフォーマンスの重要度がより上がります。ただ、それって今も当たり前に取り組んでいるはずの事なので、一番大切なやるべき事は変わらない。

また、「VRライブ」を提供する事に抵抗を覚えるとチャンスを逃す、という懸念はあるのですが、そういうのは今現在でも同じかなと。ネット配信を通して、YouTubeやツイキャスで(無料で)音楽を公開するのを嫌がっていた人たちは、そういう場を活用して積極的に自分たちの音楽を拡げている人たちに比べて、相対的に機会損失をしてきたはず。そのほか諸々の新しいツールや手法についても同様。だから「時代の変化に柔軟に対応し、うまく波に乗る」というのは、あえて”これからのVR時代”に向けてやることじゃないんですよね……。

もちろん、「そもそもVRとは何か」「VRでできること・できないこと」は知識として知っておく必要はあると思う。ただ、VRを使った空間演出等々の話になると、”その道のプロ”に任せたほうがクオリティが高まる領域だと思うので、自前であれこれ頑張らなくていいんじゃないかなぁ、と。(そういうの好きなタイプの人はガンガンやったほうがいいけど。楽しいから。)


面白かった、ためになったと感じた方にサポートいただけると励みになります。いつか展示会やイベントをやるための積立金として、あるいは飢死直前金欠時のライフラインとして使わせていただきます。