08平塚

シリアル・イノベーターという超人待望論

結論から言おう。超人など存在しない。多様な才能を持った凡人達が結集することでシリアルイノベーションチームとなることを目指すべきだ。

シリアル・イノベーターとは

シリアル・イノベーターとは、アビー・グリフィンらが書籍「シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀」で提唱した概念で、組織に属しながらブレイクスルーイノベーションを繰り返し起こせる人の意味である。シリアルイノベーターには以下の6つの素養があるという。

・パーソナリティ(Personality)
・パースペクティブ(perspective)
・モチベーション(Motivation)
・構え(Preparation)
・プロセス(Process)
・社内における政治的駆け引き(Politics)

原文のかっこいいキーワードだけではいまいち意味がつかめないので超訳すると、

・デザイン思考とシステム思考を両立できる知性
・社会に価値を提供したいと願う利他心
・困難に立ち向かうことを好むチャレンジ精神
・顧客の真の課題を見極める観察力と洞察力
・必要ならルールも破る胆力
・社内における政治的駆け引き

といったところか。著者によれば、シリアル・イノベーターの数は「ほぼ300人中1人」だと推定されている。

シリアル・イノベーション・チームを目指すべき

シリアル・イノベーター論の欠点は、「チームワークという人類最大の発明の否定」にある。なぜ集団は個人よりも強いのか。それは集団に属するそれぞれが1つの目的のために自分の長所を活かして分業するからである。たんなる頭数が強さではないのだ。イノベーションを起こすために6つの素養が必要であるのなら、それぞれの素養を持つ6人を集めるべきではないのか。超人など存在しない。多様な才能を持った凡人達が結集することでシリアル・イノベーション・チームとなることを目指すべきだ。

もっといえば、シリアル・イノベーターはイノベーションを阻む組織内の様々な圧力に打ち勝つ力を持っているとされているが、であれば組織の方を変えるべきではないのか。組織としてイノベーションを起こしやすい組織文化をつくることができれば、300人中1人しかいないはずのシリアル・イノベーターが30人中1人の割合で現れるかもしれない。

シリアル・イノベーション・チームをつくるのは社長

組織としてシリアル・イノベーション・チームを目指すとして、だれがそのチーム作りの仕事をするかといえば、それは社長であろう。前述の通り、シリアル・イノベーターという概念は組織内にイノベーションを阻む様々な圧力が存在することを前提としている。そこを改善せずにただ超人の到来を待ち続けるのでは社長の職責を果たしているとは言えない。

6つの素養を一つのチームに集めるために社長にできることは概ね以下のようなものである。

デザイン思考とシステム思考を両立できる知性
顧客の真の課題を見極める観察力と洞察力

社長は人事部門に命じて適切な人材を探させることができる。なお余談ではあるがデザイン思考という概念にはもともと観察と洞察が含まれている。

社会に価値を提供したいと願う利他心
社長は広報部門に命じて社会価値提供を謳う社是を世間にアピールさせ、理念に共感する人材を集めることができる。

困難に立ち向かうことを好むチャレンジ精神
社長は現場リーダーに命令して、弱気になった従業員を鼓舞させることができる。現場を鼓舞できる人材の数はシリアル・イノベーターの数より圧倒的に多い。

必要ならルールも破る胆力
信賞必罰は組織の維持のために必要だがイノベーションの妨げになる。社長はイノベーションを起こすための子会社を設立する・社長直属の新規事業開発チームを設立する、等でイノベーターを守るべきであるし、社長にはそれだけの権力がある。

社内における政治的駆け引き
会社において最大の権力者である社長がイノベーターの味方につけば政治的駆け引きは不要になる。世の中には社長よりも事業部長の方が偉いという変わった社風の会社もあるらしいが、それでも社長こそが社内対立の調整にもっともふさわしい人物だろう。

昨年7月にはISOで「イノベーション・マネジメント・システム」なる業務工程管理の国際規格が制定されたという。個人に依存せずにイノベーションを実現することが当たり前の世の中がいずれ来る。社長の皆様にはそれに備えて今から準備をお願いしたい。

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