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理屈ではない何か

「つまらなそう・・・」

そんな偏見にまみれて始まったサラリーマン生活だったが

思ったよりも楽しかった

毎日目標が無くだらだらと単調な日々を送っていそう

そう思っていた自分の偏見の一つ一つが徐々に溶けていって

「うん・・・なんだかサラリーマンも楽しいぞ!」という想いが

徐々に自分の心の中を占めるようになった

世の中には様々な営業の仕事があるが

自分の会社は

「パリッとしたスーツを着こなして、PC片手に颯爽とプレゼンを行う」といった華やかなものではなく

「作業着を着て工場の中で油にまみれながら自社製品のメンテナンスとPRを行う」という泥臭いものだ

一週間のうちに数日は車で高速道路をかっ飛ばして顧客の工場へ赴き

丸一日工場で立ち仕事を行う

現場作業を終えた後

へとへとになった身体に鞭打って、ホテルの部屋に帰ってからは見積もり作成等の事務作業

まあこれだけ聞くと大変そうと思うかもしれない

実際イメージしていた営業の姿とはかけ離れたものではあったけれど

こうした地味な仕事ほど実は世の中をじんわりと支えていて

実際に自分の会社の製品が世の中の役に立っているなと実感することも多かった

また早めに仕事が終わった日には、夕食時に街に繰り出してその地方の美味しいモノを食べたりと

出張ならではの楽しみも沢山あった

だからね、サラリーマンって思ったより全然たのしいぞ!と

多分おそらくこのまま何とか生きていけるぞと

そう思っていた矢先に忘れられない出来事があった

多分サラリーマン二年目くらいだったと思う

いつものように出張を終えホテルでゆっくりとくつろいでいた

普段はテレビなんて見ないのだけれど、その日はなんとなくテレビをつけた

そしてたまたまつけたテレビ画面の向こう側から

僕の目に飛び込んで来たのは一人の料理人

日本料理 「龍吟」 山本シェフ

かっこよかった

ただただかっこよかった

料理を語るときのキラキラとした目

素材と純粋に向き合う姿

完成度をとことん高めていくあくなき向上心

その全てに釘付けになった

好きなことに情熱の炎をたぎらせて

とことん納得いくまで突き詰めていく

その道を一流まで極めていくと

それは一つの芸術となり

そして、作り手は哲学者となる

そんな思いを抱かされた

あれだけ打ちのめされて諦めた料理(ケーキ)の世界

もう二度といくもんか!と

そう思ったけれど

ああ、やっぱりかっこいいな!と

素直にそう思ってしまう自分がいた

理屈じゃなくて、もう無条件で自分は料理人が好きなんだなと

何かよくわからないけれど、もうDNA的な何かに刻まれているのかなと

そう思わざるをえなかった

この憧れにも似た気持ちの熱量に比べたら

日々のサラリーマン生活で抱く熱量は

申しわけないけれど遠く及ばない

それに気づいてしまう出来事だった

サラリーマン生活

何とか騙しだまし自分を飼いならしながら生きていけるかもしれない

でも本当にそれで満足なの?

そう自分の心の奥深くに尋ねた時に

いつかは騙せなくなる時がくるだろう

だからやっぱり矛盾の無い自分でいたいと

そう思うきっかけとなった出来事だった

矛盾の無い自分

嘘偽り無い自分

あの日からそれがずーっと胸の中にあって

今もまだそれを抱き続けている

いつか胸を張って自分は心から好きなことをやっているよと

そう言える日が来るまでは

絶対にあきらめないから

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