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連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第25話『高校生活』

ガタンゴトン

2両編成のワンマン電車が僕を運んでいく。

通学する時はいつもこの電車に乗る。
駅に着けばドアが開くのは1両目だけ。

1本乗り過ごすと次にやってくるのは1時間後だ。

最初は不満だった。

「不便すぎるだろ」とか「ダッセ」とかそんな事ばかり思ってた。

けど、いつの間にかこんな通学にも慣れている自分自身に驚く。

二つ折りのケータイを眺めて電車に揺られる。

窓からギラギラと光が差し込む。
いつの間にか少し汗をかいていたのを、頭上にある扇風機が気持ち程度に冷やしてくれた。

半袖の真っ白なカッターシャツ。

カバンはぺちゃんこで俗に言う置き勉ってやつ。
教科書は全て机の中で眠っている。

ガタンゴトン

約1時間。

ゆらゆらと電車に揺られてようやく学校の最寄り駅に到着。

1両目のドアが開き僕は勢いよく外に出る。

むわっとした空気に迎えられ、肌をジリジリと太陽が焼いた。

「アッツ!」

思わず大袈裟な言葉が漏れる。
僕は無人駅の改札を通り過ぎて行く。

季節はすっかり夏だった。

          ◆◆◆

授業中。

「この前のテスト返すぞー」

そう言われて、僕も教卓までテストを受け取りに行く。

「はぁ……」

と担任がため息をつく。

「何すか?」

「もりぐち。次からはもっと頑張れよ」

「うっす」

そう言ってテスト用紙を受け取る。

中間テストだの期末テストだのこんな紙切れ1枚で俺の何がわかるんだーって思っていたのだが、そこに書かれている数字を見て僕は愕然とする。

「12点…」

ん?これって何かの間違い?

僕は隣の席の何とかさん(名前を忘れた)に念の為確認する。

「このテストってさ、50点満点?」

「……いやいや、そんな訳ないやろ」

「せやんなー」

僕はそのまま机に突っ伏す。
まるで体と机が一体化したようだ。

「……もりぐちくん?」

「何やねん」

「最近いい事でもあった?」

そう言われて僕はゆっくりと体を起こしその子を見る。

「ん? 何で?」

「何か……」

「何か?」

「……楽しそう」

そう言ってその子はニコッと笑う。

「え…」

キーンコーンカーンコーン

授業終了のチャイムが響く。

「はい、じゃあここで終わります」

担任がそう言って室長が号令をかける。

「起立ー礼ーありがとうございました!」

挨拶が終わり、みんな昼食の準備をして教室内がザワザワとする。

僕も学食でも行こうかと立ち上がり、教室を出て廊下を歩く。

ふとさっき言われた言葉を思い出す。

「楽しそうか……」

          ◆◆◆

昼食は学食できつねうどんをぶち込んだ。

5限目6限目は寝たり、バンドの事を考えたりそんな感じ。

そして気がつけばまた放課後がやってくる。

僕は教室を後にして、意気揚々と部室に向かう。階段を軽快に下りていく。その足取りは軽い。

軽音楽部に入って。クソガキというバンドでライブハウスにも出演して。色々な事を経験した。ティーンズ奈良県大会という次の目標も出来た。

入学した時のようなずっと不満を抱えた僕はもういない。

クソガキという自分の居場所があったから。

僕はいつの間にか高校生活を。

——楽しんでいた。

ガタン

僕は部室の扉を開ける。

「お疲れさ——」

言葉が途中で止まった。

異様な空気。何だか様子がおかしい。

イトウ、タツタ、クオリ。

3人とも何やら深刻な表情をしている。

僕は恐る恐る尋ねる。

「どうしたん?」

「……」
「……」
「……」

しばらく沈黙が続き、ダイスケがやっと口を開いた。

「もりちゃん……クオリ、クソガキ辞めるって」

「え?」

僕は耳を疑う。

クオリは俯いたまま何も言わない。

部室の時計だけがカチカチと静かに鳴っていた。

つづく  

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