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1979年アル・ディメオラ初来日と田園コロシアム

皆さんは「Bandsintown」というアプリをご存知でしょうか。
スマホに入れておくとSpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスでの視聴傾向を勝手に分析し自分がいる場所で近いうちに開催されるライブ情報をレコメンドしてくれるというアプリなのですが、これがぴあやイープラスとかのプレイガイド関係なく自分がよく聴いているアーティストやお気に入りに入れているアーティストやそれに限らず忘れていたけど好きだった意外なアーティストをオススメしてくれたりします。
https://www.bandsintown.com/

そんな「Bandsintown」が急にオススメしてくれたのがなんとアル・ディメオラ。お気にいりにいれてたっけなあ?Billboard Live TOKYO初日の3日前ぐらいのタイミングだったけどまだ指定席取れそうだったので行ってみることにしました。

アル・ディメオラと言えば速弾き、今ではハイテクメタルの超高速ギタリストも数多く犇めく時代ですが、私がギターを弾き始めた40年以上も昔、大阪での中学生の頃、世界で一番の速弾きギタリストは誰?というテーマは弾き始めたギター小僧たちにとっては大変に重要なテーマでした。クイーン、キッス、エアロスミスの当時のロック入門編から一歩進んで深堀りを始めた時期でもあり先輩方の意見を聞いたり「ミュージック・ライフ」や「音楽専科」などの雑誌で読んだ知識を聞きかじったりして頃でもありまして、ロック少年的にはレインボーを立ち上げ人気絶頂だったリッチー・ブラックモアや衝撃のインストアルバム「ワイヤード」を発表したジェフ・ベックなどがよく名前に上がっていました。先輩たちからはテン・イヤーズ・アフターのアルヴィン・リーの速弾きがすごいなんて言われてウッドストックのアルバムを聞かされたりしました。今見ても中々かっこいいです!

同じ頃に「プレイヤー」という楽器を演奏するための雑誌を別のクラスメイトが持ってきていました。そこにはベック、ペイジ、ブラックモア以外にもすごいギタリスト〜イエスのスティーヴ・ハウやフォーカスのヤン・アッカーマン、そしてラリー・カールトンジョン・マクラフリンといったすごいギタリストが存在することが書かれていました。特にジョン・マクラフリンはジェフ・ベックにもすごく影響を与えている的な記事を書かれていました。そしてジョン・マクラフリンこそが世界一の速弾きギタリストであるとも。ちょうどロックから当時クロスオーバーと呼ばれていたフュージョンの前身的なジャンルへ拡がりを見せていた時期でもありました。

自分的にはその後受験があって高校入学となるのですが同じ頃にジャズへの興味が始まります。オーディオマニアだった自分の父親がイージーリスニングから一歩進んでクインシー・ジョーンズやちょうど70年前後のマイルス・デイヴィスとその門下生たち〜ウェザー・リポート、ハービー・ハンコック、チック・コリアやデオダートやボブ・ジェームスなどのCTI系、それとクルセイダーズなどのジャズと後にクロスオーバーと呼ばれる音楽のレコード、それも名盤と言われるものを一通り買ってよく聴いておりました。子供の頃は「ビッチェズ・ブリュー」とか「クロッシングス」なんて不気味な音楽にしか聞こえませんでしたが自分も成長するにつれだんだんそういった音楽に興味が移るようになってくるものです(現金なもんだ!)父親のレコードコレクションからもらった影響については別の機会で語りたいと思いますがその中にあったのがチック・コリア&リターン・トゥ・フォーエヴァーの「ノー・ミステリー」でした。
ノー・ミステリーの1曲目「デイライド」

とてもキャッチーなメロディのテーマ、中間部はチック・コリアが当時相当気に入っていたミニムーグのソロが続きますがテーマとは違うファンキーな歌声を伴った大サビから再びサビテーマを繰り返してから入る若干21歳のアル・ディメオラの泣きのロングトーン、これにやられました!

ちょうど同じ頃「プレイヤー」と同じように演奏志向の読者のための音楽雑誌「ロッキンF」(立東舎)もスタートしかなりマニアックな内容で個人的にすごく好きな雑誌でした(「ギター・マガジン」創刊はもう少しあとの1980年)。そしてその「ロッキンF」1978年6月号の特集が初のアル・ディメオラの総力特集でした。

それによると
アル・ディメオラは
ラリー・コリエル
カルロス・サンタナ
ジョン・マクラフリン
の3人のギタリストのスタイルを統合しそれをさらに新しくしたギタリストだ云々〜的なものが書かれていたように思います。アル・ディメオラは世界最高速と言われたジョン・マクラフリンよりも速くサンタナばりのディストーションサウンドで滑らかさが違うと書かれていたと思いました。ちょうど3作目「カジノ」のリリースもありワーナー押しのラリー・カールトンやビクターからのリリースが多かったリー・リトナーに対抗すべくCBSソニー洋楽部としてはジェフ・ベックに続くギター・ヒーローにしたかったのでしょう。世界最高速のギタリストの秘密を徹底的に解説的な内容だったと思います。

そして翌年1979年、当時人気だった野外ジャズフェスの最高峰、「ライブ・アンダー・ザ・スカイ'79」にアル・ディメオラが参加すると聞いてなんと参戦を決意していました。本当にこの時期の自分のライブ参戦への積極性には我ながら驚かされますが、先にnoteで記事にした山下達郎さんやカシオペアの初体験よりもさらに早い7月27日(金)チック・コリア・ナイトの一員として初来日となるアル・ディメオラを見に行ったのでした。会場は当時もすでに高級住宅街として知られる田園調布のど真ん中にあった田園コロシアム、もうどうやってチケット取ったかもどのように行ったかも覚えていません。周りはまたもや音楽に詳しそうな大学生風のお兄さんたちばかり。アル・ディメオラ初来日ということもあって後に経験する他のジャズフェスより若い男性が多かったような気がします。一緒に行ったのはサンタナ大好きな同じギタリストのN野君ともう一人いたような気がします。ドラムのM野君はいかなかったかな?

そしてなんとこの時の音源がTOKYO FM(当時はFM東京)で収録、オンエアされておりなんとYoutubeで聴けることが出来ました!

Youtubeありがとう!

実は正直に言いますとこの時のライブもだいぶモヤモヤした印象が残っていました。と言うのもアル・ディメオラは世界最高速の速弾きをもったいぶってなかなか弾かないのです。。。

「ノー・ミステリー」の頃はまだ使っていなかったミュート・ピッキングによる超高速フレーズもすごいスピードでペケペケペケペケ言うばかりで「まるで扇風機のようだ・・・」と感じたり。ちょっとそのことをBillboard Liveでも思い出してしまいました。先日のライブでもアル・ディメオラが超高速6連符を弾くのもライブ中盤以降だったような気がします。ライブ・アンダーに戻りますがアル・ディメオラのソロコーナーで「地中海の舞踏」がちょっと演奏されていたんですね。まだ自分は「エレガント・ジプシー」は聴いていませんでした。またチック・コリアとアル・ディメオラがいるのでもっとリターン・トゥ・フォーエヴァーの曲を演奏するのを密かに期待していたのですが「セニュール・マウス」だけでした。とは言えジャズのセッションなので今回の選曲は当然かと思うし、当時は「ナイト・ストリート」も「スペイン」などチックの有名曲を知らなかった(何故か我が家には「ライト・アズ・ア・フェザー」が無く代わりにアイアートの「フリー」はありました……
)、自分がガキンチョで知らなかっただけな事が改めてよくわかりました。

チック・コリアもアコピ、ローズに加えて当時最新鋭だったヤマハのエレクトリックグランド、CP-70やミニ・ムーグなどの音色も多彩だし何しろトニー・ウイリアムス御大のドラムスフランスのフレットレスベースの才人・バリー・ブルネルのコンビが強力なことが改めて分かります。チックのピアノ・ソロで途中客席の拍手がスリー・ツーに分かれるところなどは79年にしては異常にキレが良すぎで会場がいかに盛り上がっていたことも伝わります。青木誠さんの解説も在りし日のFMジャズ番組ならではの語り口がとても素敵です。

アル・ディメオラの超高速ギターがさほど連発されなかったことでちょっとモヤモヤしたと書きましたが「セニョール・マウス」「スペイン」のラスト2曲で会場は大いに盛りあがりました。思えば高校2年生にして人生初めてのジャズフェス、野外ライブを体験し、夜の野外ライブがこんな素敵な空間だったのかと感動したことは今でもとても印象に残っており帰り道の夜の田園調布の街を大騒ぎで帰っていったような気がします。周りのお兄さんたちもそんな調子でしたのできっと近隣の方に大迷惑だったと思います。数年後、近隣からの騒音問題から田園コロシアムでの開催は中止になってしまうのもやむ無しだったのかも知れません。今、跡地は公園とマンションになってしまったと聞きましたがもう一度あの辺りを歩いてみたいなと思いました。

「Bandsintown」から始まったアル・ディメオラの想い出、Billboardでの2名のパーカッションを引き連れた演奏もとても素敵でした。そしてディメオラ以上に10代の自分に深くインスピレーションを与えたもう一人の速弾きの王者、アラン・ホールズワースについてもいつか書いてみたいなと思います。

最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!