連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第27話『仲間を求めて』
クソガキのドラム「クオリ」が脱退した。
それは本当に衝撃で。
それは本当に悲しくて。
それは本当に悔しくて。
けど残された僕たちには受け止めるという選択しか出来なかった。
しばらくみんな落ち込んでいたけど、いつまでも立ち止まっちゃいけないって事で珍しくタツタが「よし、ミーティングしよ!」と声を上げる。
そして後日、ダイスケの家でクソガキ緊急ミーティングが行われた。
僕たちはコンビニで買った酒を飲みながら本音で話し合う。
「……」
「……」
「……」
しかし、沈黙。
「……どうする?解散する?」
とダイスケが言い出したので。
「……もりちゃん」
「……おぅ」
僕とタツタはダイスケを挟んで肩パンする。
ドスッ
ドスッ
「痛っ!!冗談やってー!!」
という事で解散は論外。
それにせっかく大会に出るという新たな目的が出来たところだ。
その選択肢はない。
とは言ったもののとりあえず練習やライブどうこうの前に、ドラムがいなければバンドとして成り立たない。
結論「ドラム探そっか」という実にシンプルな答えに辿り着く。そして僕たちは……。
——動いた。
軽音楽部の先輩に聞いてみたり、スタジオでメンバー募集のチラシをチェックしてみたり、エンジニアのヨシユキさんに聞いてみたり。
ただ色々と動いてはみたものの、なかなかドラムは見つからない。
そんな中、スタジオで偶然サニーボーイのケンちゃんと遭遇し、これまた偶然に「今度、同期のバンドのライブがあるんやけど俺らが都合悪くてさ。代わりに行ってくれへん?」と3人分のチケットを渡され、特に何か活動が出来る訳じゃない僕たちは「行く!」と首を縦に振っていた。
◆◆◆
そして、ライブ当日。
その日は、ケンちゃんの同期バンド「スリーボックス」の企画ライブだった。みんながライブを見てワイワイガヤガヤ楽しんでいる中、僕、ダイスケ、タツタは明らかに目の色がおかしかった。
どのバンドがステージの上に立っても、ドラマーしか見ていない。
まるで隙あらばスカウトを狙っている音楽プロデューサーのように、僕た
ち三人組はギラついていた。
そして、企画ライブが全て終わった後、僕たちはお互いに目を見合わせコクリと頷く。
「あのドラムめっちゃ良くない?」
「演奏が正確やったなー」
「うん、安定感やばい」
ダイスケと僕とタツタがそれぞれに大絶賛するドラマー。
それはあろう事か企画をしていたスリーボックスのドラムだった。
僕たちは他のバンドに所属しているドラマーをクソガキに入って貰うよう口説く、というかなり大胆な事をしようとしていたのだった。
◆◆◆
「「「お疲れ様」」」
「あぁ、今日はありがとう!」
物販コーナーに一人で座っていたスリーボックスのドラマーを発見し、僕たち三人はここぞとばかりに声をかけにいく。
「俺はマツイ」
マツイはそう言った。
タツタよりも背が高くスタイルがいい。短髪で前髪をツンツンに立ち上げていて、目元は鋭く笑っていないとヤバイ。血に飢えたオオカミみたいでかなりヤンチャなんだろうなという印象だった。
「…クソガキやんな?」
意外なことにマツイからそんな質問を投げかけられる。僕は咄嗟に聞き返す。
「え、何で知ってるん?」
「この前のネバランのライブ見てた。めっちゃ良かった」
おぉ。かなり好印象。
そこでダイスケは渾身の口説き文句をマツイにお見舞いする。
「けどなー実はドラム抜けてん……」
「そうなん」
「……」
反応薄。まぁ、普通そんなもんか。
「……」
「……」
「……」
「……」
会話終了。
そして、どこか気まずい空気が流れる。
ダイスケもいよいよ耐えられなくなって、
「あーとりあえず俺らいつもこのスタジオで練習してるから良かったら遊びにきて」
そう言って、ダイスケとマツイはメールアドレスを交換していた。
◆◆◆
翌日。
すっかりマイホームと化したスタジオの客席で、僕たちクソガキは今後の活動について頭を悩ませていた。
その瞬間。
入り口の扉が開かれる。
僕たちが視線を向けるとそこに立っていたのは昨日会った人物。
——マツイだった。
「おぉ、ほんまに来てくれたんや!」
僕は驚いて声をかける。
「おぅ」
「……」
「……」
マツイはその場に突っ立ったままだったので、今度はダイスケが声をかけた。
「どうしたん?」
「……スリーボックス辞めてきた」
「ん?」
「俺が……クソガキでドラム叩くわ!」
………
……
…
「「「えー!!!」」」
これは嘘みたいな本当の話。
僕自身もマツイとはこの先、様々なドラマが繰り広げられることになる。
兎にも角にも新ドラマー「マツイ」がクソガキに加入した。
ティーンズ奈良県大会まであと三週間。
つづく
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