複数のスクールで働く行為は禁止?

本日はテニスコーチに関わる法律問題のうち、複数のテニスクラブを掛け持ちしたり、退職後新たなテニススクールで働くことが禁止され、その違反に対して損害賠償請求をされるなど恐ろしいことにもなりうる、という点をお話したいと思います。

・競業避止義務

テニスコーチが他のスクールでも働くこと、自らプライベートレッスンを行うことや、独立してテニススクールを経営することは、よくあることと思います。しかし、スクールとコーチとの契約の内容やその態様によっては、これらの行為が制限されるおそれがあります。テニスコーチが同業種の営業を行うことを禁止することを競業禁止といい、テニスコーチは、契約期間中又は、契約終了後であっても一定の期間(2、3年)は、競業避止義務を負うことになる場合があるのです。

このような義務は、基本的には、スクールとコーチの契約内容によるため、テニスコーチとスクール側は、お互いに契約の内容を事前によく確認しておくことが非常に重要です。

また、スクールとコーチの契約が雇用契約の場合には、労働者であるコーチは(コーチが労働者にあたるかどうかという議論は前回の記事に記載しています)使用者(スクール)の利益を不当に侵害しないよう配慮する必要があり、在職中は雇用契約に付随するものとして、たとえ契約書に明記されていなくても、競業避止義務を負っていると考えられています。もっともこれらの場合でも、スクールの許可があれば、何らの問題がなく他のスクールで働くことが可能となり、コーチから申請をした上でスクールが許可をする、いわゆる許可制を採用している例も多いと思います。

・競業避止義務違反の効果

例えば、テニスコーチが従前の職場を退職した後、新たに自分のテニススクールを立ち上げた場合はどうなるでしょうか。従前のスクールとの間で競業避止義務が定められていた場合は、スクールの立上げは契約違反となってしまい、違反者であるコーチはスクール側から、損害賠償の請求をされる可能性があります。この場合に考えられるスクールの主張は、「立上げに伴い売り上げが減った」というものです。

また、テニスコーチが従前所属していたスクールのお客さん(生徒)を新しいスクールに連れて行くということもありえるかもしれません。基本的には、お客さんは自分の意思でスクールを選んでいるため、問題になることはないと思います。しかし、テニスコーチが意図的にたくさんの他の従業員も一緒に退職させたり、前のスクールでのノウハウを利用しているなどした場合には、契約違反になる可能性が生じます。

・競業避止義務違反の判断

契約で定められる競業避止義務は、コーチの職業選択の自由(憲法第22条第1項)に対する制約であるため、禁止される行為が明確に特定された、合理的な内容でなければ無効になると考えられています。そして、その判断基準は、①使用者側の守るべき利益がどの程度あるか(経営のノウハウや企業秘密があるかなど)、②期間や場所的範囲の制限が適切か(数十年や都道府県を超えた範囲は合理的でないと判断されやすい)、③代償措置の内容(給料のや退職金の額)、④契約締結時の説明・情報提供の有無等を考慮して判断されます。

一般的に、競業避止義務を負わせる契約は判断が曖昧となるため、無効となるかどうか裁判上問題になることが多いです。そのため、スクール側としては、競業避止義務を負わせる契約を締結する際には合理的な内容でないと判断されるような契約を締結しないよう留意が必要です。
他方で、コーチ側も、悪質な顧客の引抜き行為は、スクール側に損害を与えたものとして損害賠償義務を負う可能性があるため、プライベートレッスンなどの兼業行為を行うことや退職後にスクールの開業するときには、気をつける必要があります。

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