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新市場を創る(1) -コンビニ淹れたてコーヒーから学ぶ-

 新しい市場を創るというと、何もないところから新しい需要を創り出すイメージがありますが、実際にはベースとなる市場は必ず存在します。既存の市場から派生して新しい市場を創出すると考える方が分かりやすいです。今回は、コンビニ淹れたてコーヒー市場から新市場創出の考え方について書きました。

 2013年1月にセブンイレブンが淹れたてコーヒーを販売開始し、販売開始年には4.5億杯だったセブンカフェは2018年には11億杯にまで販売量を拡大させたそうです(※1)。
 このコンビニ淹れたてコーヒーは、スターバックスやドトールといったコーヒーショップ市場から需要を奪ったとも考えられますが、コーヒーショップとは別の新しい市場を創ったと考えられています(※2)。
 実際、スターバックスジャパンの日本国内における店舗数は、セブンイレブンが淹れたてコーヒーの発売を開始した2013年当時が1000店程度だったのに対し、2020年9月現在は1,601店(※3)にまで拡大しています。コーヒーショップの市場がコンビニ淹れたてコーヒーによって駆逐されたとは言い難いでしょう。
 更にデータで見ると、グラフ1の通り、インスタントコーヒーとレギュラーコーヒーを合わせた日本国内の総コーヒー消費量(※4)が増加しています。特にコンビニ淹れたてコーヒーが登場した2013年以降は、日本の人口(※5)が減少しているにも関わらず、コーヒー消費量が増加しているのです。 
 コンビニ淹れたてコーヒーは、一部では既存のコーヒー市場を置き換えつつも、新しいコーヒー市場を創ったといえるのではないでしょうか。

210213グラフ1

 技術の市場価値とは、価格(コストメリット)と効能(顧客・ユーザーにとっての便益)の2軸で評価できます。この評価とは既存技術との比較によってできるものです。
 グラフ2は、少し古いですが、2019年現在のコンビニ淹れたてコーヒーとコーヒーショップのコーヒーとを価格と商品種類数で比較したものです。コンビニ淹れたてコーヒーの価格帯は明らかにコーヒーショップのものよりも安価な設定です。

210213グラフ2

 グラフ3では、縦軸を価格帯、横軸を効能(コーヒーの味わいとしての高級感)とし、コンビニ淹れたてコーヒーのポジションを缶コーヒーおよびコーヒーショップのコーヒーと比較する形で(あくまでも筆者の主観で)示しました。コンビニ淹れたてコーヒーは、缶コーヒーと同程度の価格帯でコーヒーショップのコーヒーよりは劣るものの本格的なコーヒーの味を出したと考えられます。

210213グラフ3

 この場合の既存技術は、缶コーヒーとコーヒーショップのコーヒーですが、この競合する既存技術とは市場での住み分けができたことで共存できたといえます。缶コーヒーは封を開けなければカバンに入れることもできます。つまり、コンビニ淹れたてコーヒーとは用途が異なると考えられます。
 このように既存技術に対して、価格と効能の両面からメリットを生み出し、加えて、コンビニエンスストアという利便性の高い店舗で販売形態を工夫(顧客が自分でコーヒーメーカーのボタンを押してコーヒーを抽出する形態等)して販売したことにより、「外出先で気軽に本格的なコーヒーを飲む」という新しい価値を生み出しました(※6)。これにより、これまでレギュラーコーヒーを外で購入しなかった人が新たな消費者となり、一方で既存技術との住み分けもできたことで産業全体のパイが大きくなる新市場を創出したと考えられます。

※1:東洋経済2020年4月21日記事「コンビニコーヒー飲む人が超激増した根本原因」(梅澤 聡 著)より
※2:例えば、東洋経済2020年4月21日記事「コンビニコーヒー飲む人が超激増した根本原因」(梅澤 聡 著)にて「今までの日常生活の中で、購入してこなかった高齢者や、女性の購入者も増加して、レギュラーコーヒーの客層が拡大し、自宅やオフィスでコンビニコーヒーが飲まれるようになった。レギュラーコーヒーの「買われ方」が変わったのだ。コンビニが目指す需要創造の近年の成功例である」と述べられている。
※3:スターバックスジャパン会社案内HPより
※4:全日本コーヒー協会「統計資料」の「日本のコーヒー需給表」の「⑦国内消費」より
※5:政府統計データ「人口推計」より(グラフは人口の増減が分かるようにレンジを1億2000万人~1億3000万人に設定した)
※6:この考え方は多方面で述べられているが、例えば駒澤大学経営学部市場戦略学科の学生による「日本のコーヒー市場」(2017年9月23日)という論文で述べられている。



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