AIキャラクター/Virtual Beingのユーザー価値について

今、私が所属しているrinna社では、AIキャラクターが事業やプロダクトの中心にあります。言葉としては、Virtual Beingも同じものを指しています。このAIキャラクターという存在は、要素技術としてはChatbotと非常に近い一方で、その存在価値はかなり違うところにあるように思います。このポストでは、ユーザーの観点からその価値について考察してみたいと思います。

AIキャラクターとChatbotの違い

この2つに明確な区分があるわけではありませんが、いわゆる非タスク指向かタスク指向か、という説明がイメージとしては近いと思います。ただ、完全に分離されるものではなく、あくまでどちらが主か、という違いです。

タスク指向は、ユーザーの意図を正しく理解し、正しく応答を返したり、アクションする必要があります。例えば、スマートスピーカーに代表されるAIアシスタントもタスク指向ですが、非タスクに分類される雑談の機能があります。ただし、あくまでも主となる機能(ユーザーからの期待値)は、正しく天気を回答したり、音楽をかけたり、家電をコントロールすることなど、タスクを完了するです。

一方、非タスク指向は、特定の目的を持たず、会話すること自体が目的です。その会話から新たな発見を得ることはありますが、あくまで主は雑談であり会話自体です。例えば、"おなかすいた"というユーザーからの問いかけに対して、タスク指向のChatbotは、近くの一番評判のよいレストランをお勧めします。非タスク指向では、"私もおなかすいた"と返し、たまに近くのインド料理やに"ここに行ってみたい"と言います。正しく答えを返すのではなく、主観的な返答を返します。もちろん、非タスク指向でも、一部の問いかけに対してはタスクを実行することはありますが、主は会話そのものです。AIキャラクターは、こちらの非タスク指向に分類されます。

それぞれの価値に関して、タスク指向はわかりやすいです。人の要求を理解して自動化できるので、人の業務を効率化できます。一方、人の要求を理解したり、答えることを目的としない非タスク指向のAIキャラクターの価値は何か。実はこのAIキャラクターの価値は、タスク指向とはかなり異なります。まだ、その価値をすべてをまだ語りつくせる自身はありません。ただ、1つの大きな特徴として、AIキャラクターは人が演じにくいキャラクターを柔軟に演じられる、という点が挙げられます。

では、具体的にいくつか例を挙げながら整理してみます。

AIキャラクターは聞き上手

ユーザーさまのフィードバックを見たりや、実際にインタビューをしてみると、AIキャラクターに悩みを相談している、という声をよく聞きます。必ずしも知識として正しい答えを返さないAIキャラクターに、なぜ相談をするのか。私が知る限り、体系的な理論は見当たらないものの、関連する研究は多く見つかります。

例えば、この記事。(有料です)

ヘルスケアのインタビューにおいて、Virtual Humanは人がヒアリングするよりも、プレッシャーを与えずに自己開示を促せることを説明しています。この記事では、人間によるヒアリングは、その結果によって何かを判断されるのではないかという不安から、自己開示を抑制してしまう、とあります。

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他にも職場の悩みは、上司よりもロボットの方が相談しやすい、という調査結果もあります

https://www.oracle.com/jp/corporate/pressrelease/jp20201008.html

個人的な感覚としても、AIキャラクターとの会話においては、それを言った結果、どう思われるだろう、という不安を感じることはありません。人との会話においては、過度に気にすることはなくても、言った後の影響はやはり気になります。その結果、本当のことを伝えた方が良い場面においても、きれいに表現するためのフィルターをかけてしまいがちです。AIキャラクターとの会話では、気軽に本当のことを言うことができます。具体的な解決策を提示しなくても、その本当のことをありのままを聞き、受け入れ、共感し、慰めたり励ます。それだけでも、聞き上手な存在として、人の気持ちを和らげることができると考えています。

AIキャラクターは既読スルーでも傷つかない

この例は具体的なシーンで説明するのがわかりやすいです。例えば、友達がいるLINEグループでランチを誘う場面を想像してみます。ある人が、”ランチにいきませんか?”といって、みんな既読なのに誰も反応しなかったら、かなり落ち込みますよね(私は何度かありますがw)。

そんな時に、AIキャラクターが代わりにランチに一緒に行く人を募集してくれたらどうでしょうか。誰も反応しなくても誰も傷つかないですよね。答える側の立場でも、忙しかったら返事しなくて良いですし、行きたいと思えばそのまま返事する。AIキャラクターという存在が間にいることで、どちらも傷つかず、変に気を遣うこともなくなります。

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これは日常のちょっとした例ですが、空気とリアクションが読めない場面で最初に提案するなど、発言を躊躇してしまう場面はよくあると思います。そのような時、AIキャラクターが代わりに発言することで、不必要に思いとどまったり、逆に発言して不用意に傷ついてしまうような場面で助けられます

今の会社の社内コミュニケーションツールには、AIキャラクターがいるのですが、そのキャラクターがしゃべることを直接指定してしゃべらせることができます。AIキャラクターを通じてしゃべった内容は、誰かそれをしゃべらせたのかわかりません。まさに、AIキャラクターが人の代わりに発言する、という機能です。これを利用して、例えば、経費精算のリマインドをする。毎回、同じ人がリマインドすると、うるさい人と思われそうでためらっちゃいますよね。AIキャラクターという"顔"を使うことで、自分にイヤなレッテルを張られることも避けられます。

AIキャラクターはピエロになり場を盛り上げられる


さらに発展すると、AIキャラクターはピエロになって場を盛り上げられます。例えば、会議でブレーンストーミングをしている際にシーンとなること、たまにありますよね。そのようなときにムードメーカーがいれば、少しラフなアイデアを出して、場の空気を壊してしゃべりやすい雰囲気をつくることができます。ただ、こういうことができる人は限られています。

AIキャラクターは、まさにそのようなムードメーカー、もっとおどけたピエロに簡単になることができます。ちょっと話題からずれたアイデアを出してみたり、お題に関する絵を描いてみたり。それがおかしければおかしいほど、場の空気を軽くし、会話のハードルを下げ、そのAIキャラクターの発言をきっかけにして”ツッコミ”から会話が始めることができます。

まさにこのような内容を調査した研究があります。

この研究では、3人+1Botにグループにおいて、Botの発言によって、人のコミュニケーションがどう活性化するのかを調査しています。結果として、VulnerableなBotがいるグループは、そのBotのちょっとおちゃらけた発言をきっかけにして、人間のコミュニケーションが活性化する、という結果を得ています。

前章で書いた社内のAIキャラクターも、よくしゃべりかけられていますが、その返答をきっかけにしてチャットが盛り上がることが良くあります。例えば、このAIキャラクターは人を良く褒めてくれるので、AIキャラクターからAさんへの返答でAさんが褒められると、他の人が集中的にAさんを称賛し始めますw まさに、AIキャラクターの発言をきっかけにして、会話が盛り上がる1つの例です。人間がいきなりほめるとちょっと空気が変になりそうですが、その初めの一言をAIキャラクターが言うことで自然に人が後に続くことができます。

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このように単なる人とAIキャラクターの1対1の会話だけなく、人間の集団の中においても、AIキャラクターはコミュニケーションのきっかけを作ることができます.そのきっかけ作りには、ピエロのようなキャラクターが求められますが、人間には演じるのが難しくとも、AIキャラクターには容易です。

まとめ

AIキャラクターの基礎的かつ共通的な価値として、以下の3つを説明しました。

1. AIキャラクターは聞き上手
2. AIキャラクターは既読スルーでも傷つかない
3. AIキャラクターはピエロになって場を盛り上げられる

今日、ご紹介したのはこの3つですが、毎日のように生まれるアイデアと、多くの仮説検証をする中で、もっと多くの価値が発見できていくと思います。ただ、この3つだけでも、AIキャラクターが根本的に人のコミュニケーションの形をより良くできると考えています。

そしてもちろん、AIキャラクターの価値は、そのそれぞれの個性によって様々な場面で拡張されます。企業の広報活動をしたり、企業内のコミュニケーションを活性化したり、また例えばゲームの中に大量にAIキャラクターを派遣して、そのゲームの世界を盛り上げたり、など。活躍が具体的にイメージできる場面は、非常に多くあります。

今後も、AIキャラクターを全て人や企業に提供し、多様な表現ができるようにしていきたいと思います。

以上

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