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葬儀業のPEST分析《Economy》

あまり知られていないお葬式の業界について経営学の視点からお伝えしています。

Economy(経済面)

  バブル景気が終焉し、日本の経済成長が鈍化していくとともに、世帯所得は低下していった。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、世帯当たりの平均年間所得は、1995年に659.6万円だったのに対して、2007年では556.2万円、2015年には545.8万円と減少している。

(出所) 厚生労働省「国民生活基礎調査」より筆者作成

 また、同調査の2015年の世帯の生活意識をみると、「苦しい」(「大変苦しい」と「やや苦しい」)が 60.3%、「普通」が 35.9%となっており、年次推移をみると、「苦しい」の割合はおおむね上昇傾向となっている。生活者の家計は、全体として余裕が無くなっていると言える。

 一方で、老齢・終末期には医療・介護に係る費用は増大している。社会保障制度における利用者負担では、比較的高所得者に限定されるものの、介護保険・医療保険に基づく利用者の自己負担限度額は、段階的に上昇している。また、70歳以上の高齢者に対する医療保険についても、平成30(2018)年8月に施行される予定の介護保険法改定案では、上限額は変わらないものの、高所得者の自己負担割合が3割に引き上げられる内容が盛り込まれている。
 更に、平均寿命と健康寿命のギャップは男性で約9年、女性が約12年と長期化している。健康寿命とは、2000年にWHO(世界保健機構)が提唱した考えで、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」であり、平均寿命と健康寿命のギャップは、「日常生活に何らかの制限が発生する健康上の問題を抱える期間」であると言え、医療・介護費が発生する期間と言い換えられる。
つまり、介護保険・医療保険の自己負担額が向上し、かつそれらが発生する期間が伸びていると言え、老齢期において大きな経済的負担となっている。

(出所)厚生労働科学特別研究事業「健康寿命の国内と海外の現状把握と分析評価に関する研究」より筆者作成

このような経済的な事情に加え、価値観の変化という社会構造的事由によって、冠婚葬祭にかける費用が下落した。戦後の学校教育などによる宗教離れ、都市への人口集中による地縁の希薄化、更に核家族化の進行により、葬儀に限らず冠婚葬祭などの「ハレ」の日には惜しみなく費用をかけるという価値観が変容したためである。
 総務省統計局が発表している「家計調査」で調査されている品目別支出金額及び購入頻度(総世帯)によると、「他の諸雑費」として計上されている「信仰・祭祀費」「祭具・墓石」「婚礼関係費」「葬儀関係費」「他の冠婚葬祭費」の合計金額は、2005年時点で50,385円であったが、2016年時点で37,389円まで下落している。

(出所)総務省統計局「家計調査」品目別支出金額及び購入頻度(総世帯)より筆者作成

これらの状況から、葬儀業界全体から見ると単価の下落が顕著であり、業界全体の課題となっている。
しかし、経済状況は現在回復期にあり、今後は葬儀単価が上がる可能性もある。
内閣府が2017年(平成29年)9月に発表した、「日本経済の現状」によると、2012年(平成24年)12月以降は景気回復期間とされており、発表時点で戦後2位の長さとなった可能性が指摘されている。日本経済全体は回復してきている。実質GDPの変化で見ると、高度成長期であるいざなぎ景気は平均成長率(年率)10%を超えていたのに対し、現在の回復期は1%台であることから、景気回復の強さは緩やかであるが、日本経済が回復傾向にあることは確実である。
また、総務省統計局が発表する消費者物価指数をみると、90年代後半からデフレが継続していたが、日銀のマイナス金利政策などが功を奏し、2013年を底に上昇傾向となっている。


(出所)総務省統計局「消費者物価指数」より筆者作成

 このように、景気が好転しているが、個人の所得に反映されていない状況である。また、葬儀に関する知識は、個々の家系の中で伝承されていくものであり、自分自身が経験した先祖の葬儀が簡素なものであれば、それを基準に考えるため、仮に景気回復が個人の所得に反映されたとしても、葬儀に対する出費は増加しない可能性がある。そのため、葬儀単価の下落は今後も続いていくと考えられる

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