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正しい姿勢

正しい姿勢でいる事で心身にどのような効果があるかといいますと、第一に身体が最も楽でリラックスできる形という事です。例えば座禅で寝てしまってはいけませんが、座禅の姿勢は寝る事が可能だそうです。特殊部隊の隊員は正しい姿勢を維持する事で立ったまま寝られるそうです。私は飛行機のエコノミークラスの席で姿勢正しく座る事で眠り易いと感じます。これで満員の便であっても隣の乗客に迷惑を掛ける事なく快適な旅行ができます。

人間の骨格は最も重たい頭部が一番高い不安定な位置にあってこれは驚異的です。それをわずか25㎝前後の足の裏で支えています。アフリカの女性達が重い水瓶を頭の上に載せて何キロも平気な顔で歩く姿はよく知られています。あれは背骨のS字カーブの上に正しく頭部が収まり、その延長線上のポイントに水瓶を置く為、全く重さを感じないのだそうです。京都の大原女が頭に柴を乗せて楽に歩くのも同じ理屈です。

エチオピアの女性と座禅の男性

最近スマホを操作しながら歩いている人を度々見かけますが、この時の頭部は画面を見る為にうつむき加減になっています。これにより知らず知らずのうちに身体にかなりの負担が掛かっています。

第二は集中力です。集中力には個人差がありますが、その多くの理由が実は姿勢の違いにあります。姿勢が悪いと無意識のうちに足を組み替えたり、体を揺すったりせざるを得ず、そこで集中力が途切れます。

第三に体に負担が掛からず、集中力が高いと学力にもスポーツにも影響が出ます。従って子供に一番先に教えなくてはならないのが姿勢であり、頭部の発達が終わる小学校低学年ごろまでが特に重要です。昔の武家では『姿勢が悪い』とよく叱られていたという事ですが、大変理に適っていたのです。

美しい人

禅には調身・調息・調心という言葉があります。禅の修行の根本である座禅の3要素と言われるもので、順に姿勢を整える、呼吸を整える、心を整えるということです。この3つが揃うと心安らかな境地に至る事ができるのですが、それほど『姿勢』と『呼吸』と『心』は深く関わり合っています。

つまり姿勢(=所作によって成り立つ)が整うと呼吸が整ってくる。呼吸が整うと心が整ってくる。これらはそんな関係にあります。文字通り三位一体としてお互いに結びついています。逆に言えば所作が整わなければ呼吸は整わないし、呼吸が整わなければ心も整う事はありません。この座禅の3要素はそのまま美しい人になる為の必要条件です。

クライエントや上司を前にしたプレゼンでも、上がっている様子が全くなく、落ち着いて主張すべき事を堂々と主張出来る人がいます。なぜその人は困難な状況の中でそのような姿を維持できるのでしょう。それはどんな状況にあっても呼吸がきちんと整っているからです。また会話の中で声を荒らげる事もないし、トラブルに際しても常に冷静に対処している人もいます。

その人の心がいたずらに揺れ動く事が無く、穏やかに整っている証拠です。美しい人を注意深く観察すると、所作・呼吸・心がまさしく三位一体になっている事が分かります。座禅が調身・調息・調心が相まって完成するように、美しさも所作と呼吸と心が一体となって整う事で作られています。

座禅

息を吐く時にフーッと自分の中のものを十分に吐き出してしまう。それは自分を捨てる事、つまり『自力』を無くす事に繋がります。水泳では自分の力で泳いでやるぞと力めば力むほど体は浮きません。水に自分の体をゆだね、外の世界に放り出す事によってしか泳ぐことはできません。呼気はそれにあたります。

西洋式の深呼吸ですと息をスーッと吸ってからフーッと吐きます。でも座禅の時はまず息を吐きます。最初に自分を捨てるわけです。十分息を吐いて自分を捨てきってしまうと次は自然に外のものがスーッと入ってくるという感覚になります。つまり『他力』を体の中に入れるというイメージです。

これは英語でいうインスピレーションです。インスピレーションとは突然のひらめき、すなわち霊感です。生きて行く為には食べる事も眠る事も必要ですが、一番大事なのは息をする事です。生きる事の本体みたいなものです。いわば『生きる』事は『息をする』事です。その息は呼気と吸気の繰り返しです。

自分を投げ出して他力を受け入れる。つまり自分が天地自然または阿弥陀仏と一体になる事です。小さな我を吐き出して、仏の命、大宇宙を貫く天地自然の法則を受け入れる事です。この様に正しい姿勢を保つ事は健康で正しい心を持って、正しく生きる事の基礎です。

大原女


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