任天堂の著作物利用ガイドラインのポイント、更新内容、更新により明確になったこと

2018年11月に任天堂が発表した「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」は、YouTubeなどでのゲーム実況を正面から認めるもので、当時、とても話題になりました。

2020年6月1日、このガイドラインに更新があったので、ガイドラインをおさらいしつつ、更新内容、更新により明確になったことについて考えていきましょう。


1.ガイドラインのおさらい

ガイドラインのポイントは、何より、

①個人による、営利を目的としない場合であれば、任天堂のゲームの動画・静止画を利用した動画共有サービス等への投稿・配信が可能

とされている点です。

ただし、任天堂が指定するプログラムであれば、収益化も可能とされており、2020年6月現在、収益化可能なプログラムとして、YouTubeニコニコ動画OPENREC.tvなど8種類が指定されています。

Facebookの「Facebook Game Streamer」および「Facebook Level Up Program」
ニコニコ動画/生放送の「クリエイター奨励プログラム」および「ニコニコチャンネル」
OPENREC.tvの「OPENREC Creators Program」
Twitchの「Twitchアフィリエイトプログラム」および「Twitchパートナープログラム」
Twitterの「Amplify Publisher Program」
YouTubeの「YouTubeパートナープログラム」
TwitCasting の「ツイキャス・マネタイズ」内の「アイテム収益」「動画収益」(2019/4/1追加)
Mirrativの「ギフト」(2019/4/1追加)

以上のように、showroomや17Liveは対象外です。showroomや17Liveは、配信者は視聴者から受け取ったギフトやコインに応じて報酬を受け取るので、完全な「非営利」での配信とはいいがたく、事実上、これらのサービスでのゲーム実況は認められないと考えられます(この点についての任天堂の考え方は明らかにされていません)。

また、

②お客様ご自身の創作性やコメントが含まれた動画や静止画が投稿されることを期待しております

とされているのもポイントです。ここでいう「創作性」とは著作物の創作というものまでは求められておらず、単に自分でゲームをプレイしていることで足りるとされています。

要するに、任天堂のプロモーション動画や他人の投稿を転載したもの、ゲームのサウンドトラックだけを抜き出したもの(YouTubeによくアップされている作業BGMのようなもの)などはガイドラインの対象外ということです。

2.ガイドラインの更新内容(変更点)

今回の更新は、簡単にいうと「個人」と「法人等」の区別について補足したものです。

以前のガイドラインの「Q9」では、

このガイドラインは、個人であるお客様による任天堂のゲーム著作物の投稿を対象としています。法人等の団体による投稿は、このガイドラインの対象ではありません。

とされていました。しかし、ここでいう「個人」と「法人等」の区別は必ずしも明確ではなく、僕自身もよく相談を受けていました。

たとえば、YouTubeアカウントは個人名で、YouTuberのプロダクションに所属していて、その業務としてゲーム実況をする場合は「個人」に含まれるのか?それとも「法人等」になるのか?というのは不明でした。

他方、大手YouTuberのプロダクションであるUUUM株式会社は、2017年(ガイドラインが発表される以前)、既に任天堂と包括契約を締結しており、所属するYouTuberは、契約上、任天堂のゲームのゲーム実況をすることが許諾されていました。

そのため、他のプロダクションに所属するクリエイターも、
「UUUMのYouTuberが任天堂のゲームを実況していて、動画削除されていない。ということは、事務所の業務でも、アカウント名さえ個人であれば「個人」としてのゲーム実況として、任天堂のガイドラインで認められているのではないか?」
のように都合よく解釈し、任天堂のゲームを実況している状況でした。

このような状況があったためか、今回(2020年6月1日)、ガイドラインに以下のように追記(一部修正)されました。今回のガイドラインの更新での変更点は、この部分のみです。

法人等の団体による投稿や、投稿者が所属する団体の業務として行う投稿は、このガイドラインの対象ではありません。ただし、別途契約が締結された以下の法人に所属する投稿者は、所属する団体の業務として行う投稿であっても、個人であるお客様と同様に、このガイドラインに従って、任天堂のゲーム著作物を利用した投稿を行うことができます。(2020/6/1 追記)
UUUM株式会社(吉本興業所属を含む)
株式会社ソニー・ミュージックマーケティング
株式会社東京産業新聞社(ガジェット通信)
いちから株式会社

このように、「投稿者が所属する団体の業務として行う投稿は、このガイドラインの対象ではありませんと明記され、例外として、包括契約をしている会社が列挙されました。

UUUM株式会社は2017年から任天堂と包括契約をしていますが、今回、UUUMが業務提携する吉本興業の所属タレントも包括契約の対象であることが明記され、同日、同社自身もプレスリリースで発表しました。
また、「にじさんじ」を運営し急成長している「いちから株式会社」も包括契約をしたことが明記され、注目を集めました(同日、同社自身も、プレスリリースで発表しました)。

3.今回の更新により明確になったこと

今回のガイドラインの更新により、アカウント名が個人か法人かを問わず法人等の業務としてゲーム実況することはガイドラインの対象外であることが明確になりました。
明記されていませんが、ガイドラインの趣旨からして、法人等の団体でなくても、営利目的をもった個人から依頼を受け、業務としてゲーム実況する場合もガイドラインの対象外だと考えられます。

YouTubeで人気のクリエイターは、必ずしも従来型のプロダクションとタレントの専属契約のような契約だけではなく、様々な契約形態でマネジメント会社やプロモーション会社などと関わっています。

MCN(マルチチャンネルネットワーク)に加入していたり、非専属でマネジメント会社と関わって企業案件の紹介を受けているクリエイターもいます。また、プロダクションやマネジメント会社と一切関わらず、クライアントから直接に企業案件を受けているクリエイターもいるようです。
さらにいえば、プロモーションや契約・請求書などの処理だけをマネジメント会社に委託したり、動画の編集だけを外部委託しているクリエイターもいます。

それぞれの場合について、今回のガイドラインに沿って整理すると、

①専属・非専属問わず、プロダクションやマネジメント会社に所属して、その業務としてゲーム実況する場合
→  「法人等」による利用であり、ガイドラインの対象外

②プロダクションやマネジメント会社に所属しているが、個人での活動も認められており、業務と関係なく個人でゲーム実況する場合
→  「個人」による利用であり、ガイドラインの対象

③クライアント(法人・営利目的の個人)の業務として、ゲーム実況する場合
→  「法人等」による利用であり、ガイドラインの対象外

④プロダクションやクライアントの業務ではなく、個人でYouTubeパートナープログラムの収益を目的に、ゲーム実況する場合
→  「個人」による利用であり、ガイドラインの対象

ということになると思います。
②や④の場合は、プロモーションや契約・請求書などの処理をマネジメント会社に委託したり、動画の編集を外部委託している場合であっても、これらの会社の業務としてゲーム実況を行うわけではない以上、ガイドラインの対象になると考えられます。

もちろん、今後もグレーなケースは発生すると思いますが「そのゲーム実況が法人等(または営利目的をもった個人)の業務といえるかどうか」という基準はとても有効だと思います。




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