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最果タヒ「死んでしまう系のぼくらに」感想

 現代詩界の重鎮をうならせ、一般の人にも人気詩人と聞いて読書。語彙は中学生水準でありながら、寂寥とした世界観にまず驚愕。諦めきれない恋に苦悩する詩がほとんどだが、愛されないなら死にたい、という体での死への言及が研ぎ澄まされた刃のような効果。なるほど、これが今の空気感かと納得した。

 ウンベルト・エーコがファシズムの条件に挙げた「死の賛美」が実はこれまでよくわからなかったのだが、「○○のためなら死を厭わない」という風に本気度を誇示する態度なのだとこれ読んで理解。以前失恋した飲み屋仲間に「切り替えて次探しなよ」とアドバイスした時、何を言ってるのですかとこちらを蔑む眼差しで睨み返されたことがあったが、「どうせあんたはそんな軽い恋しかしてこなかったんだろうよ」と思われたかも、どおりで噛み合わなかったわけだ、などなど腑に落ちることも多かった。

 また生きる死ぬの情念だけでなく、諦観、虚無も適度に混ざってタナトス一辺倒になってないのもいいバランスだと思う。気に入った詩は色々あるが、短いフレーズだと「寿命で死ぬのはブスって、君に言われて生きたい」かな。

 若い人だけでなく、自分の四、五十代の飲み屋仲間にも、これ読んだら泣きそうな奴の顔が何人か思い浮かぶ。せっかくなので勧めてみようか、とも思うが、大丈夫かな。

 詩っておもしろいですね。

(2020年10年13日読了)

※読書メーターに投稿した感想を一部改変して転載しました。


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