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「U・T」

いつも、建築が竣工するときに一文を書くようにしている。これは土曜日にお披露目を行う個人住宅について書いたものです。

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時間の流れかたは、その環境によって変化していく。
何かに熱中している時間は短く感じるし、無為に過ぎゆく時間を待つのは長く感じるもの。
行為と環境が結びつく場が建築なのだとすれば、設計でコントロールできる時の流れもあるのではないだろうか。
この住宅を設計しながら強く意識していたのは、それぞれの場を過ごすときの時間感覚に、どう寄り添うことができるか、ということだった。
都内にしては比較的ゆとりのある敷地環境で、まずは大きめの中庭的空間をつくることが求められた。それによって、余り近隣を意識しないで過ごせるように。
それから、すべてが大きなワンルームなのではなく、それぞれの場所が、ある程度独立していること。
そのため、特に1階廻りはそれぞれに必要十分なスペースを取りながら、室内動線にあえて距離(奥行)を取った。その上で、比較的ゆったりとしたスペースを確保した外部(中庭・テラス)を通じて視覚的な一体感を持てるように配慮している。それぞれの居場所はその用途に応じて寸法の微調整を行っていくことで、コージーなスケールを持たせ、それが繋がり・抜けていくための要素を外部空間と動線に委ねている。
いただいた要望のなかで、印象的だったのは2階に水廻りを設け、洗濯が終わるまでのんびりと過ごせるスペースが欲しいということだった。その時間を有意義に過ごすためのスペースをつくることは、この住宅のなかで大切な軸になるだろうと思った。1階が住空間のなかでは比較的パブリックな用途だとすれば、2階のラウンジ的なスペースは、読書をし、子供と遊び、時には昼寝をし…という行為を受けとめる場であって欲しい。そして、それに面した個室やテラスは曖昧な延長領域となるように。場合によっては連続する浴室空間までが子供の遊び場となってもいい。これによって、それ以外の個室が必要十分な大きさであっても、生活の行為を受けとめる器としての「余白」がうまれると考えた。
人の生活を受けとめる居場所をつくる要素は、けっして面積の広さだけではない。光の分布や素材感、モノとモノが交わるときのディテール、包み込むスペースの空間ボリューム…
ここには、その一つ一つを工事中まで含めて、あらためて検証しながら歩んでいった軌跡が刻まれている。

(廣部剛司)

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