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アフリカ史上最高4位のモロッコ、堅守だけで語れないレトロモダンな魅力

アルゼンチン代表の優勝で幕を閉じたFIFAワールドカップ2022カタール大会。

今大会は日本、韓国、豪州とアジア勢から史上最多3カ国が決勝トーナメントへ進出するなど、序盤から番狂わせが目立った。最大のサプライズとなったのが、アフリカ勢初のベスト4進出となったFIFAランク22位のモロッコ代表だ。大会終了後にはそのFIFAランクも11位まで大幅に順位を上げた。

準々決勝までのモロッコは5試合で4完封1失点。失点はオウンゴールのみの堅守ぶり。ボール支配率も平均35.8%で1度も相手を上回れなかった。

しかし、数字は時に嘘をつく。実は放ったシュートが44本で、被シュート数が45本と互角。枠内シュートに限っては相手を10本に抑えながら、自分達は15本も記録している。

今回は堅守だけでは語れない魅力を放ったモロッコ代表を深堀りしたい。

140億円コンビ、リーガ最優秀GK

モロッコは準決勝で前回王者フランス代表(4位)、3位決定戦でも前回準優勝のクロアチア代表(12位)に惜敗したものの、今大会でベルギー代表(2位)、スペイン代表(7位)、ポルトガル代表(8位)を打ち破り、アフリカ史上最高4位へ大躍進。その快進撃は、「番狂わせ」、「ジャイアントキリング」と称賛された。

ただし、モロッコには圧倒的な個の能力をもつタレントはいる。

[4-1-4-1]システムの右サイドバックとしてプレーするアクラム・ハキミ(PSG)と、右サイドハーフのハキム・ジエシュ(チェルシー)は昨夏に記録した移籍金が前者は7000万ユーロ(約92億円)、後者は4400万ユーロ(約50億円)。モロッコの右サイドには“140億円コンビ”がいる。

守護神のGKヤシン・ブヌはスペインの名門セヴィージャに所属。昨季のスペインリーグにおいて出場した試合で喫した失点の割合がリーグ最少だったGKに贈られる「サモラ賞」を受賞したリーガ最優秀GKだ。

同じくセヴィージャに所属し、準々決勝ポルトガル戦で値千金の決勝点を挙げた「空飛ぶモロッコ人」FWユセフ・エン・ネシリは2020-2021にリーガで18ゴールを挙げた本格派ストライカー。

MFソフィアン・アムラバト(フィオレンティーナ)は、ポジショニングセンスに長けたクレバーなプレーで攻守を的確につなぐ希少価値の高いアンカーだ。

ハリルの遺産=MFウナヒら「デュエル名人」たち


モロッコは1970年のメキシコ大会で初出場を果たしたものの、今大会でW杯出場は6回目。1986年のメキシコ大会で決勝トーナメントに進出しているが、過去5大会で通算2勝5分9敗。アフリカ王者を決めるアフリカネイションズカップでの優勝も1976年大会の1度きりだ。

したがって、今大会のベスト4は8月に就任したワリド・レグラギ監督による手腕の賜物だが、ヴァヒド・ハリルホジッチ前監督の遺産もある。

W杯予選を突破しながら本大会直前の解任は自身3度目。主力のジエシュらと確執を作ったマン・マネジメントには低評があった。ただ、現在のモロッコには日本代表監督時代にも執拗に説いた「デュエル」の名人が揃っている。

日本で1対1の競り合いを意味する「デュエル」と言えば、ドイツのブンデスリーガで2年連続「デュエル王」となったMF遠藤航(シュツットガルト)のイメージが強い。球際に強く、ボール奪取力に優れる選手がデュエルに強いと思われがちだが、1対1の局面で相手を抜いて突破することもデュエルでの勝利につながる。ジエシュやハキミは1対1の局面をドリブルで打開できる類まれなアタッカーだ。

今年1月に前監督の下で代表デビューしたMFアゼディン・ウナヒ(アンジェ)はまさにハリルの遺産だ。インサイドMFで定位置を掴んだ22歳の若者は相手のプレスを受けても全く怯まない。ドリブルでスルスルと中盤の密集地帯を抜けていくのだ。彼のプレースタイルそのものが、現在のチームの戦い方にも表現されている。

モロッコが体現する「レトロモダン」な魅力


モロッコの守備は後ろに人数を割いているが、自陣ゴール前に引き切る古典的なものではない。最終ラインから最前線までの陣形をコンパクトに圧縮し、中盤でのボール奪取を狙って積極的に前に出て奪う守備だ。ひとたびボールを奪えば自らボールを前に持ち運ぶ。冷静沈着な守備的MFアムラバトでさえ、迫力を伴ったドリブルで自ら持ち運ぶのだ。

確かにプレスを外すのに効率的なのはパスだ。「人よりボールの方が速く走る」のも確かだが、もはやプレスの強度と連動が桁違いの現代サッカーではトラップミスやパスミスが生じるパスよりも、ドリブルで密集地帯を抜ける方が効果的だ。ボール支配率が上昇しないのはパスを選択する割合が低いからでもある。

攻撃でも守備でも前へ前へと向かうモロッコのサッカーは、「ボールを持ったら一歩でもゴールに近付ける」というサッカー本来の醍醐味を思い出させてくれる。

最先端の高度な戦術を打ち破るのが古風なドリブルなのは皮肉だが、今やファッションや建築など様々な分野で「レトロモダン」がトレンドとなって久しい。このレトロモダンな魅力こそ、モロッコがアフリカ史上最高の4位を勝ち取った要因だ。

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