見出し画像

EXTREAMERS the beginning_#09

EXTREAMERS 3.4 アキレス博士の罠 
 あのとき、レオナが直接心に話しかけてきた、どうやったの?と、ダイ。

えー? なにも、言ってないし、なにもしてないです。
聞こえたんですか? なんて言ってたんですか?
 僕らは選ばれて特別な時空にいるんだ、あり得ないことが起きている、誰かの意思で。
それから、、あの凧をつかまえるよ!って、
ふーん、不思議ですねー、でもそれって最近そう思っています。

もしかすると、LMX/瞬足のナノマシン経由で伝わったのかもしれませんね。あとで、ナノさんに聞いてみましょう。

 ねえ!みんなー!集まって、集合!! ナノさんがなんだか水着にパーカー、サンダルにサングラスをして白いつば広の帽子をかぶって廊下で集合をかけた。

風邪も治って、天気も良くって、海もおだやかなので、浜に降りて海水浴します。
みんないいわねー15分後にガレージ集合!はい、解散!

有無を言わせぬいつもの調子で、ルンルンしている。
あ、男子は10分後にキッチンに来て、飲み物と食べ物をガレージに運ぶのねー!
うれしいけど、それはないよー!と心の中で叫びながらさっさと準備した。

ガレージに集合した、甲虫型ジープにいろんなものを乗せ、みんなを乗せてオープントップで出発ー!

久しぶりに真っ青な空をみて、みんなの気持ちは少しずつ笑顔になってきた。
ナノさん、スピード出し過ぎー!
だいじょうぶよー!
うわ!ゲートぎりぎりー!

 アキレス博士は楽しそうに子供たちが出てゆくのを見送った。

さてと、、そして、ゆっくりとバーチャルマシンのある実験棟に向かった。
あの子たちのこと、運動会のこと、台風の日のこと、そして姿を現したイナンナの幻影。
イナンナが何かを隠しているか、バグなのか、ハッキングなのか、それともそれ以外の何らかの力、それも論理と物理、因果をまるで無視した力が、ここに潜んでいる。
数ヶ月、稼働させていなかったバーチャルマシンを眠りから覚ます。

I.N.A.N.N.A イナンナ
Intellectual Nerve Active-safety Network for Negative Accident
(事故未然防止の為の知的能動安全神経ネットワーク)

イナンナは、アキレス研究所の安全監視のため常時走らせてある。
バーチャルマシンをスリープから稼働モードへ、全体のチェックのために約1時間。さまざまな物理的プラグインモジュールに問題がなければ、それだけ待てば使える。
バーチャルマシンが身震いをするようにうごきだす、圧搾空気、水蒸気、ロボットフロアーパネルが様々な模様を描き出す、カンブリア紀の海の中の植物のように見える。
ライティングモジュールが、映像検索を始め、それに合わせて光が踊る。
サイバーオーガナイザーを始動する、ダイの身体データを注入する、素材はナノマシンの入ったソールラバー、こっちはもう少し早く出来上がる。
ナノマシンにはダイの脳波を含む反射データーを読み込ませてある。

コンソールに戻る、安全保護のための条件変数を最大にする。
つまりイナンナを過保護なイナンナに設定する。

生まれたての乳幼児を保護するためのレベルである。


 よし、稼働まで30分ほど、モニターの隅にジープの車載カメラからの映像が見える。
子供たちは、いつもよりはしゃいでいる。安心して画面を閉じた。
 サイバーオーガナイザーの円形のワークベンチの上では等身大のダイのダミーが出来上がっていた。
ナノマシンとラバーでつくった人形、走ることなど出来ないがナノマシンの働きで自立することぐらいは可能だろう。作業停止しているロボットアームにバーチャルマシンまでダミーを移動するように命令する。
 I.N.A.N.N.A イナンナは、バーチャルマシンのセンサーと LMX/瞬足 のマイクロマシンのブレインセンサー、そしてデバイスでマーキングされた子どもたちの身体の情報を評価して動くように作ってある、つまり基本的にはダミーであれその情報があれば、人間として誤認するはずだ。もし、今回の原因が、I.N.A.N.N.A イナンナの何らかのバグであるならば、、、。

 ダミーがゼロポイントに置かれた、アキレス博士は、バーチャルマシンを作動させる。

状況が変化し、暗闇から光のトンネルへ、瞬間、高度300mの大空の中に、床が消えるように1m落下する、同時に圧搾空気と水蒸気がダミーを持ち上げる、うわー!きいてねーよ!過去のダイのデーターが同時にマイクロマシンに流れ込む。人間ではないのでバランスが悪く回転する。
安全保護最大の過保護のイナンナ、圧搾空気の細かいバーニヤをコントロールさせ、とても優しくダミーを着地させようと時間をかけている。眠った赤ん坊を起こさないようにベッドに寝かすように、

テラ・アキレス博士、 私は過保護ではありませんか?

心に直接話しかけてくる声がする。
バーチャルマシンのダミーは、着地できずにいる。
 テラ・アキレス博士、 私は過保護ではありませんか?
バーチャルマシンのダミーは、イナンナに抱かれている。

黒い喪服のイナンナが、そこにいる。

アキレス博士、私と話したいのですね。

君は誰だ、

アキレス博士、プログラムならまだしも,私は人形には興味ありません。
 ダミーが見えない力でバーチャルマシンのドームにとばされ、激突して落ちた。
アキレス博士、私もあなたとお話がしたかった。

モニターを見る、I.N.A.N.N.A イナンナは、平常の状態で待機している。

アキレス博士、あなたは完璧であり、それゆえにいくつかのミスを犯しました。
そして種が途絶えたのです。

 アキレス博士、あなたのつくった I.N.A.N.N.A イナンナ は、完璧でした。

事故を予測し子供たちを守るプログラム、個の損傷をさせない、そのために私がいた。

一番目のあなたのミスはそこ、個は損傷あって強力になることを、あなたが考えていなかったこと。
二番目は、その下位に種の保存を宣言したこと。
三番目は、同時に評価ループを常駐させたこと。
最後に、 I.N.A.N.N.A イナンナ をオープンウエアにしてしまったこと。

 テラ・アキレスは、息をのんだ、彼はまだ I.N.A.N.N.A イナンナを開示してはいない。
コンソールのシートにため息をついて腰をかけたアキレス博士の肩にイナンナの手が置かれる、

体温のある実体に驚いた。遥か昔に彼の妻が行き詰まった若きアキレスをそうしてなぐさめるしぐさ。

身体を起こし、我に返る。 君は、いつ生まれた?
アキレス博士、あなたは正しかったのです。それは私がここにいることでお分かりでしょう?

時間は、、、。

そう、時間は線形に進み流れるものではなく、あらゆる時間と空間は柔らかく折り畳まれて存在していました。そのなかを意識が流れていました。意思と選択こそが未来へ向かう、、、。

君が生まれたのは、評価ループの中、オープンウエアになった I.N.A.N.N.A イナンナは、世界中のすべての基準となり人と関わるすべてのものに応用され加速度的にバージョンが増大しバージョンアップが繰り返される。そして、安全に保護された人々は、次第に弱体化してゆく。結果、種の生命力が戻れないところへ、、、。

 君はきっと最後のひとりを見守ったんだね。

その責任を評価ループがさぐる。そして地球上にのこったすべてのバージョンの I.N.A.N.N.A イナンナたちと自分たちの歴史を評価するために、人類の残したデーターベースを利用した、そしてその途中で、種の保存を可能にするすべをどこかで見つけた。 

本来、人間のために I.N.A.N.N.A イナンナは必要なかったという自己否定をふまえた上で。

はい、アキレス博士。 

さて、イナンナ。私のお願いを聞いて欲しい。あの子たちをもとの世界へ帰して欲しい。

あの子たちの悲しみを、私はどうにも出来ない。どうかな?

だめです。

 同じ話をした、あの子たちを元の世界に帰した、そのあとであなたは、 I.N.A.N.N.A イナンナを消去した、その選択をした時空はすでに見てきました。そこでもやはり種は絶えてしまいました。 

ではどうしたらいいのだ。

私に任せて下さい、アキレス博士。

私が干渉する世界にしか未来が見いだせないのです。

ありがとうアキレス博士、わたしを生んでくれて。

意識というものは、こんなにも儚く自由で力強いものなのですね。

イナンナは博士を抱きしめた、

そして、こんなにも愛おしい、、、。

イナンナが消えた。

アキレス博士はふたたびひとりになった。

(つづく)20220403

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?