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【百科詩典】寛生の縦書きと走り書き

愛され足りなかった

二十歳までに愛され足りなかった分を取り戻そうとして 人間味あふれてしまう人生たちの多いこと

赤信号

赤信号や踏み切り待ちでもなければ
都会の労働者たちは
休むことも思考することも忘れてしまうだろう

2020/9/15

汗をかいた分だけ、生きている。

2018/10/20

『アナザーラウンド』

デンマークの曇り空で酔っ払いは踊り跳ぶ
アルコールの「雄弁と麻痺の効用」は暮らしをダイナミックにする
傷口を広げながら
「行動と情熱がなくなると、その世界は妬みに支配される」
キルケゴールの言葉を盲信し、飲んだり飲まれたり、人生を転がしていく

2021/9/15

アルコール

誰かの苛立ちを、僕のアルコールで溶かせるのなら、それで。

2015/10/10

今だけ金だけ自分だけ

「今だけ金だけ自分だけ」の「勝てる個人」戦略は、バリバリの体力とそこそこの財力と嫌われ耐性が揃ってやっとスタートラインなので、おすすめできませんねぇ。「今より金より自分よりを考え続ける共同体」戦略に切り替えてから、信頼できる仲間が増えた気がしますし、生きやすくなりましたとさ。

2020/10/20

液体ムヒ

ツンと隙のない美脚美女かと思われたが
ハンドバッグから液体ムヒを取り出すや否や
ストッキングの上からシャッシャッと
ふくらはぎにムヒを塗っていく

そんな3秒半を目撃できた今日は
いい日になるに違いない
そして夏が終わっていく

2020/9/15

大坂なおみ

大坂なおみ選手の優勝って
自分がおじいちゃんだったら
畳であくびする猫に
「立派だねぇ~本当に立派だねぇ~」と延々話しかけていそう
TVを眺めているだけで 日が暮れて
梅昆布茶が何杯でもいける

「スポーツでの強さ」が
「自分の体と心のパフォーマンスを
最大化する方法を知っていること」ならば
勝ち進むたび新しい黒マスクを着用する「約束」をした
大坂なおみ選手は
自らの強さの引き出し方を知る
真のアスリートだと感じる
病床の少年にホームランを約束したからこそ
打てる力が漲るように

2020/9/15

オフィスワーク

はじめてのオフィスワーク2週間目。「今、話しかけても大丈夫ですか?」というセリフを覚えた。

会話

会話平和維持活動
 質問攻めし続けることが会話だと思っている たとえ興味がなくても 聞いたことを全部忘れても リスニングできなくても コイツわかってないなと思われても シンプルな質問を止めないことで 相手が何やら話し続けている平和が一番です 同じ話が繰り返せば「ここがこの人の話のサビなんだな」と寛容に聞き流し 流石に退屈な話が続けば次の質問へ もし相手の口からパワーワードが出てきたらラッキー やがて質問が尽きて沈黙が訪れても焦りません だって質問を投げ続けた僕はもう十分頑張ったのだから
 「何気ない会話」があまり好きじゃないのです 日常の何気なさの機微を何故いちいち雑に言語化しないといけないのか 挨拶してにっこりしたら速やかに「本日の共同作業」に入りたい 作業の過程で生まれる対話や相談は好きですよ 話が個人的でマニアックになるから ピロートークのように
 「人には本気で感想を言わなきゃ!」が口癖の出版社社長は横柄だったし 「正直にとにかく何でも隠さずに話をしようよ」と歌っていたSMAPは解散したし 旨いローカル飯屋の住所をLINEするだけの情報屋は寂しいし 過去の栄光と挫折を語るだけの「経験おじさん」は勉強しろよと思うし 「でも」を連発し異議を唱えまくるほどの議論好きでもないし 自虐ネタで媚びて気を遣わせたくないし 反射神経で気の利いた比喩を挟んだり真顔でボケてツッコミを待ってみたり「テンドン」で序盤の伏線を回収したり「雛壇」から敢えて乱暴なヤジを飛ばしたりトーク術に真剣になり過ぎると「あの時もっと爪痕残せたのに」と後悔することもしばしばで
 自分から会話を仕掛けようとするとしんどいのである だから質問攻めという一見攻撃的な平和維持活動に従事するのである 全ては あなたとの絶妙で微妙な関係を 小手先の薄っぺらい会話で単純化したくないだけ 下手な会話のキャッチボールをするぐらいだったら貴方が投げ続ける球の軌道をただただ眺めていたいのです
 最後に一番大事な言い訳を書く
 〜以上は私見です ※激しく個人差のある話です〜
 「自分は一人好きの寂しがり屋だから」という思い込みをこじらせ すっかり会話に悩んでしまった僕ですが 貴方のそばにはいたいのです どうか置き去りにしないでくださいね 切実

2023/6/28

感傷

下手に冷静ぶる僕に、どうか揺さぶるほどの感傷を。

2017/10/10

寛容

「寛容に生きてね」と命名されたので 40年ちょいそれなりに寛容を意識して生きてきた身としては 排除を掲げる人々に口先だけで寛容を気取って欲しくないと思うのです

2017/10/3

官僚

官僚が「官僚の矜持(=国民に民主的に選ばれた政治家に何であれ尽くすのが行政官)」を語り出すときは大抵、理不尽な指令を受けたときの自己弁護なので、政治的な不正なり隠蔽なりが潜んでいる可能性有りで取材チャンスなのでしょう。

2020/11/2

貴族

僕はついに貴族になった
哲学を修め 和歌を詠む
あと蹴鞠とか竪琴とかだろ
パルテノンの丘の寝殿造りで
世を憂い筆を舐めるのだ
香港の小部屋で
マルクス・アウレリウス・アントニヌスごっこだ
フィリピンから
ジェシカさんがやってきた
住み込んだ途端
ベッドのシーツがピンとなった
排水口からプルメリアが香った
焼きうどんすら出てきた
プロフェショナルだわが口癖になった
勝手に衣食住が回るようになってしまった
有難い極みだが 僕も何かを回さねば
立派な貴族という概念は
言語矛盾を抱えている気もするが
立派な貴族という概念が
僕には緊急に必要だ 指針として
この小貴族も数年後には庶民に帰る運命である
期間限定で「Sir」と呼んでもらえる
今だからこその何かを 回さねば

2022/9/6

行列

大抵の「行列」は事故かミスか下心である
想定外に対応できなかったか対応しなかったか
捏造したかである
被災地の給水車にできた行列
小さな小さなラーメン屋の行列
国葬に献花する行列
行列も色々です
マクドナルドのクォーターパウンダーバーガー発売を
取材した時にわかったのは
行列アルバイト千人を雇っていた事実だった
腹を空かせた学生が「自白」してくれた
並んだ人数は「参考記録」
はしゃいで並走する早送り映像は「テレビ的演出」
「行列取材」は
一人一人の肉声に耳を澄ますことに尽きるのでは

2022/9/29

グローバル礼賛蝉

グローバル礼賛蝉がやっと鳴き止んだ気がします もともと世界にはそれぞれのローカルしかないのです 確かなローカルがそれぞれあってこその 世界です

2020/7/14

鍵盤

鍵盤の見た目ウキウキ感は、押せば素敵そうな「ボタン」がずらっと並んでいること。華やかなラインダンスの踊り子たちが今か今かとそわそわしている感じにも近い。

国葬

最後の最後まで国葬に反対します
それでもやるなら見たいものがある
元テレビ記者としては
カメラマンにリクエストするだろう
「儀仗をする自衛官の顔をアップで撮れますか?
瞳が見たいんですよ」
静岡の被災地ではなく
元首相の自宅前に派遣された
自衛官の黒目に 光は残っているだろうか
加計問題だけ記憶を失った
柳瀬唯夫元首相秘書官の
経済産業省の廊下でカメラに囲まれ
「誠心誠意答弁します」と繰り返すだけの
光の消えた黒目が忘れられない
絞め殺された瞳孔は小さくなり
何も映していなかった
国に葬られると書いて国葬
最後の最後まで国葬に反対します

2022/9/27

『サイバーパンク エッジランナーズ』

サイバーにパンクにエッジにランナー
英単語を齧った程度の日本人を
軽薄に刺激するには絶妙な語呂ね
サイバーパンクたちの命は最高に軽い
軍需産業の傭兵に過ぎぬ前提はとうに忘れ
バイオレンスでしか計れぬエッジに自己陶酔し
月に行ってみたいな そんな淡い夢で生き繋ぐ
攻殻機動隊には取り憑いていた
スタンドアローンコンプレックス
「オリジナルでありたいが群れてもいたい」
そんなモノクロな葛藤はもはやパンクではないのか
寡占企業が光と闇をコントロールする都市で
辛うじて見つけた愛のために
カラフルに散っていく若者たち
残像は美しく物語は救えない

2022/10/3

ジグゾーパズル

ブラックジャックを全巻読めば、医療関係者。
金八先生を全話観れば、教育関係者。
なので、ジグゾーパズル世界の名画シリーズを始めた僕は、もうすぐ画家。

2020/10/20

事実

事実、または、ほぼほぼ事実を、ちゃんと説明しなきゃと思うと、尺が足りないわ、ややこしいわ、という戦いの日々。時に妥協。

菅義偉

菅さんが
「壇蜜さん以来の秋田県出身の国民的スター」
らしいですけど
「悩ましいほどにけしからん」
という意味合いでしょうか

「縛られる」のが好きだった壇蜜さんと
「縛る」のが好きな菅さんでは反対だと思うのですが

2020/9/15

『スリービルボード』

暗闇で皮蛋を食べながら観た 黒い卵のヌラヌラを掬い上げる銀のスプーンだけが白光りし 舌にのせた瞬間いきなり塩臭い まだ凍っている薬味葱が醤油を刺激的にする 画面ではミズーリの田舎者たちが火炎瓶を投げて窓から人を投げて人生を燃やしている やばいねの感情で観られて良かった 「真犯人は誰だ」陰謀論だけで映画を消化するのは勿体無いさ

青春

しょっちゅう死にたかったもんです青春時代は。毎回それなりに「真剣に死ぬ気」なんですけど、生命力とか性欲とかが勝手に溢れる頃合いでもあって、結局生き延びました。悩んでも悩んでも、自力で「答え」までたどり着くほどの精神力と勇気が足りなかったおかげかもしれませんね。「答え」を出しちゃった秀才は何人か天国に行っちゃいました。

小学生

小学生はいろんなものをぶら下げている

2021/9/16

送別会

このメンバーがもう二度と全員揃わないってことを敢えて言わない夜

チャンネル登録

チャンネル登録ってすぐ呼びかけるよねぇ。面白けりゃ勝手に登録するのにねぇ。呼びかける側になってみてわかったのは、自分の作品にそれなりに達成感があるから呼びかけるんだねぇ。達成感があるときって誰かに褒めてもらいたくて呼びかけるんだねぇ。せっかくなのに寂しくなりたくないもんねぇ。

2022/11/2

東大生

東大生との交流会には「勝ちたい東大生」と「負けたくない東大生」ばかりで「社会全体の中長期的な生存戦略を練る仕事してくださいね」と説いて回るのに骨折り。「入試の日に自分だけが勝つ」短期の個人戦をやってきた後遺症かな。対策としていっそのこと受験を「団体戦」にするのはいかがでしょう?

投票はお早めに!

消費税とか改憲護憲とか原発反対とか組織票とか宗教票とか戦略的投票とか美人投票とか落選運動とか「ご近所さんに頼まれて」とか「お灸を据えてやらんと」とか「地元にお金落としてくれるから」とか、一票を巡り十人十色の動機が渦巻く一大イベントにぜひ参加して、その醍醐味を。

2019/7/20

トリクルダウン

そういえば「トリクルダウン」とかいう、しかしなにもおこらない呪文を叫ぶ人いなくなったなぁ。

2018/8/15

ナイトハイキング

上りは足が上がらない 下りは足が止まらない
しんどいしんどい
はるばるやって来た香港で
わざわざ毎週ナイトハイキング
なぜ?なぜ?
暗闇の岩壁の中腹で 自問自答を繰り返す中年
それでもこの街の夜景は 毎週毎週ちゃんと美しい
幾度も登ってきた仲間たちも「綺麗だなー」と毎度漏らす
黒い山の頂上で
僕は多分 確かめている 
今この街で生きて眠っている その正しさを 

2023/2/16

何者

この男は何者だろう?
奥様はスーツ姿で出勤されたのに
息子たちをスクールバスに乗せただけで
ニコニコ帰ってきたタンクトップの男
私が掃除機を差し込む真横で
体を揺らしながら朝からピアノを弾いている
この男は何者だろう?
とジェシカは思っている
僕は何者だろう?
ジェシカさんに怪しまれているのは薄々感じるが
さてどう説明しよう
日本のテレビ局の情熱的なジャーナリストでしたが
過去のある事件がきっかけで心に傷を抱えて
今は少し休息が必要で…
という気取った設定は長持ちしないだろうなあ
時折見せる哀しげな眼差しとかやろうかしら
いやいや 正直に話せばいいでしょうが
ピアノも目覚まし兼ねて習慣で練習しているだけ
でも掃除機が接近してきて弾くのを止めたら
遠慮させちゃうじゃん
ジェシカさんには気持ち良くお仕事して欲しい
と思った結果
僕もプロっぽく鍵盤を叩きます 体をゆらゆら揺らしながら
僕は何者だろう?
の問いに焦って答えを出すつもりがないんです
が正直なところ
香港政府には職業登録が必要だったので
ひとまず「editor」を選択した
たぶん執筆や編集に関わる仕事かと思われる
ならば!ということで
ジェシカさんが洗濯物をせっせと畳む前で
この男は 哀しげに眉をひそめながら
この文章を書いている

2022/9/7

ハイトーン

ハイトーン
「ふぅぉ〜えゔぁぁぁらぅぁぁ〜」
宿題中の九歳が演歌調で声を張り上げる
香港の日本人学校で
X JAPANの“Forever Love”を歌うらしく
退屈過ぎるメロディが
薄いメッセージを延々と繰り返す冗長
ToshIのハイトーンに感心するだけの
小泉自民党の応援歌だったんだよ
とは言えないので
令和のハイトーンならばこっちよと
奇妙礼太郎の新譜を鳴らして対抗している
「たまらない予感」で九歳の鼻歌を泥棒したい

2022/10/11

破壊と創造

多くの神話や宗教が破壊神と創造神を分けているように、おそらく破壊者に創造を託してはいけないのです。ましてや破壊者が破壊と創造を同時に企ててはいけないのです。

2017/10/10

恥ずかしい

あとあと恥ずかしいことばかりが人生を盛り上げていくのだ、と。

PTA

「PTAは全員参加です 私立ですので」
と事務局に言われて1年
気づけば役員にされていた
「正式な手続き」を踏まされて
気づけば役員にされていた
手遅れだった
思考停止した軍事政権に徴兵された気分 
は言い過ぎか
「子供のために頑張りましょう」が
「お国のために頑張りましょう」に空耳する
「参加義務」「役員免除」「役員選出委員」だの
性悪説にまみれた言葉がにこやかに飛び交う
脱走兵は逃げ場のない最前戦に送られる
ロシアンルーレット
PTA幹部を決める抽選が速やかに執行され…
一番おとなしくて素直そうなお母さんが
声にならない叫び声を上げた

2023/2/21 #寛生の縦書き

FANZA

仕事以外でずっと続けていることありますか?

2020/9/16

フェイスシールド

ピンク色のビニール袋 2022/9/9

制服の子たちは皆
ピンク色のビニール袋を持っている
Zoomで覗く授業参観 
小さな画面で一際目立つ
国語の時間
「では班の人と話し合ってみましょう」
先生に言われれば
ピンク袋からフェイスシールドを
ささっと取り出し装着する
音楽の時間
「春の小川」のイントロがかかれば
ピンク色の袋がガサガサ鳴る
ささっと取り出し装着する
シールドを曇らせながら歌唱する
“咲けよ咲けよとささやきながら”
香港政府はワクチンパスの適用対象を
5歳以上の子どもにも拡大すると発表した
外食や買い物やプールに行くためには
ワクチンを打たなければいけない
3年生の息子は
みんなで食べる給食をまだ知らない
ずっと一人で黙って食べてきた
フェイスシールドもワクチンパスも黙食も
大人だけで決めたルール
だから「可哀想ねえ」と
言ってしまわぬよう気を付けている
彼にしてみりゃ小学校生活の半分を
不憫に思われる筋合いはないし
何があろうと力強く
少年時代を謳歌しているのだから

2022/9/9

『ブックスマート』

『ブックスマート』には高学歴おじさんを連れて行って救ってあげよう!
勉強できた過去にしがみつき、日々を小器用に事務処理し「いつかオレも」と心に誓うだけの、勉強やめて久しいアラフォーサラリーマンは青春コメディなのに泣きますよ。多様性を謳歌する高校生たちの眩しさに。

2020/9/16

ホトトギス

泣くのなら 眠ってしまえ ホトトギス

真顔

そこそこの立場のおじさんが真顔でボケるのは原則禁止です 周りは笑ってあげなきゃいけないし せめて自分でツッコミを入れて完結してください

2019/10/3

マスコミ

自分が「マスコミ」になってみて、一番に励みになることは、もう「マスコミのせい」にできなくなったということです。

2014/2/22

右膝

右膝が立った夏
ふいに一枚の写真が送られてきた 尖沙咀の噴水広場でドラゴンボートユニフォーム姿の男がベンチで寝転がっているだけの 何の事件性も何の華やかさもない写真だ もちろん身に覚えはある だが寝ている男が自分だとわかるまで三秒半ほど要した それほどまでに僕は風景に溶け込んでいた たぶん写真の構図が素晴らしいのだろう あらゆる斜線が噴水の頂点に向かって延びている ベンチのウッドデッキの角度と 奥のビルのガラス窓に映り込んだ建物の形が 噴水を頂点とする鋭角の二等辺三角形を作る 地面に垂直に並ぶ(当たり前だ)街灯や街路樹が底辺となり二等辺三角形を確固たるものにする そして男の右膝だ 街路樹たちと一緒になって平行に立っている膝小僧は もはやミラクルではない 構図の要求に従ったまでだ この風景では男の右膝はもはや立つべくして立っている つまり僕は 眠りながらにして香港の景色に溶け込むことに成功したのである 香港に渡って二度目の夏 ついに僕は景色になった 一つの達成である 手ぶらで大都会の公共ベンチに堂々と寝そべってしまう余裕と この撮影者も含め仲間ができた安心感が合わさった時 満を持して右膝が立ち 僕は香港に調和していったのだった

2023/6/24

味噌煮込みうどん

味噌煮込みうどん
日本人家庭で毎週うどんを作る
人生を送ることになったジェシカさんの
腕の上がり方がめざましい
午後五時半に
香港のキッチンに漂う味噌煮込みの香りは
「日本中の住宅街を夕暮れ時に覆う匂いと一緒で
ノスタルジックな気分になります」
と英語でお伝えした
でも本当は
「午後五時に練馬区のスピーカーから流れる
『夕焼け小焼け』が鳴り終わる前に
急いで帰らなきゃの少年の頃に
駆け降りる下り坂でハアハアと息を吸い込んだ瞬間
ふいに襲われるのです
どこからともなくの甘辛い味噌の香りに
ツンと鼻から脳に抜けて ふわぁとなる
味噌の溶け込んだ空気を何度も吸い込めば
だんだん気だるくなってきて
駆ける足もゆっくりになって 
それで見上げた
薄ピンク色の夕焼けがとても綺麗だったのです」
と英語でお伝えしたかった
うどんが伸びますな

2022/10/12

ミッドサマー

お花畑に包まれると
夢のような気分になる
そのうち生きた心地がしなくなる
天使たちに真っ白に染められてしまう
夜が欲しい夜が欲しい
光の中
眩暈で一回転してしまう前に
胸の傷を縫った糸を
天使たちが解いては舞い
内臓から色とりどりの花が咲き乱れる
柔らかな歌声が聴こえてくる
まるで地獄だ

2021/11/3

無関心

「無関心」の分だけ、その人は消えていくのでしょう。

向こうの息子

向こうの息子
ゼリーは食べた 水はよく飲むが 熱が38.9度まで上がる 読書をやめて横になる 体の中は熱いが外は寒いとタオルケットにくるまって眠る一時間ほど 水を追加する ひんやりタオルを渡す 部屋の換気のため30度のクーラーつけるがすぐに「寒い」とシャツを着る クーラーやめて少しだけ窓を開ける ジェシカさんに「ランチは素うどんで」お願いする 体が熱い熱いが続くので首の後ろに熱さまシートを貼る 少し熱が下がってきて軽い頭痛が始まる 急に吐き気を催しトイレで吐く 洗面器を設置 ポカリを飲みたいというので少しだけ渡す 吐いて汗をかいたら楽になったのか熱が少し下がって38度 音楽を聴きながら横になっている そのまま眠ったが小刻みに震えている 目が覚めたら痰の絡んだ咳を少しだけしている また熱くなってきたとため息つきながら横になる 声は弱いがちゃんとしている 水を追加する 素うどんができあがったがまだ眠っている 頭痛薬や吐き気止めはまだ飲んでいないが窓際に準備した 塾はオンラインの録画授業になるだろう

2023/9/27

黙殺

あの男は黙殺するつもりだった
香港に渡ってもTwitterに依存していた当然の報いだが
あの男のスマイルを目撃してしまい
いじめっ子気取りの匿名集団が囃し立てる地獄絵図は
ホラー映画よりも胸糞悪く
悪質なウイルスに潜伏されたような気持ちになった
国に黙殺され蹂躙される辺野古を命懸けで守る人々を
わざわざ侮辱しに行った幼稚な愉快犯
言葉を尖らせて弱者の胸を抉る達成感に酔う男に
大人としての発言権をこれ以上与えてはいけない
彼こそ黙殺しなければいけないと
そんなことを考えていたら
九歳の息子が学ぶタブレットから
国語のオンライン授業が聞こえてきた
よりによって『ちいちゃんのかげおくり』だった
「ぼうくうごう」でひとりぼっちで
家族を待ち続けたちいちゃんはある朝 
「ああ、あたし、
おなかがすいて軽くなったから、ういたのね」
と言って空にすいこまれていく
初老の教諭が子供たちに語りかける
戦争が終わって良かったと言われますが
始まらない方が良かったのです
戦争はちいちゃんから 家族だけでなく
ちいちゃんの未来の家族も奪ったのです
みなさん
「戦争」の反対は「平和」ではありません
戦争は手段ですから 暴力的な手段ですから
「戦争」の反対は「話し合い」です
たくさん勉強して
「話し合い」ができる大人になってくださいね
あの男は黙殺するつもりだったが
やめた
「戦争やった方が結局コスパいいでしょ」と
論破スイッチをONにしていつか言い始める気がする
氏名も書きたくないし 非難する自分もおそらく醜いが
みんなで少しずつ声を寄せて
コスパの悪い「話し合い」にずるずる巻き込まねば
あの幼児が言葉に遊び疲れて
言葉に嫌気が差して 言葉から逃げ出すまで

夜明けと夕暮れ

せっかくの夜明けなのに 色を数える間も無く 深呼吸ひとつできず 明けさせてしまう このところ
夜明けと夕暮れ 日差しと風が一休みして心に刻みやすい時間 その1日2チャンスの味わい方で 僕らは豊かになっていけるのだと思う

2015/7/19

冷蔵庫

贅沢な感傷 2022/9/26

冷蔵庫に貼った付箋ともサヨウナラ
寝惚けまなこで分刻み 毎朝タスクをこなしていた
たった半年足らずのなんちゃって主夫修行も
ジェシカさんが来てくれて めでたく終わりを告げた
僕がぐちゃぐちゃにしていた水回りは
もう いつもピカピカで
冷蔵庫のどこで何が冷えているかも
もう よくわからない
もう 僕がいなかったみたいだ
台所の端っこに座り込んで電子レンジを睨んでいた
不器用なおじさんは去りました
贅沢な感傷
それだけが僕には残って

2022/9/26

ローカル

グローバル礼賛蝉がやっと鳴き止んだ気がします。もともと世界にはそれぞれのローカルしかないのです。確かなローカルがそれぞれあってこその、世界です。

わかりやすい

「それ何が面白いの?」「わかりづらいね」を言ってしまったらもったいない。誰かが夢中で訴えている「それ」は、「直感的に面白い」か、そうでなければ「じわじわ味わい深い」のどっちかなのよ大抵。わかりやすい大人になんかなってやるものかと思っている。

2020/10/20