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幽体離脱と接着剤


事物(モノ、コト、ヒト)の間に関連性を見つけ出すこと、それがスペキュラトゥールを目指す者にとっての基本姿勢です。

では、どうしたら事物の間に関連性を見出すことが出来るのか?

『アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない』(J.W.ヤング『アイデアのつくり方』HTTPS://AMZN.TO/2OXXUHV )

「何ものでもない」というのはかなり厳しい表現です。既存の要素Aと要素Bとの間に何らかの関連性をあぶり出すことが出来なければ、アイデアには至らないわけですから・・・。

そこで、今回は、既存の要素Aと要素Bをくっつける接着剤は何なのか?について考えてみたいと思います。


接着剤の正体とは?

結論から言うと、物事の本質を見抜く『抽象化思考』が接着剤です。

抽象化思考とは物事を大きな概念でまとめて一般化することです。

これによって、多くの情報の中から余計なものを削ぎ落とし、物事の本質が浮かび上がってきます。

物事を大きな概念で一般化するには、いつもより一つ上の視点から客観的に眺めてみることが必要です。

もう一人の自分が現実の自分より高い所から客観視してみるということです。

あたかもそれは、自分自身を「幽体離脱して上から見る」ような感じです。

これを「メタ認知」と呼ぶのだそうです。

要は、いろいろな物事を「一つ上の視点」から考えること(メタ認知)で、抽象化思考能力が鍛えられ、くっつきの良い接着剤が入手できるというわけです。


なぜ、幽体離脱(メタ認知)が必要なのか?

メタ認知が必要な理由は3つあります。

(1)気づきを得られる

「一つ上の視点」から考えることで、まずは自分がいかに知らないか、気づいていないかを知るということです。『無知の知』です。子供の世界でも、何が分かっていないか分かっている子供は学習の成長が早いと言います。大人でもまったく同じことが言えるでしょう。

(2)思い込みを排除する

「自分の考えが正しくて当たり前だ」と露ほども疑っていない状態を思い込みと言います。そんな思い込みを排除し、「自分は間違っているかもしれない」と常に自分自身を疑ってみることで新たな視点が加わります。

(3)創造的な発想ができる

自分がいかに無知であるかを知り、思い込みを排除するように心がければ発想も広がります。


細谷功『メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問』より
HTTPS://AMZN.TO/2OVSAD8


上手に幽体離脱(メタ認知)するには?

アナロジー思考(類推思考)が極めて有効です。

アナロジーとは、「遠くの世界から借りてくる」ことです。

『遠く』というのがポイントです。誰でも気付くような『近く』から借りてくるのでは価値がありません。

なぜなら、普通の人では簡単に気付かないような思わぬ類似点を見つけることが肝となるからです。

というと、なんだか難しく感じるかもしれませんが、「遠くの世界から借りてくる」ことは日常生活で誰もが経験していることです。

たとえば、奥さんが晩御飯に煮物を作ろう思って、野菜や肉などの材料のほか、醤油やみりんなどの調味料を用意する。

家族4人前でお水は500ml必要だな、などと考えながら計量カップに手を伸ばしたところでヒビが入っていることに気づく。

はてどうしたものか、買って来ようにもお店はもうしまっている。

そこで、500mlの空のペットボトルを探してきて、それを計量カップ代わりにする。

こんなふうに、何気に誰でもやっていることですよね?


借り物の事例

たとえば、マーケティング用語として広く知られている「ニッチ戦略」なんてのは、もともと生態学の世界からの借りものです(※カブトムシとニッチ戦略→以前の記事 )

あるいは、営業マンなら一度は勉強したことがある人も多い「ランチェスター戦略」なんかも軍事理論からの借りものです。

こんなふうに、自分の居る業界とは全く縁のない他業界や、ビジネス以外の伝統芸能やスポーツ、歴史上の出来事や趣味など、あらゆる世界が「借りる」対象になります。

もちろん、ペットボトルを計量カップに転用する例など、日常生活も「借りる」対象に溢れています。

かつて新聞社に勤務していた私は、他所の世界からいろんなものを借りてきては新聞購読率の低下に歯止めをかけようと試みました。

不動産業界などもその一例です。

2000年代前半は、新聞購読率の低下に強い危機感を覚えた時期です。

一方、その当時の不動産業界は、まだリーマンショックが起こる以前の話で、タワーマンションの売れ行きが順調に推移していました。

そこで、不動産業界から何かを「借りる」ことにしたのです。

すぐに新聞業界と不動産業界をくっつける接着剤が見つかりました。

それは、「眺望」です。

タワーマンションは、「眺望」を売っているのです。

対して新聞は、「眺望」の素晴らしいタワーマンションほど新聞離れが深刻な状態だったのです。

なぜ、タワマンの購読率が低いのかというと、管理組合の決定事項で戸別セールスが禁じられているケースが多く、ドアポストの宅配ですら組合の許可を要していたからです。

つまり、一般世帯と比べて接触機会が極めて少ないのがタワマン世帯だったからです。

いずれにせよ、これで新聞と不動産が「眺望」というキーワードで繫がりました。

次に、不動産業界では、タワマンの「眺望」をどのように売っているのかリサーチしてみました。

すると、ある不動産販売会社などは、入居者の部屋のリビングの窓からの眺望を記念撮影してプレゼントしており、これがなかなか好評だということががわかりました。

だとしたら、タワマンの上空から撮影した「空撮写真」なら、もっと喜ばれるかもしれない。新聞社員なら容易にそう考えます。

新聞社にとってヘリを飛ばして空撮写真を撮影することなんて朝飯前だからです。

いや、朝飯前などというと航空部や写真部の社員に叱られてしまうかもしれませんが、少なくとも不動産会社にはコスト面などで出来ないことが、新聞社には自前で出来ます。

こうして、私の在籍した新聞社は、新規分譲のタワーマンションの定期購読者には空撮写真をプレゼントするようになりました。

まさに、「眺望」を売る新聞です。

ただし、タワマンが新規分譲されるたびに、ヘリと撮影部隊を動かして漏れなく空撮するのはかなり大変です。

なので、それとは異なる「眺望」の売り出し方も考えなければなりませんでした。

そこで、社内でさまざまなアイデアを募り、どんどん形にしていくことになりました。

たとえば、「夜景写真コンテスト」というイベントなどは分かりやすく、好評でした。

このイベントは、「すべてのタワマンを空撮できないのなら、住人に撮影してもらおう!」という発想で企画化されたものです。

加えて、不動産会社が売りたい「眺望」の中でも、『夜景の映える部屋』は最も価値が高い要素だとされていたので、自分の部屋から見える夜景に限定したフォトコンテストを実施することになりました。

結果として、定期購読者だけでなく、未購読者からの反響も大きかったため、「眺望」で繫がる新たな読者の開拓に一定の効果を認めることができました。

こんなふうに、何が「接着剤」となるのかはわかりません。

大切なことは、世の中の至る所に「借りる」べきものがあるという事実を自覚することだと考えます。

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