欧州エネルギー危機は過ぎ去った?

 ウクライナでの戦争は続いているが、天然ガスの先物価格(期近、オランダTTF)は年初来ピークとなった8月下旬の1MWhあたり337ユーロから11月には同100ユーロ程度まで大幅に下落。さすがに年初の1MWhあたり80ユーロ近辺までにはまだ距離があるが、欧州のエネルギー危機が峠を越えた可能性を示している(Chart 1)。

 実際、EUの天然ガス貯蔵率(≒貯蔵施設に対する在庫率)は目標とした11月1日より2ヵ月も早い8月下旬の段階で80%を達成。直近11月11日時点では95.4%まで上昇し、遡及可能な2011年以降の平均値(88.4%)を上回り、過去最高の97.5%を伺う水準を確保した(Chart 2)。

 もっとも、これはあくまでも今冬の話。天然ガスの貯蔵率は主に季節的な需給変動に対応するための施設に対する在庫水準で、4月にかけて低下する一方、11月にかけて上昇を繰り返す。つまり、今冬分は貯蔵施設をほぼ埋めるほど確保できたものの、来春以降は今冬に使用した分を再び補充し、積み上げる必要がある。
 しかも、貯蔵率は施設に対する在庫の水準に過ぎず、年間消費量に対して(≒備蓄)ではない。
 たとえば、ラトビアの貯蔵率は11月11日時点でも59.5%とEUの95.4%を大幅に下回るものの、年間消費量の約1.2倍、日数にして451日分を備蓄している。これに対し、EUは年間消費量の約3分の1程度で103日分に過ぎない(Chart 3)。

 仮にウクライナ戦争が激化し、ロシア産ガスの輸入が完全に途絶えたり、米国や北アフリカの供給網に障害が生じたりすれば、来春以降に貯蔵率を回復させることは難しくなる。
 それどころか、そもそもの備蓄量の水準の低さを踏まえると、供給網の障害が異常な寒波などと重なることで、今冬中にエネルギー危機が再燃するリスクさえあるといえる。欧州のエネルギーを巡る緊張はいったん緩和したかにみえるが、それは非常に短期的な話に過ぎない。

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