テニスコーチは労働者?

弁護士の田中宏和です。本日は、テニスコーチに関わる法律問題のうち、テニスコーチは労働者なのかという点を中心にお話いたします。

・なぜ労働者に該当するかどうかが重要なのか

テニスコーチが労働者に該当するとすれば、契約書に明記されていないとしても、スクール側はコーチに残業代や深夜労働に対する報酬を支払わなければならず、またコーチはそのような権利が法律上認められることになります。他方で、労働者に該当しないとすれば、労働法の規制は適用されず、スクールと労働者の関係は、契約書に書かれた事項に従って処理されます。

・労働者性

テニススクールには、メインコーチ、サブコーチ、学生コーチや長年そのスクールに所属しているベテランコーチ等様々な立場の方がいると思われます。このような様々な立場のコーチが、法律上の雇用契約に基づく労働者なのか又は業務委託契約に基づく受任者なのかという問題は、スクールを経営する立場からは労務管理の観点、コーチの立場からはスクールに対していかなる権利を主張できるかかという観点から、重要な問題となります。


労働者とは、労働基準法上、事業又は事務所に使用されるもので賃金を支払われるものとされています(労働基準法第9条)。労働基準法では、労働者は使用者に比べて比較的交渉力や情報量が劣位していると考えられているため、労働者が一方的に不利な契約内容を押しつけられないように、特別な規律が設けてられています。例えば、労働者には、雇用契約に記載されていなくても、残業代の支払い(1日8時間または週40時間を超えた場合)や、労働時間の制限(1週40時間以内)等の規制が適用されます。
他方で、業務委任契約における受任者は、労働基準法の適用はなく、契約自由の原則に基づき、業務委託契約に規定された内容に規律されることになります。

・労働者性の判断基準

コーチがスクールで働く際には、スクールとの間で、給料や勤務時間等細かい条件を定めた契約を締結すると思われます。その契約には「雇用契約」や「業務委託契約」といったタイトルが使用されますが、このタイトルは労働者性の判断においては、それほど重要ではありません。労働者と受任者は、いずれも自己の役務を提供して対価を得るという点で共通しているため区別が困難ですが、労働者に該当するかどうかは、契約の規定内容と、その運用の実態が、使用従属関係の下における役務提供かどうかで判断されます。分かりやすくいうと使用者(テニススクール)に従属的な立場におかれているか、具体的には、①業務遂行上の指揮監督の有無、②仕事の依頼、業務指示に対する諾否の事由の有無、③時間的場所的拘束性の有無、④専属性の程度、⑤代替性の有無、⑥業務用機材の負担関係、等を総合的に考慮して判断されます。

テニスコーチと一言で言っても、レッスン内容の決定にかなりの裁量が認められ使用者の指揮監督からある程度独立している者や、そのスクール以外で自らプライベートレッスン等を行っており専属性の程度が低い者等様々な立場の者がいるため、個別具体的な判断にならざるを得ないと思われます。
このように労働者性の判断が難しいなか、スクール及びコーチそれぞれの立場において最も重要な点は、契約を締結する際に、労働者として扱われるのか、勤務時間、待遇面、給料の算定方法等、細かな条件を事前に契約書に記載しておき、スクールとコーチ間での認識の齟齬を防ぎ、事後的な争いを避けられるようにしておくことであると思います。


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