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伊邪那岐の遺書13

 それからのあなたは、わたしから逃げるように、ますます仕事に没頭しましたよね。
 毎日のように朝早く出かけては、真夜中に帰宅をするようになりました。休日にも出かけることが増え、いっしょに食事をすることも少なくなりました。
 わたしの方といえば、不登校が続き、進学を待たずに高校を辞めました。学校には病気の治療と説明していましたが、実際には病院にもろくに通わずに、ぬいぐるみの日子を抱いては、呆けたような毎日を送っていました。
 日子がごはんを食べないので、わたしの食も進まず、みるみる痩せていきました。深夜、あなたが寝入ったあとに、横に座ってその寝顔を見つめ続けていたので、昼間もたいていうとうとしていました。
 あなたが留守にしているあいだ、何度も死のうと思いました。
 机に向かい、紙と鉛筆を握り締め、あなたへの手紙を残そうとしました。しかし、はじめのうちは迷惑をかけたことを謝るつもりで書き始めていたのに、いつのまにか思い出の世界に入り込んで胸がいっぱいになり、死ぬのをためらいました。
 紙に書かれた文字も殴り書きとなっており、書いた自分ですら解読できるようなものではありませんでした。
 これはテレビで見たのですが、自動書記といって、人の体を霊が操って文字を書くことがあるんだそうです。
 わたしは、日子の霊がわたしの体にのりうつって、何かを伝えたかったのだと思いました。だから、何度もぬいぐるみに問いかけては、返らぬ答えを待ちました。
 そうやって、毎晩、散らかった部屋に帰宅していたあなたは、いったいどんな風に思っていたのでしょう。きっと、愚かな妹に愛想をつかしていたにちがいありません。

伊邪那岐の遺書14
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