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SAIKAI@MIYUKI・第2話「空白の一年」

メッセージを開ける前に…今の彼女の情報は
ないのか、もう一度彼女のプロフィールを確認した。


立花 美幸

北海道 釧路市出身

愛知県 名古屋市 在住



プロフィールの表示はそれだけだった。顔だけで判断してしまって実は違う人間だったら…という冷静さがあったのは幸いだった。
そしてやっとの思いで重く感じたメッセージのマークをタップした。





荒木ヒロユキさん

いや、ヒロちゃん。私のこと覚えていますか?
南陽高校のとき一緒のクラスだった山崎美幸です。
facebookやっていて高校の時のゆりと繋がったら、ヒロちゃんとも繋がっていると聞いて…

それであの頃が懐かしくなって…いろいろと話したくなって思い切ってお友達申請しちゃいました。

もしご迷惑じゃなかったら…繋がってくれますか?





俺は何度も何度も繰り返しその文章を読み返した。この歳になると妙に慎重になってしまうのと、この文章から彼女がどんな気持ちでこれを
打ったのか?ということをよく考えていた。

ゆりとはずっと地元にいるのはわかっていたし
向こうから繋がって来たので何となく繋がっているだけの仲だった。
そのゆりが俺と繋がっているという事を美幸に教えたのはやはり、二人の別れたその後が気になったからだろうか?


俺と美幸は高校1年の時付き合い始め、翌年高校2年の10月、美幸の父親の転勤のため転校した。暫くは手紙や電話でやり取りをしていたが
高校3年なった頃、お互いの進路のことなどもあって、いつの間にか連絡をすることがなくなった。やがて自分の進路が決まって久しぶりに連絡した時には手紙を出してもその住所に彼女はおらず手紙は戻されて来た。勿論電話も繋がらなかった。

今のように携帯電話のある時代ではない。俺たちは遠距離恋愛を自然消滅させてしまっていた。

嫌いになったわけでもなく、いや逆に彼女への気持ちはずっと変わらないままだったのに…そんな負い目もあるし、彼女がどんな気持ちでいたのか?そして連絡が途絶えたのはどういう理由があったのか?それを自分の中で整理するまでは本当の恋は出来なかった。

そんな思いに30年以上縛られていた自分がいた。まさに「生きた化石」のような男だ。しかし今、その思いを払拭できるチャンスが巡って来た。

もちろんこんな歳になっているから彼女には愛する旦那さんと子供がいて幸せな家庭を築いているに違いない。ただ、あの空白の1年とその後の彼女の事が知りたいだけ!そして……。

その連絡のなかった1年が彼女を傷つけてしまっていたのならば、素直に自分の気持ちを伝えて謝罪したいだけだった。

彼女の申請を断る理由は何もなく、取り敢えずはfacebookの友達申請を承諾した。メッセンジャーにはどういう切り出しで文章にしよう? じっくりと考えて文章を作りたいところではあったが、さりげなくまずは挨拶しよう、まずは当り障りのない挨拶から始めることにした。




立花美幸さん

いや俺の中では山崎美幸ちゃん
しばらくでした。(●´ー`●)
こうやって繋がるなんて考えてもいなかったよ!いろいろお話したいから喜んでお友達に
申請させてもらったよ、今の美幸ちゃんのことも知りたいし。ということでこちらこそ
宜しくお願い致します。(*- -)(*_ _)



当り障りのない文章と顔文字でまずは最初のメッセージを送った。何が返ってくるのか胸が高鳴った。まるで恋人同士のメールのやりとりのように、こんな気持ちは久しぶりだった。

少しの時間、俺は飲みかけだったコンビニの
冷めてしまったホットコーヒーを一気に飲み干した。そしてタバコに火を点け、深く吸い込んだ。窓の外の青空が 今の俺の気持ちのように
晴れ晴れと輝いていた。

スマホのメッセンジャーと思われる着信音が鳴った。美幸からのものだった。
俺は間髪入れずにそのメッセージを開けた…。


           〜第3話に続く〜

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