今さらながら,日本酒について学んでみた: WSET SAKE LV.3 という英国の講座で日本を学んだ体験 (2/2)

講座に通っていますと,自分が実に無知な日本人であったことを思い知らされます.10数人のクラスなのですが,30歳代が中心でしょうか,多少なりとも日本酒に関連した仕事の人たちのようです.男女は半々で,半数が外国の人といった感じです.みなさんとても真剣ですので,心がまえの悪いわたしは,かなり焦るところです.
先生はイングランド人で,英語は聞き取りやすいと感じました.日本の酒蔵で働かれたこともあるとのことで,「蔵人の作業の大半は,掃除と洗いものだ」といった話が印象に残ります.どう考えてもわたしには向いていないようです.

よく知らない専門用語が多々登場しますが,アルファベットで書かれていると一層分かりにくい気がします.一方,漢字なら分かるかと言いますと,これがまたあやしいものです.一体自分はどこの国の人なのかと思ったりします.
お米については,日本人としてそれなりに知っているつもりでしたが,そんなものは農家の出身でもない自分の勝手な思い込みでした.米とはそもそもどういうもので,どうやって育てるのか,日本酒造りにどんな影響をもたらすのか.そんなことはまったく知らずにいました.
お酒には何より水が重要だと思っていました.よく発酵する水を求めて,酒蔵が水を買うという話を聞いたことがありました.今では酵母が進化していて,あまり水を選ばないようになっているようです.
洋酒には見られない『麹』の存在は実に不思議です.日本酒では,同じ桶の中でデンプンの糖化と同時にその糖を発酵させるわけですが,ウイスキーではそれぞれを別の工程として順次に別個のタンクで行いますので,そんなやり方は考えもよりません.双方のバランスを微妙に調整しながら進めるのは超絶に難しいと思いますが,日本人はよくこんなことができるものだと感心します.最近は日本酒造りのメカニズムが研究され,機械や計測機器も進化して,かつてのような勘と経験に頼る部分は減っているようです.また,お米や技法の流通もあって,地方ごとの特色も無くなってきているようです.

こうして学んでみますと,ワインは原料に負う部分が大きく,ウイスキーはなんと言っても木樽熟成が特徴です.その中で,日本酒は造るプロセスのお酒であることがよくわかります.

テイスティングの実習では,客観性を重視した,誰にでも伝わりやすい技法を身に付けます.定められいるいくつもの評価項目に対して,5つぐらいの選択肢から,その日本酒に合致するものを選んでいくことになります.かなりデジタルな感じです.
ウイスキーの評価をしていて感じることですが,ほかの人と共感できない評価やコメントは,独りよがりでなんだか空しいものです.「なるほど,おっしゃる通り…」などと言ってもらえるとうれしいわけです.ワインの専門家は詩的な情景描写などで美しく表見されたりします.一般にはなかなか伝わらないように思いますが,どうでしょうか.少なくともわたしは,「森の奥の泉に乙女が…」などと例えられても,なかなかワインの味や香りには結びつかない感じです.
その点,WSETの技法はなかなかに優れたものだと思います.おかげで当初はどれも同じに感じていた様々な日本酒について,個性の違いに気付くようになってきました.

結局,試験は受けてみました.周りの人たちの真剣な様子を見て,遊び半分でいる自分が情けなくなってきたからでした.
しかし,なかなかにタフな内容でした.過去問集なんてものはありませんから,真っ向勝負といった感じです.
詳しくは書きませんが,テイスティングでは,意外なタイプの日本酒が出題されて慌てました.ライティングでは,かなり考えた上での答えを書かされました.丸覚えの知識では太刀打ちできません.例えば,「こういうタイプの日本酒を造りたい.各工程をどのように進めるべきか? それはなぜか?」といったことが問われたりします.「ある種の麹を使うと,その特性が次の工程でこう作用して,その後の温度調整によってあんな反応を起こしやすいので,酒質がそうなる傾向が…」といったことを,その場で急いで考えて,ひたすら書きなぐるわけです.
こんなのは何年ぶりでしょうか.思えば人生を通じていろんな試験を受けてきましたが,もうさすがにこれで引退しよう… と思ったりします. またまた言い訳ですが,やっぱり目がよく見えていません.読むのに時間がかかりますし,とんでもない読みまちがいをしたりして全くイヤになります.解答を書くにも,位置がズレたりしてイラつきます.終盤になって大きな勘違いに気付くなど, 後悔する部分が多々あり,なんだか消化不良感が残ります.
結果は分かりませんが,ま,まちがいなく勉強にはなりましたし,世界が広がった気がしますので,やってみてよかったと思います.同じクラスの人たちとは,その後も飲み会に混じらせていただくことができています.

先に書きましたが, こういうことを本格的に学ぶ場は,ごく限られた大学と醸造協会ぐらいでしょう.一般の人が手軽に,かつ相当に深く,しかも世界に通じるように学ぶ場は,私が調べた限り日本にはないようです.造るにせよ飲むにせよ,日本酒についても舞台は外国に移っていくのかもしれませんね.

(ひろかべ)


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