「羆嵐」吉村昭

「羆嵐」、はるか昔に読んでいるのですが、最近の熊のニュースの多さから読み返してみました。

大正4年(1915年)12月、北海道天塩山の開拓村における一頭のヒグマによる日本獣害史上最大の惨事のドキュメンタリーです。熊に対する村人たちと老練なクマ猟師の銀四郎。特に猟師の銀四郎は、熊に対すると冷静沈着ですが、性格もかなり悪く、酔うとさらに悪くなるという印象的な人物です。

最初に読んだ時から記憶に残っている、人間が食べられる時の、骨が砕ける音のリアルさは一回読んだだけでも長い間忘れられませんでした。また、女性の肉だけを執念深く狙うところは心底、恐ろしいです。
そういえば、「鬼滅の刃」の最初の炭治郎の一家の惨劇シーンを見たときは、この「羆嵐」の惨劇のあとを思い出したものです。

いまさらながら、作者の吉村昭のうまさが分かる作品です。「桜田門外ノ変」、「戦艦武蔵」、「関東大震災」のような大作もいいですが、このような歴史に埋もれそうな事件の方が作者の力量が分かる気がします。この作品での音や匂いのリアルな感覚には影響を受けていて、拙著「臨終師フォン」 でも表現したかったのですが、まるで力量が足りませんでした。




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