連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第15話『新しい場所へ』
「スタジオに行くぞー!」
と、言って部室を飛び出す高校生四人組。
それは我らが青春パンクバンドクソガキだ。僕たちはまるで遠足に行く前の小学生のようにワクワクしていた。
ライブハウスに出演するという目標は立てた。
しかし、いつもと変わらず部室での練習を続けるのも何か違うなぁと言う事になり、じゃあ音楽スタジオに行こうという流れになった訳だ。
初ライブを終えバンド名が決まり、初めてのオリジナル曲も完成した事でクソガキの意識も少しずつ高くなっていた。
——音楽スタジオ
それはちょっとした憧れだった。
どれだけ有名なバンドでも駆け出しの頃は必ず音楽スタジオで練習する。自分達も同じスタートラインに立てたような気がした。
学校から自転車を全力で漕いで20分。一階は楽器屋。二階がスタジオだった。僕たちは自転車を店の前に置き、期待に胸を膨らませながら階段をコツコツと登る。
そしてついにスタジオの入り口前に到着。
僕、イトウ、タツタ、クオリは互いに目を合わせコクリと頷く。
色々な想像が膨らむ。さぁ、この先にはどんな素晴らしい世界が待っているのだろうか。
僕たちは勢いよく扉を開けた。
瞳を輝かせている僕たちを待ち受けていたもの。
それは……まさに……!!!
——真っ白な煙だった。
………
……
…
ユラユラ
モクモク
ユラユラ
モクモク
………
……
…
大量のタバコの煙。
あまりの量の多さに視界が霞み僕は「ゲホッゲホッ」と咳き込む。
その瞬間、客席に座っている男の人達の視線を一斉に受ける。
店内には手前と奥にテーブルが一つずつあり、その周りに男の人達が座っていた。大体10人くらい。みんなスパーっとタバコをふかしてこっちを見ている。
あぁ、今この瞬間。
他のメンバーもおそらく僕と全く同じ事を感じているだろう。
——怖すぎる。
もうヤンキーとかのレベルじゃない。何ていうか……ギャングだ。
見た目が派手だからとか、タトゥーが入ってるからとかって問題もあるかもだけど、それ以上に感じるのはそこにいるという存在感。
オーラだった。
僕たちはただただその場に気を付けの状態で棒立ち。まさに蛇に睨まれた蛙。
何も出来ずにいる僕たちに一番近くにいた人が声をかけてきた。
「どうしたん君ら。初めてか?」
とてもポップな口調。
少し切長の目。前髪はアシンメトリーで長い方だけが金髪だった。
「はい……」
「そうなん。ちょっと待ってや」
そう言ってその人は席を立ち上がり、奥の部屋に向かって声をかける。
「カトウくん、高校生来たわ。受付してあげてー」
「あーごめん。掃除してた。すぐ行くわ」
と声がして、そのスタッフさんがやってきた。
「ごめんね待たせて、えーっと予約してくれた……」
予約表を見ながらその名前を口にする。
「クソガキやんな?」
瞬間。
時間が止まった気がした。
初めて自分達のバンド名を呼ばれ、困惑し、歓喜し、そして実感する。
僕たちは確かに「クソガキ」なんだと。
それぞれに顔を見合わせ、まだまだ自分達もちっぽけだけど確かにここにいるんだと証明するように、
「「「「はい」」」」
と元気よく答えていた。
つづく
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