10小田原

デザイン思考はデザイナー的なものの考え方ではない

デザイン思考とは本来は「デザイナー的なものの考え方」の意味だが、いま流行しているデザイン思考は微妙に違うものである。違いは「無秩序性」である。以下に解説する。

デザイナーと幼稚園児の粘土細工

まずは読者諸兄に小学校の頃を思い出していただきたい。粘土細工を作るとき、小学生の諸兄はロジカルに土台・骨格・肉付・表層の階層構造を意識しながら粘土細工を作っただろうか?

そんな小学生はほぼいないだろう。まずは思いつくままに適当な形をつくり、その適当な形からインスパイアされてイメージが具体化され、次の造形へと繋がるフィードバックループが生じていたはずである。これがデザイナー的なものの考え方である。

本来、デザインには正解がなく、正解を得るための正解手順もない。そのような状況でデザイナーは何をするかというと、まず脳内で無秩序に奇抜と現実の間を行きつ戻りする。そして思索に行き詰まると手を止めて依頼主にヒアリングしたり一見無関係な情報(絵画を鑑賞するとか座禅を組むとかおいしいご飯を食べに行くとか)をインストールしたりする。もちろんシステム思考に基づいて実現可能性の検証もする。重要なのは無秩序ということである。

デザイン思考と「反復」

他方、スタンフォード大学d.schoolの提唱するデザイン思考に無秩序性はなく、その代わりに「共感/問題定義/創造/プロトタイプ/テスト」の5つの工程を「反復」するとしている。

「反復」とは、ようするにチームリーダーの管理の元に、チームとしてプロセスの各工程を行きつ戻りつすることである。基本的にはプロトタイプとテストの繰り返しであるが、自分で定義した問題すら自己否定して「共感」工程(ユーザー調査のこと)にまで戻ることもある。チームとして無秩序に動くことは不可能なので、妥当な代案であるといえる。

すばやく「反復」せよ

これまで述べたように、デザイン思考は本来のデザイナー的なものの考え方とは微妙に異なるものである。では本当にこのデザイン思考で(いわゆる「厄介な問題」の代表例である)イノベーションを実現できるものであろうか。

筆者は「すばやい反復」によって本来のデザイナー的な無秩序な思考に近づき、イノベーション実現にも近づくことができると考えている。すなわち、まず「あらゆる決定は仮説/あらゆる作業は仮説検証作業」という価値観をチームで共有した上で、素早くプロトタイプをつくり素早くテストして素早く問題定義や創造(企画提案)の誤りに気づいて素早く修正することである。ペーパープロトタイプやコンセプトテストなどの手法はそのために存在する。

もっともやってはいけないことは、前工程での判断が間違いだったと認めたくないばかりに自分に都合のいい結果が出るまでテストを繰り返すことである。これは一見「共感/問題定義/創造/プロトタイプ/テスト」の5つの工程を正しく経ているように見えるのでタチが悪い。しかし反復がなければそれはもうデザイン思考ではないのである。

「反復」は従来のウォーターフォール開発ではありえない特異な概念であるので、ウォーターフォールに慣れきった人には実践は難しいかもしれない。しかし、イノベーションという偉業実現のため、時には戻る勇気を持って欲しいと願う次第である。

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