マガジンのカバー画像

メモ

238
個人的メモ書き.
運営しているクリエイター

2023年6月の記事一覧

◆実践に磨かれて心身になじんだその人独自の近位項体系として、語彙体系や言葉で形成された諸観念体系などもある。「言葉とは器官」でもあるから(丸山圭三郎)、身体の感覚受容器が対象を遠位項として捉えることと、言葉の分節体系で対象を遠位項として捉えることには同一原理が働いているといえる。

8

◆事例比較.意味をつかみたい遠位項たるターゲット事例に対し、自身になじんだ近位項であるベース事例を使うのは、「動き」を与えるためでもある。比較が思考の原型であるのは、比較するときには必然的に「動き」が生じ、これにより潜んでいた様相が汲み出されて意味が新に生成されるからである。

5

◆近位項体系は実践で磨かれ自身の心身になじんだもので構成されるが、静的な構造物ではなく生成系・原因系であるという特異な性質がある。難しい事柄を他者に説明しようとして、自分の近位項体系から自身にとっても新しい「たとえ話」を生成し、これによって分かりやすく他者に説明できたりする。

5

◆自分が知覚・認識・思考したことを、どのように他者に伝え、そして自分が知覚・認識・思考したものと同じものを他者が正しく受取ったと確信できるか。「知覚・認識・思考対象物を共に動かす」ことである。動かすことで、変化の中でも継続する不変項を通じた認知が生じる。これを他者と共有する。

5

◆対象をよく捉えるためには対象を動かしてみることである。気に入った服があったら、それを遠くから見ているだけではなく、触ったり伸ばしたり着てみたりする。遠位項を、自身の各種の近位項でもってさまざまに動かす。そうして対象をよりはっきりと捉えていく。言葉による思考にも同じ原理が働く。

4

◆近位項による遠位項の意味把握は一応、身体感覚と事物世界の層と、言語と言語外現実の層とがあるといえる(複雑に交差しているが)。後者の一例:実践に磨かれて自分の心身になじんだ言葉遣いという近位項体系で、いままで知らなかった名辞の概念や意味を把握する過程など。

6

◆近位項で遠位項の意味をつかむ精度をあげ範囲を広げるため、近位項体系の拡大と精緻化が必要となる。遠位項は徐々に取り込まれて近位項体系に不断に編入される。この過程は個人的なものであり、その人独自の近位項体系の編成方法、拡大方向や進度、精緻化の方法がみられる。

◆既知から未知をつかむには、近位項から遠位項を捉えて統合的理解に至る必要がある。近位項は実践に磨かれて心身になじんだものでなければならない。その人独自の語彙体系や事例群体系などの諸要素で構成された近位項体系であればこそ、遠位項を臨場感をもってその意味を全体との関係で統合できる。

5

◆取り巻く世界現実が人に迫り、人がこれを認識して意味を与え返す。客観事物と意味の混在という点ではこれを「複合現実」と呼び、現実認識の裁ち直し、意味の新編成を行う可能性という点ではこれを「仮現実」と呼ぶことができるだろう。

5

◆もっとも根底的な支配従属とは、意味を支配されることである。独裁者とは「意味の支配者」の別名といえる。仕組まれた意味体系を俯瞰して、自ら豊饒なる意味世界と切り結ぶことが、自由に生きる鍵である。であるから、意味を無限に汲み出しこれを新たに編成する技法を身に付けなければならない。

10

◆意味の豊饒化はカオスを導くか。もちろんそうである。見えにくい暗闇は何があるか分からない、であるからこそワクワクする。新しい分節により現実を断ち直す可能性が開かれるからだ。そして暗闇には照らす光が必要なように、カオスの情報量を縮減する、価値のベクトルを持つ高質な知が求められる。

8

◆事象を単に見ることと観察し推論することとは違う。観察や推論は、問いを持ちながら対象に向かうことではじめて起動するものである。問いは、培った経験や事例群・語彙体系などから湧き上がってくるそのひと独自のもの。そのため同じものを見ても、観察結果・推論結果は人により千差万別となる。

8