少年ギター外伝/マキシ_3
納屋の裏手には小川がある下流の田畑に水を引く水源のようだった。
目を覚ました、柔らかで暖かい藁の上に何重も敷かれた毛布のベッドの上で。僕を暖めてくれたマキシはいなかった。
天蓋付きの寝床から出る、竈門に火がついていてケトルに湯が沸いている。
少年、
と呼ぶ声に振り返るとうっすらと朝霧を纏ったマキシが小川の辺りで髪を梳いている、黒い肌着から白い肌が透けるように見える。
二の腕が特に柔らかな印象を描く、
少年、おいで!拭いてあげるよ。
そう言うとマキシは太陽のように笑った、
よく見ると濃い化粧がすっかりなくなって優しい眉毛の女の人だった。
おはようございます、
僕はそう言って川のたもとに立て膝をついている柔らかなマキシに近づいてゆく、
ある距離からは吸い込まれるような感覚で自分の意思とは関係なく近づいていく。
さわわと流れる小さな川で黒いタオルを濡らし絞って僕の腕を胸を背中を拭いてくれた、
もういちど冷たい川の水で洗い絞る、
顔が火照るほど冷たいタオルがそのまま髪を拭く。
すんと体が冷えてくしゃみが出る、
目を見開いてまた太陽のように僕をみて笑った。
なんだか子供扱いされた気がしてちょっと悔しかった。
よくねた?
はい、よく寝ました、
お腹は?
空いてます、
そのやりとりにまた目を見開いて僕のことを覗き込むようにクスッと笑った。
オッケー、さあ何かたべなくちゃねと背中を拭き終えると一瞬抱きしめられた、
柔らかさに包まれて返事ができなかった。
昨日作ったツイストパンを焚き火であぶる、ホイルの中に残ったソーセージに鶏小屋から持って来た卵を落として2人で分ける、いちごジャムが出て来た、
布袋にコーヒー豆をいれて石で砕くその中にお湯を注いでマキシは美味しそうにコーヒーを作って飲む、
長いパイプに甘い香りのするタバコを詰めて幸せそうに煙を吐いている。
少年、はい、今日はこの先へ行かないとね、うん。
後片付けと化粧をしている間に、ギターをチューニングして、
はい。
いいこと教えるから。
はい、
その間、僕はゆったりとした袖なしの服から見える薄い脇毛とその先にある胸へつづく名前のないあたりから目が離せないでいた。
蝉が鳴いている、
大きな雲が抜けるとすべてが色濃くなった7月29日、
僕はアポロの月着陸のテレビ中継を見ずにマキシを見ている。
(つづく)20220402
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