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「再生工場」としてのフランクフルト

長谷部誠&鎌田大地


「長谷部!鎌田!ドイツで“異彩”を放つフランクフルトの「和式」フットボールを紐解く』(フットボールWEBマガジン『Qoly』より)

「バイエルンを食ったフランクフルト」とは、約1カ月前のドイツ・ブンデスリーガ第22節、バイエルン・ミュンヘンを破ったアイントラハト・フランクフルトのこと。

 そのサッカーには「日本サッカーの長所が活かされている」という観点の記事を執筆し、上記『Qoly』様に掲載していただきました。

 ちなみに、バイエルン戦の勝利で9戦無敗となったフランクフルトはその後、累積警告による出場停止や負傷による欠場で薄い選手層であるのが表面化してしまっているのですが、今も5位ボルシア・ドルトムントとは勝点4差の4位をキープ。

 先日も今季大躍進で注目を浴びる7位・ウニオン・ベルリンを5-2で破る痛快なゲームを披露してくれましたが、ここでは今季のフランクフルトを支える個々の選手についてフォーカスし、ラスト8試合で来季のUEFAチャンピオンズリーグ出場権獲得圏内(4位以内)を目指すチームの紹介をさせてください。

主将DFアブラーム「後任DFを探してくれ」

フランクフルト2020-2021基本布陣

今季のフランクフルトの基本布陣

頼れる主将の退団と若手DFの台頭

 試行錯誤が続きながらも攻撃サッカーの看板を掲げるフランクフルト。屋台骨を支えるのは、最前線からのプレッシングと中盤でのボール奪取を狙うために高いDFラインを敷き、ボール保持時にはビルドアップでも大きく関与できる戦術眼に長けた3バックの存在だ。

 ただ、左のマルティン・ヒンターエッガー(28歳)、中央の長谷部誠(37歳)、右のダビド・アブラーム(34歳)と高齢化が顕著だった。長谷部に関しては今季のブンデスリーガを“最年長選手”として迎えたほどだ。(その後、冬の移籍市場でシャルケに加入したFWクラース・ヤン・フンテラールが最年長に。)

 そんな中、頼れる主将アブラームがコロナ渦の影響もあり、母国アルゼンチンへの帰国を希望。ただ、熱血漢の闘将は、「自分の後任DFを探して欲しい」とクラブに要望した。クラブが自身の後継者を探す間はチームに留まり、最終的に今年1月17日のシャルケ戦まで帯同することになった。

 退団と共に現役引退を発表したアブラームの熱い気持ちに2人の若手DFが応えた。ともに21歳で、左利きのフランス人DFエヴァン・エンディカとブラジル人のルーカス・トゥタだ。

 左利きのセンターバックとして希少価値の高いエンディカはミスが多い時期も我慢して起用されていた印象が強いが、今では対人守備の強さやスピード兼備の現代的なDFとして欧州各国クラブから熱視線を集める注目選手として成長を続けている。

 アブラームの退団後に右CBを務めるトゥタは危なっかしいながらも、元MFらしく持ち前の攻撃センスを発揮。日進月歩の成長を見せ、主力として定着している。

ユネス抜擢で辿り着いた今季の最適解<3-4-2-1>

フランクフルト2020-2021基本布陣

 そして、第12節のボルシア・メーヘングラッドバッハ戦(3-3のドロー)からMFアミン・ユネスが先発に抜擢された。彼は対戦相手・ボルシアMGの下部組織出身。下部年代のドイツ代表では主力を担い、フル代表歴もある27歳のアタッカーだ。

 ユネスの抜擢までは2トップを多く採用していたフランクフルトだが、コロナ禍の影響もあってチーム運営のために主力のオランダ代表FWバス・ドストの放出を余儀なくされた。

 オランダとポルトガルで得点王も獲得した実力者だが、彼にベルギーのクラブ・ブルッヘからのオファーが舞い込んで以降、チームは基本布陣を<3-4-1-2>から<3-4-2-1>へ変更。2列目が単独トップ下から2シャドーに変更となったことで枠が増え、ユネスが抜擢され、日本代表MF鎌田大地も恩恵を受けた。

 鎌田もユネスも単独での局面打開力を武器としているわけではない。しかも2人とも得点数は伸びないタイプだ。しかし、お互いに周囲の味方とのコンビネーションを使っての短いドリブルやワンツーを駆使することに長ける。2人はウイングでもトップ下でもなく、シャドーこそが自身のポテンシャルを最大限発揮できる場所だった。

 鎌田はよりプレイメイカー役に、ユネスはチャンメイカー役にタスクを分け合うことで抜群の連携を披露する“目配せデュオ”となった。冒頭のバイエルン戦では共にゴールを挙げ、鎌田に関してはドイツ大手紙「キッカー」算出のランキングでは第22節時点でリーグ最多タイの11アシスト目も記録する大ブレイクだ。(PK獲得やオウンゴール誘発もアシストとしてカウント)

 また、最前線のポルトガル代表FWアンドレ・シウヴァは2トップから1トップになったことで、自分が使えるスペースが拡がり、2シャドーがライン間でタメを作ってチャンメイクを担当してくれることで、負担増どころか彼のゴール量産体制が整う相乗効果となった。

再生工場としてのフランクフルト

再生工場

「早熟の天才」「献身的なラパイッチ」「選ばれし後継者」

そんな「早熟の天才」ユネスは、オランダのアヤックスやイタリアのナポリに海外移籍したことでトップフォームを崩していたが、フランクフルトでの再ブレイクによってドイツ代表に復帰した。

 思い返せば、チームの10番を背負う左サイドの突貫ドリブラー=セルビア代表MFフィリップ・コスティッチもそうだ。デビュー当時から天才肌のアタッカーとして驚異的な突破力を披露しながらも、守備力や献身性に欠けて評価が難しい選手だった。中田英寿氏のペルージャ時代を知っているコアなサッカーファンの方々は、クロアチア代表FWミラン・ラパイッチのような選手と想像していただければ察しがつくだろう。

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 しかし、コスティッチは「守備ができない」と批判を受けながらも、近年のフランクフルトが採用する3バックシステムで最も運動量の多いウイングバックを担当。毎試合のように左サイドを攻守両面で精力的にアップダウンし続けるチームプレーヤーに変貌した。現在6試合連続アシスト中で、リーグ9アシストと数字に残る結果も残し、「キャリアで最もコンディションが良い」と本人も意気揚々だ。

 また、同胞の英雄クリスティアーノ・ロナウド(現ユヴェントス)から直々に自身の「後継者」と呼ばれるFWアンドレ・シウヴァも、ACミランやセヴィージャでは鳴かず飛ばずの状態が続いていた。しかし、昨季からフランクフルトに加入すると、初年度はリーグ12ゴール、今季は第26節終了現在ですでに21ゴールを挙げ、別格の世界最優秀選手=ロベルト・レヴァンドフスキ(25試合出場35ゴール)がいなければ得点王も濃厚な大ブレイクを果たした。

 ドイツ代表に選出されるまでに至ったものの、強豪ドルトムントではサブ扱いだったDFエリック・ドゥルムも、逆サイドのコスティッチを守備面で補完。右ウイングバックとして全盛期を過ごしている。

 ヴォルフスブルクではボランチ起用されずに移籍願望を出し、セカンドチーム行きを経験し、ニュルンベルク時代は2部降格も経験した長谷部もフランクfルトで「蘇った選手」と言えるかもしれない。

 そして、今、フランクフルトは「母国で蘇った天才」や「献身的なラパイッチ」、「選ばれし後継者」など、″再生工場”としても名を馳せている。


 そんなフランクフルトが躍進している理由に「Jリーグっぽい日本サッカーの長所を活かしたプレーが頻繁に観られる」という部分に着目したのが、掲載いただいた下記の記事です。

 是非ご一読ください☆

『長谷部!鎌田!ドイツで“異彩”を放つフランクフルトの「和式」フットボールを紐解く』(フットボールWEBマガジン『Qoly』)

『日本化?バイエルンを食ったフランクフルトの近代クロニクル』(筆者の前の記事)

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