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苦悩の2週間を越えて

もうすぐ9月が終わるというタイミングでちょっとしたトラブルがあり、会社のキャッシュフローが崖っぷちを踏み外すような事態が発生した。そのおかげで資金繰りや各方面への調整に奔走し、ただでさえタスクが増えがちな月末から月初にかけて、本来の仕事とは別に文字通りバタバタと走り回るような事態になってしまった。

お金というのは不思議なもので、普段そこに固執しているつもりはないけれど、なければ現代社会での生活は成り立たない。英語には「Lack of money is the root of all evil.金がないことは諸悪の根源である」という言葉もあるようで、裏を返せば(誤解を恐れずに言うと)必要充分なお金さえあれば、大抵のことはなんとかなるものだ。

一方で、現代社会においてお金はただ単純な価値交換の道具ではない。自分や家族の生活を充足させられるかどうかだけでなく、社会的な信用や責任を担保できるかどうかということが、お金の有無/多寡が人の精神状態に影響を与える大きな一因になっているように思う。「人はひとりでは生きていけない」というのはこの文章(弱音)のテーマでもある。

実際、振り返ってみるとこの9月末は精神的に安定しているとはとても言えなかった。考えごとや不安が常に頭の中を巡っていて、夜も満足に眠れなかった。仕事で使っているiMacがクラッシュして起動しなくなったのはそんな最中、9月最後の週末のことだった。

直近のバックアップが残っていることが救いではあったが、とにかく仕事にならない。iPhoneや妻のMacBookを頼りながら最低限の作業だけをこなしつつ、2日間に渡ってiMacの復旧を試みたが上手くいかない。おそらく物理的にアウトなのだろう。やむなく復旧を諦めることにした。クリエイター仲間の友人に相談すると、たまたま使っていないiMacを譲ってもらえるということになり、すぐに車を走らせて引き取りに向かった。

そこから一日がかりで初期化やOSの再インストール、アプリケーションとフォント環境の整備をし、いざバックアップにアクセスしようとすると……今度はパスワードが見つからない。これまではMacに接続しっぱなしだったので、パスワードを求められることなく自動でバックアップされていたのだ。

パスワードのヒントとして「妻の誕生日」と表示されているので、妻にも協力してもらって関連する文字列を軒並みトライしてみた。それこそその年の誕生日に飲んだワインの銘柄まで、大文字/小文字などのバリエーションを含めると1,000以上の文字列をトライしたんじゃないだろうか。この作業に数日の時間を費やしたが、どれもこれもあえなく弾き返された。

このバックアップにこのままアクセスできない場合、現実的な損害は計り知れない。月末からのストレスが幾重にも重なり体調まで崩したが、それ以上に精神的ダメージが大きかった。上手く眠ることができず、本当に心が折れそうになった。今思い返しても吐き気がする。

感情もなくキーボードを叩く音だけが静かに響く深夜3:00過ぎ、扉は前触れもなく開いた。候補なんてもうこれ以上思いつかないと思ったときにヤケクソで打ち込んだ文字列でロックが解除されたのだ。

その文字列は「僕の誕生日」だった。何か意図があってパスワードと一致しないヒントを設定したのか、途中でパスワードだけ変更してヒントを変え忘れたのか……そのあたりは全く記憶にない。自分のやったことと記憶力を恨んだところで、どこにも辿り着かない。

バックアップにアクセスできるようになってから実際に作業環境が整うまでにさらに2日ほどかかった。以前と完全に同じとは言わないまでも、ようやく仕事のペースを取り戻せたのが今週アタマのこと。実を言うとキャッシュフローの問題は未だ根本的な解決を見ていないけれど、一時期の精神不安定な状況を脱し、ようやく日常的な生活のリズムを取り戻せたように思う。

今回の一連の苦悩の中で痛感したのは、当たり前のことだけれど「人はひとりで生活しているのではない」ということだ。懇意にしている取引先の社長に助けられ、学生時代からの友人に助けられ、妻に支えられ、娘の笑顔に癒やされた。

自分のピンチに一も二もなく手を差し出してくれる存在のありがたさ、心からの感謝。何かあれば必ずこの人たちの味方でいようと思えることは、翻って自分自身にとっての強さや勇気になるものなのだ。

そんなこんなでなんとか立ち直りつつあるので、明日からは気を取り直して、また平和な雑文を書き散らかしていこうかなと思います。

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