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「好き」を表現できますか?

人間誰しも好きなモノはある。でも、その感情はなかなかうまく伝えられませんよね。いや特定の相手に告白という意味ではなくて、「好き」のプレゼンテーションができますか? ということです。

女子大で出している課題「好きを語る」

 京都の某女子大で、サブカルチャー論を教えています。サブカルの中でも、アニメやパソコンまわりを中心としたいわゆるアキバ系です。
 その中で出している課題が「好きなモノについて書く」。半期の講義のうち、前半に1度、期末には前半と題材を変えてもいいから熱意をバージョンアップしたものをもう一回、出してもらっています。

目的は、自分が好きなモノと真っ向正対することによって、自分の魂の井戸を覗き込むこと。なぜ好きなのか、どこが、どうして、どんな影響が、と自己分析する手掛かりにしてもらいたいと考えました。

 書道でも高校時代のクラブ活動でも、タレントでもアニメでもなんでもいいから、とにかく好きなモノを表明してもらいます。
 なにせ自分が愛してやまないものについて書くんですから、この課題は学生にとって非常に楽しい。中には「いくらでも書ける」と言う人もいます。

 ただ、注意点は設けていて――。

 すみません。受肉(バーチャル的なモデルで喋っている状態)してます。ついこの間まで使っていたアバターです。なんせサブカル授業なもので。

 説明PDFではこんなことも伝えています。

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それでも羅列型が多い

 けれども、どうしても「好き」を伝えようとすると自分の好きなを一生懸命語ってしまいます。

 アイドルの身長の高さ、ユニットの仲の良さ、YouTuberの面白さ、アニメの絵の綺麗さ、泣けるストーリー。

 いやいや。それでは伝わらない。共通言語、共通認識に頼ってある程度は判ってもらえるだろうけど、「○○さんってかっこいいよねー」「今期のアニメの中では最高だ」程度の漠然とした良さにちょっと具体例を加えただけになっています。

大事なのは〈共感〉

 まず、今回の受け取り手である私が何を求めているかを想像してみましょう。
 具体例は要らない、自分の身に引き寄せて、ですから、カタログ的な長所ではなく、その学生ならではのエピソードですよね。

 あなたはそこまで好きなんだ。判るわー。
 好きになってそうなったんだ。判るわー。

 と思わせてほしい。つまりは、共感させてほしいんです。

 その対象はすごいね、と私もソレを好きになるように。
 ソレが好きなことであなたは幸せになったんだね、こっちまで嬉しいよ。

 という具合に。

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 カタログ的羅列や、すごい、好き、めっちゃ、などの漠然とした言葉ではないものを、ではどうやって伝えましょうか?

具体例を挙げてみる

 よくあるのが、次のようなパターンです。

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  少しは具体的になりましたね。
 かわいいといったら無条件にかわいい。パンダなんかそうです。
 憧れのアイドルに実際に会えたら泣いちゃった。うん、これも共感できる。
 つらい時、あの曲が元気をくれた。そういうことありますね。

 じゃあ、もう一歩頑張ってみましょうか。

因果関係をかえりみる

 さてここで、「魂の井戸を覗き込む」作業が必要になってきます。

 ……自分はなぜソレが好きなんだろう。

 好きになるまでの経緯というか、因果関係というか。そういうものです。
 アイドルの一瞬の決めポーズに〈落ちた〉瞬間を思い出しましょう。
 パンダが好きなら、それはぬいぐるみでもいいですか?
 感情が盛り上がっていく前に、鬱屈していた気持ちはなかったですか。

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 アレがこうだから、こうなった。あの時こんな気持ちだったから、ぐっと刺さった。
 好きになるまでの説明です。

 これは、要するに、小説作法における〈起伏〉というヤツに注目してみましょう、ということです。

山の前には谷を設ける

 小説の講座で、私は「シンデレラ曲線」というのを教えています。故・柴野拓美さんから教わったもので、シンデレラの幸不幸を曲線に表し、物語の構造を知る方法。

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 危機があってから逆転すると、カタルシスを得ることができる。カタルシスはつまり納得と共感の力である、みたいなことをエラソーに喋っているわけです。

 これはナニカを表現するときには利用したほうがいい手段ですね。このレポートにも当てはめてみましょう。

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 学校がつまらなかった。友達とうまくいかなかった。なんだかしらないけど落ち込んでいた。やる気がでなかった。などなど、ソレに出会うまでの〈谷〉があるなら書くんです。
 そうすると、出会ったとき、好きになったとき、ぱーっと気持ちが高まる落差を、受け取り手にも共感してもらえます。

 なんとなく好きになった。知らないうちに気になっていた。正直、そういう好きになり方もあると思います。
 だったら、サンプルをたくさん集めて、どうも私はこの傾向が好きらしい、という切り口で納得してもらうのはどうでしょうか。

 また、好きになったあとを語ることでも受け取り手に響くレポートができます。

そしてどうなったのか

 好きなモノに出会って、自分はどう変わったのか。

 変わらなかった? そんなことないはずです。自分が気持ちいいからずっと好きでいるはずですから、井戸の縁から身を乗り出して覗き込み、じっくり底まで見てくださいね。

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 これもただ単に「元気になった」「生活に張りが出た」ではイマイチです。
 バイトに対する取り組みがこう変わった。人からこんなことを言われるようになった。負の気持ちが沸いたあの夜にも、自分はこうやってコントロールできるようになっていた。

 そうなんだ! すごい。愛の力って、人を変えるね。

 こんなふうに思ってもらえるエピソードや分析でレポートを締められれば文句なしです。

 あなたが好きなソレってほんとにすごい力があるんだね、と共感と納得が得られます。読んだ人もソレそれが好きになるかもしれず、沼(オタク用語。沼のようにずぶずぶはまりこんでしまう様子)への勧誘はバッチリです。

 ソレを好きになってほんとうによかったね。そうそう、もらい泣きしちゃうくらいの共感だって、抱いてもらえるかも知れません。

まとめ

・漠然と感覚を伝えない
・具体的に
・山谷に留意して
共感と納得が最終目的

 これらに気を付ければ、きっとあなたの「好き!」は伝わると思いますよ。

 頑張ってみてください。

みなさまのお心次第で、この活動を続けられます。積極的なサポートをよろしくお願いします。