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【個人YouTuber向け】ステマの法律上の問題点と対策【企業案件】

はじめに

YouTubeで人気が出てくると、企業から「うちの商品を紹介してくれませんか?」という依頼が来ることがあります。いわゆる企業案件ですね。

企業案件はまとまった収入になるのでありがたい反面、対応によってはステルスマーケティング(ステマ)だとして炎上してしまうリスクも抱えています。

そこで、今回、ステマの問題点や、ステマで炎上しないための対策について整理したいと思います。

ステルスマーケティングとは

ステルスマーケティング(ステマ)について法律上の定義はありませんが、たとえば日弁連は「消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為」と定義しています(日弁連の「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」参照)。いち消費者による評価・感想にみせかける宣伝手法のことですね。

ステマには大きく分けて2つの種類があります。

  1. なりすまし型・・・たとえば、飲食店事業者が、客になりすましてその飲食店の口コミを投稿すること

  2. 利益提供秘匿型・・・たとえば、タレントが、企業から対価を得ていることを隠してYouTubeやSNS・ブログなどでその企業の商品を紹介すること

YouTuberの企業案件との関係では「利益提供秘匿型」が問題になりますので、これ以降は「利益提供秘匿型」を前提にお話します。

法律との関係

景品表示法との関係で問題になる

実は、日本ではステマを直接規制する法律はありません。
ただ、ステマの内容によっては、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)という法律に違反することになります。

景品表示法とは、かんたんに言うと、
不当な「景品」(たとえば、商品のオマケに高価なレアアイテムをつけていて消費者を煽っていないか?)と、
不当な「表示」(たとえば、誇大広告を行って消費者を惑わせていないか?)
というように、「景品」「表示」それぞれを規制する消費者保護のための法律です。誤解しがちですが、「景品表示」を規制する法律ではありません。

ステマとの関係では、不当な「表示」として規制されている「優良誤認表示」(景品表示法5条1号)または「有利誤認表示」(同2号)に該当するのではないかが問題になります。

優良誤認表示

優良誤認表示とは、商品やサービスの内容について、実際よりも著しく優良だと表示したり、事実に反して他社の類似商品より著しく優良だと表示して、消費者を不当に誘引することです。

たとえば、実際のカタログスペックよりも優良なスペックかのように紹介したり、比較実験の結果を偽って他社製品より性能がよいかのように紹介するような場合は、優良誤認表示に該当する可能性があります。

商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を提供している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

優良誤認表示(景品表示法5条1号)

有利誤認表示

有利誤認表示とは、商品やサービスの取引条件(価格など)について、実際よりも、または他社の類似商品よりも、著しく有利だと誤認される表示をして、消費者を不当に誘引することです。

たとえば、本当は値上げの予定もないのに「いまだけ50%オフで買えます!」のような紹介をすると、有利誤認表示に該当する可能性があります。

商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

有利誤認表示(景品表示法5条2号)

ステマのすべてが景品表示法違反というわけではない

このように、明確に景品表示法に違反するケースは意外と限られています。

単に商品の取り扱い方を説明するような動画はもちろん、他社商品との比較レビュー動画であっても、客観的に長所・短所を伝えたうえで自分の印象を語るのであれば、通常、景品表示法に違反するとはいえません。

ただ、企業案件であるということを隠して商品紹介をすると、視聴者は「このYouTuberがこの商品をあえて紹介するということは、きっといい商品なんだろうな」と感じてしまうものです。
ですので、ステマは、優良誤認表示との関係では問題が生じやすいので注意が必要です。

法規制の動き

欧米では一般的にステマは違法とされ、高額の罰金が課せられています。先日、日本でもステマに法規制を及ぼすことが検討されているという報道もあり、今後の動向が注目されます。

炎上リスク

このように法律的には必ずしも違法とはいえないとしても、ステマは、消費者から「お金をもらって紹介していたとは知らなかった」という反感を買いやすく、炎上リスクも大きいといえます。

代表的な事例は、刑事事件に発展した2012年の「ペニーオークション詐欺事件」です。ステマを行ったとされる芸能人自身は刑事事件としては立件されていませんが、「ペニーオークションを利用して商品を安く落札できた」とブログで紹介した芸能人などが厳しく批判されました。

また、飲食店の口コミサイトである「食べログ」で飲食店事業者が金銭を渡してレビュアーに好意的な口コミを書いてもらっていたことが発覚したり、近年では、ディズニーがインフルエンサーに映画「アナと雪の女王2」の感想をTwitterに投稿することを依頼していたことが発覚する等、ステマは度々炎上しています。

ステマで炎上しないための対策

企業案件であることを明示する

やはり、企業案件であることを明示することが基本になります。たとえば動画概要欄に「○○社とのタイアップ企画」のように表示し、動画中でもそのように伝えるとより明確です。

また、YouTubeの標準機能で企業案件であることを表示することもできます。
具体的には、YouTube Studioで、動画のアップロードの際に「有料プロモーションが含まれている」を選択することで、視聴者が動画を再生すると自動で「プロモーションを含みます」と表示されるようになります。

SLEEP FREAKSのYouTube動画より引用

この機能を使うと、動画で紹介した商品と競合する商品がYouTube広告で表示されることも防ぐことができるとされています。

自ら体験した事実を発信する

炎上事案の多くは、客観的事実に反することや、自ら体験していないことを情報発信して、それが企業案件であることが発覚した場合に問題化しています。

ですので、クライアントが用意した台本にとらわれず、実際にその商品を使った感想を自分の言葉で伝えることが大切です。

他のYouTuberとは別のアプローチを

クライアントが、他のYouTuberにも同じ商品の紹介を依頼していることがあります。
クライアントが企業案件に慣れていないと、他のYouTuberにも同じような台本を用意してしまい、結果的に他のYouTuberと紹介内容が似通って、視聴者に不審感を与えてしまうことがあります。

ですので、クライアントに他のYouTuberにも同じ企業案件を依頼していないかどうかを確認し、他のYouTuberとは別のアプローチで紹介するように工夫しましょう。

WOMJガイドライン

先ほどお話した「ペニーオークション詐欺事件」をきっかけに、口コミマーケティングの業界団体であるWOMマーケティング協議会(WOMJ)が、適切な情報発信のために「WOMJガイドライン」を制定しています。

ウェブメディアなどでよく見る「#提供」や「#PR」というタグ表示は、このガイドラインを参考にしていると考えられます。

このガイドラインでは、企業案件であることの表示だけでなく、その企業名を明示することも必要とされており、やや厳しい基準ではありますが、YouTube動画での表示だけではなく、Twitterやinstagramでの投稿にも共通する内容なので、参考になります。


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