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My Love〜高校生編・第5話「甘い時、弾む心…」

それから暫く沈黙が続いた。


僕にしてみれば別に悪い事をしたつもりはないのだが、裕華にとってみればいきなり手を触られたことは寺田さんの言っていたことからすると、きっと人生初のカルチャーショックに違いなかったのだろう。

ここに来て初めて立場が逆転したような気がした。


裕華はいじらしく人さし指を気にしていた。取るに取れない指のトゲ、困っている裕華の様子を僕はこっそり伺っていた。そんな様子に気づいたのか、裕華と僕の目がばっちり合ってしまった。

目をそらすことなく2秒ほど見つめあっていただろうか?裕華がにっこりと笑い出した。



「荒木君、休み時間に指のとげ、とってくれる?」


「うん、いいよ」


僕は満面の笑みで応えた。よかったぁ。怒ってはいないようだ。しかもとげをとって欲しいってことは…。手を触ってもいいって事だよね!
早く授業が終わるのを待ち望んでいた。

10分間の休み時間、裕華のとげ抜きが始まった。僕は結構な近眼、近づけるほど良く見える。人さし指のとげが見えた。

しかし、なんて白い手なんだろう、細くて長い指、そして…女の子の手ってこんなにも柔らかいんだぁ…と改めて感じた。


裕華の持っていた携帯型の裁縫セットの中のピンセットで何とかとげを取り除いた。


「ありがとう、荒木君、本当にありがとう。」



裕華は僕にそう言ってくれた。その言葉にはこれまでの裕華にはない憂いを感じた。その後の授業中、そして今、休み時間でも僕達はたくさんたくさんしゃべりつづけるのだった。



「荒木君の手って…とても温かい…、」


「え?そ、そう?手の温かい人って心が冷たいっていうじゃない?」



「そんなことないと思うけど、荒木君って優しいと私は思うよ。」



「そう?僕って優しい?」



「うん、だって私の言うことに、いやって言ったの聞いたことないもの。」



「それは……それは、柏木さんだからだよ……。」



「え~?何、それ、え~っ!!」 



あ~調子に乗り過ぎた、あまりに事が思うように運んだので言いすぎた…。また裕華が顔を赤くして下を向いてしまった。


こんなことを言える僕ではなかった。でも裕華へのまっすぐな想いが僕の内向的な性格をすっかり変えてしまっていた。でもまだここまで言うのは早すぎたかな?

どうしよう、どうしよう…でも躊躇している場合ではない。自信を持て、裕華は僕のことは嫌いじゃないはず、気持ちを伝えるなら今しかない!




「俺、柏木さんと一緒にいて、おしゃべりしたりするのがとっても楽しいんだ…。」




あ、あれ、ど、どうした?次の言葉が出てこない。す、す、好きって言えない!!





また、沈黙が続いた。


その時、次の授業が始まってしまった。
あータイミング悪すぎるー!もう少しだったのに…しかし僕はどんな手段でもいい、とにかく気持ちを伝えたい、そう思い、とった手段は「手紙」という手段だった。渡す勇気さえあれば何でも書ける。


ノートを破って半分に切って、思いの丈を殴り書いた。




「僕は柏木裕華さんが好きです!」



何も飾らずに、ストレートど真ん中の豪速球をその手紙にしたためた。それを四つ折りにして左側の席の裕華へ机から滑らせた。


その手紙に気づいた裕華はゆっくりと開こうとしている。


もんた&ブラザーズの「ダンシング・オールナイト」が頭の中でイントロから始まったようだ。

「♪甘いとき、弾む心・・・。」というよりもドキドキが飛び出しそうだった。



手紙を見た裕華は僕のほうを見たが、僕は目を合わせることが出来なかった。裕華はどんな表情で僕を見たのだろうか?それさえも怖くて彼女のいる左側を向く事が出来なかった。
裕華はしばし僕の手紙を見つめ、その後、返事を書き出した。どう思い、何を書いているのか?

約16年の人生の中で「待つ」という緊張を味わったのは高校の合格発表以来のこと、大袈裟かもしれないが自分の運命が決まる一瞬にさえ思えた。



そして裕華が書いた手紙を持った裕華の右手が僕の目の前に伸びた……。


                                 〜第6話に続く〜

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