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筆が止まるとき ~情報出し~生原稿の例

 はしたないけど自己アピールしていいですか? 【この解説の仕方は新しいです!】 ……と思う。……たぶん。(流行の三点リーダー)

 おお、と感じたら、ご支援お願いします。そうしたらもっと続けられます。

この原稿の状況説明

 掛け値無しで、いま、書いている商業原稿です。

 お題のあるアンソロジー向け短篇で、30枚。普通、短篇というと50枚ですから、いつもより短いですね。
 そのぶん、情報の出し方がキツキツにならないように気を付けないと。

とりあえず、冒頭

 図を見ていただいて(なんなら右クリックの「新しいタブで画像を開く」かなんかで参照しつつ)、解説をお読みください。

 左側に表示行(単純な行番号。段落で数えるのは論理行)があります。

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 やっとiPadminiとアップルペンシル(旧型)の出番がきた! というのは置いといて。

 前回の「入れ込まなければならない情報の種類」を思い出してください。

 このピンクの文字の画像は、計画的に情報を出した箇所を示しています。

 1-2行目で、ここは公園である。なぜだかフェンスが透明ボードになっている、とドンと出してますね。最初にシーンを判ってもらうのは常套手段であり、今回のように枚数に余裕のない短篇だとストレートでいいと思います。

 3-4 透明フェンスの理由を一部書いてますが、読者はまだ「それにしてもどうして?」と思ったまま。情報をチラ見せして引っ張っている状態。

 7行目の〈覆われた人〉という大きな情報を出すために、

 透明フェンスが息苦しく感じる ……準備①

 息苦しく感じている自分が、ふとおかしくなる ……準備②

 なぜならば自分はカバードだから ……標的の情報

 カバードとはという解説 ……情報の詳細説明

 ここまでを一気につなげます。

 いきなり「ところで、僕は〈覆われた人〉で、それはカバードと呼ばれ、どういうものかというと」とは、やりません。
 こんなふうに情報を羅列していければどんなに楽でしょう! でもやらない。準備導入をして、標的を出し、それは何かをする~っと読ませないといけない。

 そりゃあ、筆も止まるわな、と自分でも溜息が出ます。

 標的の語を睨みつつ、三歩ぐらい前から準備をして、それは前の文章から自然に流れていなければ……。真面目か!真面目か、私っっ!(やけくそ)

 11行目では、「気が付かれないように」で、他の人もいると示唆し、公園、砂場、幼児たち、とさらに周りが読者に見えるように視野を広げています。

同じところで、計画外に書いた情報

 次の青文字の図は、書いているうちに自然に「こう書いた方がいい」と、脊髄反射したところです。

 この感覚は説明が難しいですね。筆が滑るという感じ。もちろん無駄なことだったらストップしたりあとから削ったりします。

 あ、伏線になる
 あ、これで膨らむ
 あ、いい比喩だ

 と感じたら盛り込みます。

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 3-4 さっき「チラ見せ」に使った行ですが、透明ボードの説明を安全性に着目してやっています。実はこの安全性というのが物語の大きな鍵ですので、テーマの補完にもなっているのです。

 けれど反対に、マーカーの二箇所では閉塞感を出しています。
 安全だ、わーい!
 とはなっていない。
 これもテーマの補完であり、安全だけれど管理されすぎの気味があるというメタファー(暗示)として、まだ詳しくは語る場所ではないけれど、とりあえず伏線じみた感じで書きこみました。

 9行目にも思わせぶりな単語が出てきますね。仕事。仕事って? と読者が食いつくところです。この後に仕事の詳細を書くと、ああそういうことだったのか、と、読者は納得します。

 納得するまでは「どういうこと?」と、知りたくて多少そわそわします。そのそわそわを、読み進める推進力として使っているのです。

 このタイプの伏線を張るのは、一度謎で興味を引いておく、注目させることができる、という作用があります。

 11行目は単純に、

 上を仰いだ(なぜならば苦笑に気が付かれないように)

 上には何があるのか

 が、読者は気になる。
 次のページへ進ませる原動力、直後のシーンへ導入している部分です。

ここまでの工夫

 まだ何も事件は起きていません。
 けれど冒頭で説明しなければならないことがたくさんありました。繰り返しになりますが、短篇なので場所はどこか、どんな状況か、をストレートに知らせておくということです。

 事件がないと退屈です。いまだ会話もありません。
 でも情報は伝えたい。

 その退屈さを、なぜ透明フェンスなのか、や、〈カバード〉という珍奇な言葉、それって何という説明、で、補っています。

 なんとかして読者の興味をつなぎとめる。

 たった11表示行(原稿用紙換算で1枚弱)ですが、ここまででダメだともう後を読んでもらえませんから必死です。とほほ。

さらなる情報

 図の見方も判っていただいたと思いますので、どんどん行きましょう。

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 四角く囲ってあるのが、計画的に出したかった情報です。

 シーンの補足、公園は団地の中のものだ、とか、その場にいる人物が登場したりとか。

視点人物のつもりで情景描写をする

 私の描写の仕方は、自分(視点人物)がそこにいるつもりで、です。なんのひねりもない。
 ただ、注意するのは、自分の気持ちが揺らいだら情景描写も揺らいでしまう、ということです。

 13行目から14行目へ向けた矢印を見てください。
 これは、「平和さ」を「他愛のない会話」で強調し具体化した形になっていますよね。
 これはけっこう大きな伏線でもあります。揺らいじゃダメ。平和さを感じている視点人物は、平和だなと思いつつ周囲を見ていなければなりません。
 ですから、「他愛のない」が「甲高い」とか「早口の」では、平和であることの補強にならず、視点人物の感覚に貢献してくれないのです。

 17-18 あからさまな説明で赤面しますね。仕方がない。
 一応、平和→他愛のない会話→その会話をしているのは、と、前を承けて流れるようにはしています。

 同じ箇所で「父親に見えるに違いなかった」という、強い一文を入れました。

 読者は「あれ?」と思う。本当の父親じゃないってこと?

 ふふふ、計画通り(古い)。

 ここのところで、主人公と別にもうひとり男親を出そうかどうしようかぎりぎりまで悩んでました。短篇だし煩雑になるかもしれない。
 けどその時の勢いは「出す」。

 男性ならではの科学的情報を、そのもう一人の男親のセリフとして提示できる可能性が高いし、井戸端会議に加わりきれない中途半端な傍観者の感じを、彼を描写することで主人公にも当てはめてみてもらえる。
 これが、主人公一人が男性だったら「井戸端会議に加わるには腰が引ける」とかなんとか、心情描写になってしまって、そこだけ説明臭いというか、なんとなく浮きます。

大事なタームは荒技でも可

 23行目に、やっと、やっとやっと、キモとなる〈カクテル〉という単語を出せました!
 いやあ、ここまで長かった。まだ一枚しか書いてないけど。
 説明に見えない説明、心情に見えない情景描写的心情、世界観の伏線、などなど、ばーっと広げて一段落したところで、バンと出します、今回は。

 唐突ですよね、このセリフ。

 いいんです。
 大事な単語なので、唐突すぎて、えっ、と気にとめてもらうためです。

 いきなり!
 なんじゃそりゃ!

 そういう釣り針。

 24行目 リーダー格と書いてしまえるのは、井戸端会議をしていた、と前もって書いたから。会話を先導していた人物、突然話題を持ち出してもおかしくない人物、ということを納得してもらえます。
 これがいきなり「リーダーに見える母親」として登場すると、なんのリーダーだ、と感じてしまって、ちょっと不親切ですね。井戸端会議自体が状況説明の伏線になってくれました。

 同じ行、若い母親の服が少女趣味です。ありきたりですが、これである程度、若い母親の性格や嗜好が表せます。少なくともイガイガやスタッズが付いた黒レザーを着たヤンママではない。

 最終行。カクテル、という単語に主人公も反応します。もちろん読者も興味津々です。

 さあ、次のページを! と思わせてあげましょう。

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 ここではあまり筆は滑ってません。
 砂場で遊んでいる子供をもうちょっと詳しくしました。そろそろ、しゃがみ込んで砂をいじっている小さな子供たちが頭に思い描けるころではないでしょうか。

 あとは、先ほどのもう一人の男親。いずれ情報出しの担い手になるという以上に、このタイミングで出しておくと、「主人公は父親ではない」という大きめの伏線へとスムーズに描写が進みました。

 父親(もう一人男親がいる)

 自分も父親に見えるに違いない ……重要な伏線

 この流れです。

はったりと小細工

 さて、いよいよSFらしくなりますよー。

 順番は前後しますが、先に言うと、ここのところは36行目からのカクテルの説明が目的です。

 現実世界では、三種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風。不活化ポリオまで加えて四種とするものもある)ワクチンですら、副作用がナンタラで二種混合になったり打たない選択をする人がいたりする昨今。35種ってどうよ? 43種ってなによ? てなもんです。

 でも、当然のような顔で堂々と書く。専門用語なんか使っちゃって、いかにもそれらしく嘘をつく。それがSFです(胸を張る)。

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 長くなってきましたし、図の見方にも慣れていただいたことと思いますので、ひとつひとつの説明は省かせていただきます。

 特記するとすれば、セリフは人格の説明にもなりますから「よかったわねえ」の、「え」と伸ばすねっとりした語尾や、「いいわね」あてこすったの言い回しに、嫌味を漂わせることもできますよ、と。

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 28行目 ばたばた手を振りながら喋る若い母親。「いやいや、そんなそんな」という表現です。年上のリーダーから話しかけられて、ちょっと面倒臭かったのかもしれません。だから「いやいやいやいや、大丈夫ですから」という感じが出てればいいな。

 30行目で嫌味を言うのは、もう一人乳児を抱っこした母親です。なんか苦労性な感じが出ててもいい(出てなくてもいい)。
 必要はないですが、ついでなので性格付けもしちゃった、てな軽い脊髄反射でした。

 ワクチンのことは、書く直前に確認しています。SFは、

大きな嘘をついたら細かいことは現実からの敷衍 / 細かく嘘をつくなら大きなところ(世界観や舞台設定)は本当らしく

 だと、個人的には縛めを持っています。なにもかも嘘だと全体が破綻しますからね。
 なので、ワクチンという現実のものを土台にして、ホントでいいところはホントのまま書きました。
 mRNA式のワクチンは、コロナワクチンの製造手法として一気に広まったので、耳なじみもいいことと思います。先々、時代遅れの古い手法になったらどうしようと思いつつ、時事的な言葉を入れたんですが、どうなりますことやら。

現状

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 ……ねえ。どうしましょうかねえ。

 直前に大事な言葉を会話という目立つ手法で出したので、地の文で築き上げてきた順番が、その場の勢いに押されてしまいました。

 カクテル出せた!
 情報は披露した。
 ……さあ、ここからどう展開しよう。

 ストーリーの進め方が判らないわけではありません。
 母親たちの会話から、主人公の男性と読者がさらにいろいろな社会情勢を知っていくわけですが。

 どこから説明しようか。
 切り口はどうしようか。
 効果的な手法は?

 結局、情報の出し方の悩みなわけで、もうほんと、この文章のタイトル通り、進捗無し、です。はい。

 と愚痴を言っても誰も代わりに書いてくれないので、これから足掻きます。

 うーん、うーん。

 とりあえず、ラッキーという言葉を使ったので、ラッキーなミリの母親とアンラッキーだった乳児を抱いた母親の対比をしつつ、なぜ副作用を心配しながらも三十五種ワクチンを打たなければならないかを読者に知らせましょうか。
 うん、そうだな。その流れだと、ワクチンを打たない派(だと思われている、異端の)〈カバード〉――主人公とは違い、あからさまに全身を覆っていると判る一般人――が通りかかって、井戸端会議の人たちがカバードを非難する、というシノプシス的展開にすすめられるかもな。

 長文の悩みにお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

みなさまのお心次第で、この活動を続けられます。積極的なサポートをよろしくお願いします。