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象徴の破壊 [20240322]

象徴の破壊

はじめに

今日は物語の構造についての考察である。現在の僕は、物語において、最も大切なのは象徴とその破壊であると考えている。日常生活のなかで人間はいくつかの対象に対して、象徴性を付与する。それは対象の性質を増幅して主観によって変型させた、主体の観念的創造物である。それにもかかわらず、私たちは象徴性に反する行動を対象が取ったとき非常に大きな落胆を覚える。主体的に生きている限り、主体としての自己を意識することはできないということの表れかもしれない

このような象徴の象徴性の喪失を多くの人は比較的重大なものと認識する。作品世界の創造主たる作者は、この種の喪失をうまく構成することによって、印象に残る作品を創造することが可能である。

三島由紀夫の金閣寺を例に挙げる

三島由紀夫の金閣寺は、「正の象徴とその破壊」というテーマが通底している。正の象徴がたくさん登場して、自壊したり破壊されたりする。それに対して醜悪の象徴たる主人公は、徐々に具体物としての正の象徴に関心を失い、抽象概念、超現実概念としての絶対的な正の理想を自己の内部に定立する。無論これは実体を持たないが認識できるという点で虚像と同じ性質を持っている。虚像との相違点は、像が可変であるという点である。夏の日のカゲロウのように、理想は常に自分が手の届かない範囲へ逃走する。また、理想と虚像はある一面のみを写すという点では共通している。誰一人として理想を捕捉し得た人間は存在しない。これは理想の逃走性、不完全性によるものである。

主人公がどうして金閣寺の放火を思いついたか。元は、単なる自分の醜さ・吃音に対して劣等感を抱く自閉的傾向のある学生だった。最終的に犯行に至るまで、客観的に重大に見える事件はひとつも起こっていない。逆に客観的に仔細に見えるような事件が主人公の歪曲したフィルター・優れた哲学的思考によってその重大さが増幅され脳内を支配して、犯行に至るのである。

金閣に付与される美の象徴。主人公にとって金閣は芸術的な美から官能的な美まであらゆる種類の美を象徴する。なんども描出されることによって、徐々に読者もその独特の感覚を獲得してゆく。そして、現実の具体物の凡てが金閣の絶対的な美に劣ることに、はじめは半信半疑であったが、さまざまな経験を積み確信を得てゆく。そして、その美の象徴の破壊、いやその美の象徴を火に包むこと(金槌で壊すわけではなく、烈火によって破壊するということもある意味象徴的である)を思いつくのである。
現実に存在する美を装った虚構は、内部に存在する美の象徴に敵わない。完璧ではないにしろある一面では美的な具体物を愛するためには、美の象徴を克服しなければならない。というように。
「金閣寺」における金閣は、人物の行動を制限する、究極の理想の象徴を担っていた。

鶴川はにこやかな青年、濁った側面がまるでない好青年としての象徴。自分も中高生活の中で抱いたさまざまな感情があり、友人を象徴的存在に変換したことが多分にあった。金閣寺との相違点の考察も含めて、鶴川に関してはは今度詳しく述べたいと思う。

象徴化は人間の根源的性質

象徴化はひとびとが生得的に有するものであり、赤子が環境に適応するために行うパターン化の根底にある作用である。

生まれたばかりの赤子は生きていくために周囲の状況を把握するべく、動き回り、物理法則から社会的慣習まで徐々に獲得する。数々の具体物に接触、挙動を観測し、それを記憶することで、未知の対象でも類似物であれば対応が可能になる。パターン化は個別の具体物の事例を一般化して、別の具体物に適用するという行為である。

象徴化は対象が、増幅された対象の性質と紐づけられることである。パターン化の前段に該当する。つまりパターン化を実行するときにかならず象徴化が実行されているということだ。

他にも象徴化は人間生活の奥深くに根ざしている証左は山ほど存在する。

またいつか書くと思うが、ぼくは(いい意味で)驚かせるのが好きだ。驚かされるのが好きだから。「サプライズ〇〇」が歓迎されることからして、多くの人間にとって、驚くこと・驚かせることは好いことなのだと推測できる。そして驚くという行為は象徴化・慣習化(象徴化の一形態であるが、よりやさしいことばであるため記載した)した対象がそれを裏切る行動・状態を示したときに生じるものである。

自分は驚くこと、ステレオタイプを抱くことに対してとても興味があり、象徴化は自分の興味範囲にガッツリ合致している。人間の根源的性質だから、合致しているわけではなく、ただ自分が持つ醜い思考の多くの原因を象徴化が占めることに気づこの人間の象徴化について詳しく調べてみたい気が湧いてきて、元から興味があったような感覚を抱いているだけ、なのかもしれないが。

とにかく、象徴化の研究がいま自分のなかでホットだ。これを大学で深く研究できたら、めちゃくちゃいいクリエイターになれる気がする。たぶん。


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