インディペンデントであること

前回の続き

店の経営者となると、いわゆるサラリーマンとは話が合わなくなる。それは当然だ。立場が違うというか、立場はたいてい敵対する立場だから。君の立場では君が正しい。だが、僕の立場では僕が正しい。そういうものだ。僕はサラリーマンを3年経験しているからどちらもわかる。だがもう戻れないのだ。

そして、経営者でつるむので、経営者同士でいろいろな話をする。ありがたいことに僕が話をさせてもらう経営者は皆、繁盛しているお店を抱える人たちで、年も経験も僕より上の先輩で、僕よりも先のフェーズを歩んでいる。その人たちの話は面白く、そして、学びが多い。そこで僕は運が良いと思うけど、自分がこれからこのまま進めば、向き合わなくてはならない課題を先に彼らを通して知れたり、話を聞けている。そして、思うのは、ある時期から、店が大きくなると、それはもう自分のクリエイティブの話よりは、人材育成やキャッシュフローのことでリソースが割かれてしまうということだ。一度、店を成長拡大させる方向に舵を切ると、後戻りをすることは難しい。(そして最終的に企業に買収された有名店も数多くある)

僕は所詮、芸大出の甘ちゃんだし、ずっと夢想家なところがあって、ビジネスとクリエイティブは50%50%で楽しみながらやりたい。そのバランスが一番楽しくて、一番刺激的だと思っている。クリエイティブ100%でやるほど自意識が強くはなく、僕はお客さんが喜んでくれるものを作りたいし、逆に自分のリソースを経営だけに全振り(ビジネス100%)して、商品開発やビジュアルなどのクリエイティブはスタッフに任せる、みたいなことは意味不明で、それを全くやらずして、(俺は人事や採用や金の工面をするために起業したのか?)なんのために自分がそもそも始めたのかすらわからなくなる。お金は欲しいけどお金のためだけに仕事しているわけではない。

自分のクリエイティブは最大限に発揮しつつ、目の届く範囲、自分の身の丈にあう範囲での最大限の成長、進化、収益が僕にとってのちょうどいいサイズの成功で、それ以上は目指さず、キープしていくことが、一番、自分に適した経営ではないかと思っている。

僕はコムデギャルソンの川久保玲のインタビューを読み漁っていた時期があって、影響を受けているので、ビジネスもクリエイションです、とか、デザイナー(クリエイター)自身が経営をやるべき、みたいな考え方を初めから持っているし、いわば、基本的には全部自分でやらないと気が済まない人間なのだ。逆にそうでないと、熱量のある、魔法の粉のかかった仕事なんてできないのだ。つまり身の丈の範囲で全て自分自身で決められる、インディペンデント(独立している)であることこそ、僕にとっては重要なことだ。そして、それはお客さんにとっても幸せなことだと信じている。

(余談だけど、自分が思春期から影響を受けていた音楽、特にパンクやハードコアのインディペンデント精神は心の軸に刷り込まれていて、それが正義。ずっと塗り替えられない、塗り替えちゃいけないと思っている。)

僕がサラリーマンで勤めていた会社で僕が社長ほど熱量を持って仕事したかと言われるとしていない。できない。でも、ここは僕の店だ。ここでの仕事を僕以上に思い入れを持って、僕以上の熱量の仕事をできる人がいるわけがなく、つまりは、僕自身がやるしかないし、それをやること、それを通してお客さんが喜んでくれることが何より店をやる喜び、楽しみ、幸せで、もっとも大切なことなのだと思っている。お金や名誉はあくまでその結果だ。

店を100年以上続けること、自分が死んでも店が続いていくことがモチベーションだという経営者とも話をするけど、僕は自分が死んだ後に自分が望まない形で店が変わっていくことを考えたらその不安や怒りで成仏できず幽霊になって夜な夜な店に現れてしまうと思うような人間だから、自分が良きタイミングで自身で店を閉じることを決めている。(上記の経営者が二代目三代目の人だからというのもあるが)自分で起業したので自分の閉業できる自分は気楽でいいなと思っている。

といったふうに自分の精神性や性格も含めて、僕は大それた社会貢献や目的意識ではなく、あくまで自分個人の幸せのために店をやっている、やっていく。それを自覚してからはやるべきことははっきりしている。

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