「真夜中のドア」はどうやってシティポップのアンセムになったのか(その1)

松原みき「真夜中のドア」がSpotifyで1億回再生を突破したらしい。


ちょうど1年ほど前の2020年12月、Spotifyのグローバル・バイラルチャートで18日間に渡って世界トップに居座る記録を打ち立てた時はとても嬉しかった。1962年の坂本九さんの「上を向いて歩こう」以来、日本語のポップソングがカテゴリーやチャートの仕組みは違うが世界で(米国で)トップになったという事実はとても誇らしく感動したことを覚えている。

今や「真夜中のドア」のカバーも50曲以上を超えた。ネット上では様々な歌い手さんや若いアーティストたちがとても自然にカバーしている。最近ではVtuberさんによる「真夜中のドア」歌唱動画がとても多いことに感動する。昨年あらゆるところでこの1979年にリリースされた40年以上も前の曲がストリーミング市場で支持されたのかを探る議論がされていた。色々な諸説があるが日本国内ではこんな動きが「真夜中のドア」現象の原点になったのではないかと思う。

90年代に入ってCDでの最初の復刻ブームで「真夜中のドア」を収録した松原みきのデビューアルバム「POCKET PARK」が91年と96年に2回復刻リリースされている。それ以前の80年代からフォーク、ニューミュージック系の懐かしの名曲コンピレーションアルバムで頻繁に収録されており隠れた名曲として知られた人気曲だった。そして90年代に入って女性シンガーの伊藤真由美や斎藤誠・村田和人・重実徹ら実力のアーティストのユニット、「21」のカバーが登場し始める。90年代半ばに大ヒットしたJ-POP海外カバーグループ、A.S.A.P. もカバーしていた。また広瀬香美が1997年に初のカバーアルバムの中の1曲として取り上げててランキン・タクシーとともにダブカバーしている。このカバーアルバムは他にもサザン、山下達郎、EPO、クリスタル・キングなどJ-POPの名曲を様々なクリエイターとカバーしており現在のシティポップブームを20年以上も先取りした感覚で広瀬香美の嗅覚には恐れ入る。いずれも腕の覚えのある、または歌唱に自信のあるアーティストが取り上げる必殺の楽曲=真夜中のドア だったと言えよう。

またこの頃90年代の半ばにはクラブDJでのJ-POP曲のハウスカバー、ハウスミックスも数多くリリースされていたようだ。その中でハウスミックスの先駆者、GTSによる「STAY WITH ME」がストリーミング上でも確認出来る。同時にロンドンのDJたちの間で日本のJ-POP音源がプレイされ始め「POCKET PARK」は人気の1枚だったと聞いている。そんなトレンドを掴んでいた世界的なアーティストにUKソウルの大御所・Incoginitoのリーダー/ギタリストのブルーイがいた。ブルーイはかねてより日本のアーティストとコラボしたいと考えておりそんな彼の意向と日本制作陣の気持ちがタイミングよく合わさり制作されたのが「One Nation - Japanese Artists Remixed & Produced By Incognito」(2003年)である。この時にカバーされたのが「真夜中のドア」でありブルーイはオリジナルマルチテープからリミックスを仕上げ素晴らしいトラックとなった。



またこの時同時に制作されたのが通称「真夜中のドア~Original club mix」とされているトラックだ。これは「真夜中のドア」のオリジナルアナログマルチから各トラックをデジタイズし原曲のミックスをできるだけ損なわないようにリミックスしたバージョンで定位や低域を補正したものでDJプレイ用にフェイド・アウトギリギリのピアノプレイまで収録したトラックだ。この時ブルーイのトラックとこの「Original club mix」がコンパイルされた12インチアナログがプロモーション用に制作されこれがその後、世界中に拡散する「真夜中のドア」の源流になったのではないかと睨んでいる。


Miki Matsubara – Stay With Me
レーベル: Flight Master – LSP-01056
フォーマット:
レコード, 12", Promo
国: Japan
リリース: 2003年
ジャンル: Electronic, Pop
スタイル: House, Jazzdance
収録曲
A Stay With Me (More Bounce To The Ounce Mix)
Remix – Jean-Paul "Bluey" Maunick*
B Stay With Me (Original Club Mix)
Mixed By – D.O.I.

このトラックは現行「POCKET PARK」もボーナス・トラックとして収録されストリーミングでも聴けるのでぜひチェックしてほしい。(次回へ続く)


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