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 この曲は、「過去」をテーマに作りました。過去に囚われず、歌い踊るように今を生きたいだけなのに、それが出来ない一人の人間。まるで忘れられない過去の中にいて、今を生きることができていないかのような、そんな有様を描きました。
 過去の中で生きること自体が悪いことだとは思いません。けれども、例えば、目の前に輝いているものがあるとき、今の自分を真っ直ぐ見てくれている人がいるときに、過去が邪魔をして言動が歪んでしまうのなら、それは寂しいことだなと感じます。
 WATER KINの最初のシングル「頭を撃つ」でも、言葉の選び方は違うものの似たようなテーマで歌詞を書いています。過去というのはテーマにしやすいので気のせいかもしれませんが、何となく、自分も過去を振り返る回数が増えるような歳になってきているのかなと思ってしまいます。

 この曲のラフなイメージは、二番の手前まではFEEDWIT(以前やっていたバンド)の頃に、既に出来上がっていました。元々、作品として出すかどうかも分からない立ち位置で作った曲でしたが、ビートが比較的一定で、且つシンセサウンドの強いこの曲を、FEEDWITとして出したらどうなるのだろうと興味が湧き、メンバーに相談したことを覚えています。少し記憶は曖昧ですが、結果「秘密万博」というミニアルバムの次に出していく曲の候補として、並んだと思います。しかし、そのときはそこから進展することはありませんでした。
 そこから完成の形に近付いたのは、かなり最近の話になります。今回のように制作に時間を空けることは時々あるのですが、それは「もっといい案がある気がするけど、今の自分から生まれる気がしない」という理由であることがほとんどです。これは納期のない曲に生まれる特権です。曲の二番に、起承転結でいうなら、「承」でありながら「転」でもあるような、そんな展開が必要だと思っていたのですが、しっくりくるものにたどり着けなかったがために、時間を空けるというこの技に逃げたのです。
 そして、歌詞と共にようやく形にすることができました。二番の歌詞では主人公がお酒をのんでいる状態を書き、アレンジ全体は、その主人公が酔っている様子を表現するイメージで作っていきました。辿り着くのに時間がかかったものの、この箇所を作ることが、今回の制作の中で一番楽しかったことかもしれません。意図的に音程をずらすような処理もしているので、初めて聴かれるときは違和感が強い可能性もありますが、それでも良いと思っています。実際のお酒だって最初から美味いと思える人は少ないでしょう。繰り返されるビートが続いてきた中、音が歪み、解像度が下がる。そんな展開がこの曲には必要でした。

 この曲の主人公のように、ただ現実をのみ込んでいくだけのような時間が生まれると、定期のように過去はやってきます。なら、過去を思う暇もないくらい、がむしゃらに今を生きてやろうと頑張ってみると、今度は身体や心が持たなかったり。こんな性格だと、過去との付き合い方に良い道など無いのかもしれません。でも、そこに絶望する必要なんかなくて、大事なのは、きっとそこに寄り添ってくれるような人や何かが、どこかに存在するということでしょう。今はそれらを見逃さないようにすること、そして大切にしていくことに、がむしゃらになって生きていけたらなぁと思います。

[歌詞]
揺らされる時代の音に疲れたかのように
零れ落ちたコーヒー
想い出からも目を覚ましてちょうだい
シミのようね私の人生
これからも重なって 大人さえも越えて

揺らされる時代の音に笑えたかのように
弾けた炭酸を
人はひとときの青春と呼んだ
それでいいの あなたのことを忘れて
気の抜けない日々を見る

雨に恋は流れ
生きるようにただ踊って
あなたのどの言葉よりも
渦巻く喧騒溶かして
雨に愛は流れ
生きるようにただ歌って
あなたのこと重ねるほど
暇じゃないような日常にのまれて

揺らされる時代の音から逃げ惑うように
回り出した情景
恍惚の中 裸の感情に滲む今日も
あなたのことを忘れた
赤らめながらひとり

雨に恋は流れ
生きるようにただ踊って
あなたのどの言葉よりも
渦巻く喧騒溶かして
雨に愛は流れ
生きるようにただ歌って
あなたのこと重ねるほど
暇じゃないような日常にのまれて のまれて

雨に慣れたふりをして
のみ込もうとただ笑って
溢れてしまうその正直な気持ちに
心揺らいで のまれて

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