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【第63話】 陽気なゲイバー🇵🇭

マニラの夜は気をつけないといけない。女性に声をかけられたら要警戒だ。しかも、それが美人であればなおさら。この日は夜の仕事を撮ろうとブルゴス通りをうろつき回っていた。ドラッグの売り子に声をかけられ、ここぞとばかりに取材を提案したが、かなり粘ったものの断られてしまった。いくつかショーパブも回ったが女の子が乗り気にならない。

どうしようかと横断歩道の前で車の流れを眺めながら呆けていた。「ねぇ、一人?」後ろから声をかけられた。相手はかなりの美人である。「イエス」一人ニヤついていると「飲みに行かない?」知ってるバーがあるから行こうと言う。こんなことがあるものだろうか。起死回生。今夜の取材はあきらめよう。

階段を登り店に入った。暗い店内には多分20名ほどの女性が踊っていた。異様だ。なぜ女性だけがこんなに。。目を凝らして見る。「ん?」何かがおかしいと思った。この娘たち、本当に女なのか?だが、時すでに遅しであった。

屋根裏の楽屋に入れてくれた
カメラを楽しんでいらっしゃる
仕草は女性そのものだ
いえ女性の上を行っています
客が来なくて焦った
「これでいい?」と澄まし顔
「この後飲むでしょう?」
常連の到着でホッとした

カウンターの奥から見るからに女装とわかる男が出て来た。声でもはっきりと男のそれだとわかる。衣装に乳首が浮き出ているのを見て冷や汗が出た。もしかして。。隣をちらっと見る。彼女は女性そのものだ。そういえば、と思った。フィリピンのレディーボーイの話を聞いたことがあった。中には相当な美人がいるらしいと。そうか、ここはゲイバーだったのだ。そうか、彼女はその一人で、この店の客引きだったのだ。

ここで飲むと大変なことになる。俺は酒に弱い。いっそ、取材に切り替えてしまうことでこの場を回避できはしないだろうか。咄嗟の判断だった。「実は日本から教育番組の撮影に来ておりまして」焦りを隠し、説明を始めた。

「いいわよ、あたしがやるわ」マネージャーは髪をかき上げて言った。「こういうの大好き」良かった、助かったと思った。マズいところに来たという緊張と、初めてのゲイバーで取材ができるという興奮がないまぜになり、不思議な感覚のままインタビューの収録に入ることとなった。

振り返ると、美人の彼は大勢の踊り子たちの中に消えていった。収録後に随分と絡まれたのだが。彼らはみな陽気に見えた。

クラブのマネージャーよ

お客をもてなすの
夜8時から朝4時まで
女の子たちのケアと教育もするわ

大切にしてるのはお客を満足させること
あとは接客の指導かしら

楽しんでもらうのが 好きなのよ
明るいから向いてるかなって
楽しくおしゃべりするの得意だし何よりもこの仕事が大好き

満たされるわ とてもね
日本のクラブでも働いたわ
だから色々と心得てるの

クラブは私の居場所よ
オススメできるわ
誰かをもてなすって楽しいでしょ
みんなで踊って騒いでって

night club manager in Manila autumn 2018
www.monologue365.jp

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